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28  紙くずの努力


 ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ!!!!


 震えが留まる事を知らない。知ってくれ、留まる事を知ってくれ頼む!


 やばい、人が多い、怖い!!自己紹介の時の数倍は緊張する。大道芸人や劇場で劇をする人はこんな地獄を毎回味わっていたか。



 観客席にはエルザや巴、意外にもゴウキを初めとした1年生や街の暇をもてあました老人から仕事をさぼっている先生、寮の管理人のお姉さん(案の定寝てる)まで。



「なんだよタケシ、ビビってんのか?」


「誰がタケシだ。別にビビってねぇし、緊張はしてるが……」


「ふっ、安心しろ。俺達のこの一週間、地獄の特訓の日々を見せる時だぜ。ヘイカモン、カンナ!鏡の貯蔵は十分か?」


「いえーす、アル。よっこいしょ」



 カンナが背中の風呂敷から取り出したのは、大量の小さい丸い鏡。そしてチャイナ服の懐から取り出したのは、我らが秘密兵器―――



『先行を取ったのはアキレスチーム。荷物の中身には大量の鏡。一体、何をする気なのでしょうか!?』



「まずは俺達のターンだぜクロウリー」


「お好きにどぉぞ。……で、なんだいそれは?御札?」



 独特な形の記号が描かれた御札。記号魔術には一つ一つの紋様に意味があるらしいが、これは更に複雑。吸血鬼の一族に伝わる秘術。


 ―――疑似魂付加札。それを適当にペタペタと鏡に貼り付けていく。



「……な」



 クロウリーの眉が驚いたようにピクッと動く。


 すると、カタカタカタカタと独りでに大量の鏡が動き出した。


「ホワチャァー!!」



 気の抜けたかけ声をカンナが勢いよく上げると、うごめく鏡が宙へ生き物のように浮いた。


 疑似魂付加札。


 その効果はその名の通り、疑似的な『魂』を物体に付加させる事が出来る。疑似魂が付加された物体は、己の集中力が続く限りどんな風にも操れる。



 噂に聞く、付喪神的なあれを意図的に作り出すってイメージでいいらしい。


 見たことも聞いたこともない現象を目の前に、観客は早速驚きと期待にざわつき始める。



『鏡が、鏡が浮いております!独りでに、まるで一つ一つが意思を持つように空中を浮遊します!空間魔術の応用でしょうか、それとも風の魔術でしょうか?解説のベリアル先生、どうでしょう』


『これは驚いたな。魔術的な魔力を一切感じない。感じれるのは微力な線、カンナの『魂』を中心に蜘蛛の糸みたいに鏡へ張り巡らされている。噂には聞いていたが、これほどとは。だが、ここからどう応用するかが問題だ』



 珍しく真面目な顔をして宙に浮く鏡をマジマジと見つめる。魔術の専門家もこれには釘付けのようだ。



「これを、こうして、こうアル。よしアキレス準備バッチリアル。いつでも撃つネ」


「ナイスだカンナ。よしカツジは配置につけ、後は俺に任せろ」



 アキレスの指示に頷き配置につく。ここからが問題だ。カツジの迅

速な行動が後の披露に関わる。


 アキレスは掌を一つ、ちょうどアキレスの目線と同じ位の高さの鏡に向け、『光』を放つ。すると、ピキン!ピキン!と放たれた『光』のレーザーは鏡と鏡を反射、反射、反射していき何個もの線を空中に描いていく。



 点と点をつないでいき、一つの絵のような物を型取っていく。下には八本の脚を思わせるような形、上は風船のように丸く大きい。



「カンナ、頼む!!」


「任せろ、アル!」



 両手を天へ掲げるカンナはなんとか片手であるものを浮かせ定位置につかせる。実にその数、数十個。一人で操れる量としてはこれが限界だ。


 そしてここからがカツジの出番。指先に力を込め、魔力を『魂』に通しイメージを固める。



「一瞬だけだから、瞬き厳禁だぜみんな!!」



 破壊の力、幾度となく炸裂を繰り返し、自然物、人工物、神造物さえ、物体としてあるのならば破壊する。しかしその輝きは心と体を焼き焦がす。しかと目に焼き付けろその波動!芸術は爆発だ!!



「『爆』ッッ!!」



 ドッッガッッ!!!と轟音が鳴り響いた。ちょうどカンナが持ち上げた小包の中心を狙って、何十個にもわたる小規模爆発が起こった。


 そして描かれたのは―――



「これ、は」



 クロウリーが目を見開いたまんま呟く。



『これは、誰もが知っているあの方!!タコ校長、タコ校長を見事に再現しております!!なんと使った魔術は三つだけ。しかしこれほどに大規模に、大胆に空をキャンバスのように扱うまさに巧み技!!ベリアル先生、どう思いますか?』


『いや、かなり凄いぞ。そもそも「爆」は扱いにくい上に制御が空間魔術の次に難しい。だがあの小包の中心を正確に狙って、しかも大きさを均等に揃えるなんて相当練習したんだろう』




 描かれたタコ校長は、沢山の吸盤や独特な紋様を見事に爆弾の点で表している。ちなみに小包の中身はある特殊な粉で、火にぶち込むと色んな色の炎が出来るという安物のおもちゃを使った。



『俺からの評価は星4.5と言った感じだな。さて、次のクロウリーの披露に移ろうか』



「さぁてクロウリー、お前の番だぜ」



 レーザーを出し続けていたおかげでだいぶ魔力を消費し、汗を額から流すアキレスは人差し指をクロウリーに向ける。そして当本人はと言うと、



「―――おいおい、この程度で自慢げにされても困るなぁ。確かにそこの包帯の魔術はとても興味引かれる物だったけど、所詮はその程度だよ」



 ケロッと笑い余裕の表情だった。こんな時でも他者を見下し、自分の余裕を崩さないその傲慢っぷりには一周回ってスゴイとも思う。


 クロウリーはステージの前に立ち、華麗に一礼を決め、



「それではこのブラウス・ロン・クロウリーが最高のショーを皆様方にお見せすることを約束をしましょう」



 その一言に、会場は大いな期待と熱狂に包まれる。カツジだったらプレッシャーに押し潰せれそうになるが、そこは領主の貴族様。表情一つ変えずにその期待に応える。



 まず最初に取り出したのは、ステージの隅っこに置いてあった二つのリング。大きさは小さい子供が一人すっぽり入るぐらいの、大きくも小さくもない微妙な大きさのリングだった。



 ヒュッとクロウリーの指先が上を向く。するとクロウリーの後ろにいくつもの水が吹き出し、水のカーテンを作った。



 水のカーテンは常にクロウリーのバックにたたずみ、尽きることがない。両手を左右両端に向けると水と風を応用した渦巻きが出来る。


 水のカーテン、そして二つの渦巻き。これを消失させずにずっと残らせてる時点で化け物じみた魔力保有量なのだが、



「本番はここからさ」


「なんじゃありゃ!?あの生き物は!?」


「い、角イルカアル!角イルカが渦巻きからひょこっと顔を出したネ!!」



 渦巻きの中から現れたのは、またしても水で作られたイルカに似た角の生えた哺乳類。


 まさか、あのリングは……



 ゴクリ、と思わず唾を飲み込む。



「さぁこれより、角イルカショーの始まりでございます!最初は、角イルカ達が宙を舞い回転します!」



 何を言っているんだこいつは。と一瞬思ってしまった。しかしそれを可能にするのが天才。クロウリーの言った通り水で作られた角イルカ達は、地面を潜るように動き、ジャンプ。そして回転!


 本当はそれっぽく水の形を変えながら操ってるだけなのだが、本物にしか見えない。



「続いては、角イルカ達がリングの輪っかを通ります。無事成功いたしましては、盛大な拍手をお願いします!」



 クロウリーは両手に持っていたリングを高く空へ上げる。そして晴れた空に角イルカが飛び、リングに掠ることなく輪っかを通り抜けた。二匹目も同様である。


 そして最後に、一気に水を凍らせてフィニッシュ。芸術作品といっても差し支えない一品が完成した。



「「「おおおおおおおおおおおおおお!!!!」」」



 賞賛の声と拍手喝采が会場全体に響き渡る。


 実力、そう実力の差を見せつけられた。もう完全にその手のプロだよ!勝てっこないよ!!



 そこに追い打ちをかけるようにクロウリーはニヤリとこちらをみてほくそ笑む。



「―――おい、何諦めてやがる。まだ勝負は始まったばっかだろうが」


「アキレス……?」


「カンナも、カツジも、ここで諦めたてどうする!?あっちは天才、実力の差もある。観客の指示も多い。だからどうした!?この闘いは凡人だって天才に勝てることを証明する闘いだ。当事者である俺達が諦めてどうするんだ!!」



 アキレスは拳を握り、張り詰めた声で叫ぶ。



 はっと目が覚めた。そうだ、何を考えていたんだ。まだ勝敗は決まっていない、ならば凡人は凡人らしく最後まで紙くずみたいな足掻きを続けるのが筋だろう。



 それに、仲間がまだ諦めていないんだ。それに応えずにいて、何が仲間だろうか。



 パンパン両頬を叩き、さっきまでの悪い夢を振り払う。



「うっし、やる気出た!たとえ勝てなくても、俺達はベストを尽くす!鬼の誇りを見せてやらぁ!」


「そうアル!アキレスの言う通りネ。よっしゃー!」


「次は、俺達のターンだぜ!!」



#####



 その後も激戦は続いた。


 血が滲むような努力と、天から授かりし才のぶつかり合い。



『「岩」を作り、何か集中し始めたぞ!?一体何が起こるのかクロウリー君!?』



 指先を二メートルくらいの長方形に形を揃えた岩に向ける。すると、


『ななな、なんと!?独りでに岩が削れ始めたぞ!?クロウリー君はただそこで指先を振るっているだけ!一体!何が起こっているのかぁ!?ベリアル先生』


『空間魔術の応用、切断派生だな。空間魔術は定義的には有機魔術と同じとされるが、実際は空間魔術は作り出すことは出来ない。その正体は己の魔力で「空間を捻じ曲げて操る」魔術だ。要するに、だ。端的に簡略すると岩を空間ごと捻って破壊してるんだよ。相当な変態テクニックの持ち主でないと出来ない。俺もこれはさすがにキツい』



 流石のクロウリーも、複雑で緻密な魔術はケロッとした顔では出来ない。集中し顔を引きつらせて、しかし苦戦する様子は見られずにどんどんと岩を削っていく。


最後は自分の手で修正を行い、台に乗せたら――。



「えー題名は、美しき魔獣イッカクイルカ」



 見事に水面から飛び出るイッカクイルカを再現して見せた。ちなみに、イッカクイルカとは角イルカの成体であり魔獣に分類される。しかしその妖艶な姿と美しい角に人々は魅力されるという。


 確かに、凄い。しかし、カツジ達だって負けはしない。



「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!!!」


『おっとこちらは何やら木を色んな形に斬っている。というか勝手に学校の木を斬らないで頂きたい。しかしそこは置いておいて、一体何を作っているのだろうか』


「へいパス」


「サンキュー」



 色んな形に斬った木材をカンナに手渡し、その木材をカンナで形を整えたり研磨したりなんなりしていく。そしてアキレスとは何をしているかと言うと……



「ええっとどうだったか。確かここはこうで……。カンナー!ここってどんなポーズだったっけ!?」


「テメェちゃんと読んでけつったべ!!何で分かんないアルか!?ここは左手の掌を向けて、こう!」


「しょうがねぇだろ色々忙しかったんだから!」



 アキレスは『地』により何か巨大な土台のような物を作っていた。土台と言うよりは、フィギアなどの中身に入っている重心を支える針金に近い物を『地』で作っていた。


 その大きさ実に5メートル。かなりの魔力消費量にアキレスの体はヒーヒー悲鳴を上げていたが、そんなを無視してカンナは労働を命じる。



「よし出来た。恐ろしく早い加工……、ワタシでなきゃ見逃しちゃうネ」


「出来たんなら早くしてくれー!汗が、汗がヤバい」


「分かってるアル。よっこらしょ」



 加工した木材とその巨大な土台に疑似魂付加札をペタペタと貼り付け、木材を土台にくっつけていく。



「おい、アレってまさか…」


「アレだよな、アレ!!」



 観客の誰かがポツリと呟く。そのぶつは誰もが知っている、子供から老人まで幅広い層で長年愛される皆のヒーロー。



『完成したのはあの有名な小説、「異世界戦士イキリマン」に登場する巨大ロボット!イキリンダー03だぁ!!私も大好きです。早く新刊でないかな』



 確かにこちらはクロウリーのように小器用な事は出来ない。精々このような雑な人形を作る程度だ。しかし、作る物に拘れば話は違う。


 皆の人気者を作れば、魔術の腕を多少誤魔化せるし支持を多く得ることが出来る。



「………やるじゃないか」





######




『さぁそろそろ互いに疲労が見えてきた。両者の残りの魔力的に次がラストの披露になります。両チームとも素晴らしい魔術を見つけてくれました。果たして、勝利を勝ち取るのはどっちだ!?』


「はぁ、はぁ」


「………………っく」



 両者共に完全に疲労しきっていた。魔術をろくに使っていないカツジでも、内側からブレーキがかかっているのを感じる。横のカンナも汗で中身が蒸れてるのか今にも包帯を外しそうだ。


 ……というか、カンナって包帯取ったらどうなるんだ?いや、今はそんなことどうでもいい。



「―――思ったより、やるじぁないかぁ。甘く見てたよ、凡人には凡人なにの強さがあるってことだぁね」


「なら、前の発言は撤回するか?」


「否、僕が君たちを認めても発言の撤回はしない。事実だしね。――決着をつけよう、アキレス君。僕は君たちを敵として認める」


「あぁ、こんなくだらない動機の闘いは終わりにしよう。お前にターンを譲ってやるよ」


「ふ、あまりの天才ぶりに絶望するんじゃあないよ」

 


 そう言って初めてそれらしい笑みを浮かべた。




 クロウリーにとって、初めての経験だった。彼の人生は正に、孤高の天才。この一言を表したような人生だった。しかし、今、この瞬間だけ初めて心の底から「楽しい」と思えた。



 はっきり言ってしまうと、ライバル的な存在かと言われればそんな事はない。対等とも言えない。だって僕の方が凄いし、という傲慢さは相変わらず消えない。


 ……しかし、だ。


 この緊張感、緊迫感、迫り来る疲労。……そして、もしかしたら負けるかもしれないというスリル。



(あぁイライラする。いい意味でイライラする。努力だけでここまでやれる奴がいたなんてなぁ!)



 きっとこの天才は、この感情に飢えていたのかもしれない。だから、誰かと競おうとしてたのかもしれない。始めにアキレスに勝負を挑んだ理由に、その感情が隠れていたかもしれない。


 だからこそ勝つ!完膚なきまでにねじ伏せる!!天才は常に上の立場に立たなければならない、だからこそのブラウス家なのである!



「さぁ、始めよう」


 クロウリーは不敵に笑った。



「その炎は原初の炎。絶えず尽きることなく燃えるその様は魂の輝きを増す。永遠の輝き、永遠の命、その灯火は風にも負けず雨にも負けず、誰にも侵されぬことのない希望と知れ!顕現する、フェニックス!!!」



 数々の炎が集まり、一つの生き物へと昇格する。紅い、ただ紅色一色の命の鳥。静かに羽ばたき、その場の空間を支配する。


 美しかった。


 アキレスチームも含めた、会場にいる人間が黙って、ただ黙ってその輝きを目に焼き付けた。命の鳥は会場の空を旋回し、燃える羽をばら撒いた。


 静かに落ちていく羽の群れの中、孤高の少年は清々しい顔で一礼をした。


 賞賛の拍手に包まれ更にハードルが上がってしまった。



「じゃあ、次は俺の番だな」


「大丈夫なのか、アキレス」


「心配するな。男は最後までワイルドに決めるものさ。黙って俺の偉大な背中を見ていろ」



 サングラスをカチャリと上げて、笑った。二人はその背中を黙って見守った。



「地獄にいる我が盟友に捧げる。その花は奇跡の花、人々の夢と希望を乗せて今花開く」



 友が、師が、"父"が夢見た未来図を。あったかもしれない未来を、変えられない過去を、それでも前に進もうとするその意思を力に変えて。



『あぁ、お前のワイルド。地獄にも届いたぜ』


「―――イカネルハナ」

 

 見慣れたようで忘れた思い出。その氷像は形を変えて、そして――――。




#####




『さぁ運命の投票のお時間です!!クロウリー君、アキレスチームの三人。此度はとても楽しい時間、ありがとうございました。このイベントはきっとこの学校の歴史に残る事でしょう!それでは皆さん、「凄かった!」と思った方に並んで下さい!!』



 ぞろぞろと観客達が立ち上がりステージの下に並んでいく。運命の瞬間。結果が出るまでは地獄だった。数分が何時間にも感じて冷や汗が止まらなかった。



 服の下がべちょべちょである。横のカンナが耐えきれずに包帯剥がそうとしている。しかし緊張のせいで全然とれてない、落ち着け。



「おいおい、何緊張してるんだ。今から何したって結果は変わんねぇさ」


「いやこれで緊張するなは無理があるだろ……というか、さっきからドッドドッドうるさいんだけどなんの音?」


「さぁな、緊張のし過ぎで心臓の音が漏れてんじゃないのか?」


「そう………めちゃくちゃお前の方から聞こえてくるのは気のせい」


「キノセイダヨキノセイ」


「おい、目をそらすな目を。お前が一番緊張してるじゃねぇかよ!」


『今、結果が出ました!!それではまずクロウリー君から!ででででででででで、でん!!235票!そしてアキレスチームは……』



 遂に来たこの瞬間。そっと目を閉じて両手を握り天を拝む。まるで好きな子から告白の返事を待っているかのようや緊張感。心臓の音がうるさくて集中できない。


 そして、来た!



『アキレスチーム、二百……』


「二百!?」


『三十……………!!!』


「三十!?!?」


『―――六票。236票、一つの差でアキレスチームの勝利ィィィィィ!!!!」



「「「よっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」」」



 喜びのあまり三人はその場で叫んだ。その瞬間、途端に緊張の糸が途切れたのかカンナがばたりとその場で倒れる。



「カンナー!?大丈夫か!?ちょっとアキレス俺こいつ保健室まで運んでくから後はよろしく!」


「後ってなんだよ……。―――あぁ、そゆこと」



 後ろを振り向くと、吹っ切れた顔をしたクロウリーが佇んでいた。アキレスは片手を軽く差し伸べ、



「勘違いするなよアキレス君。僕は君たちを認めただけで、"まだ"その時じゃない」


「……というと?」


「僕には友情という物が分からない。努力なんて知りたくもない。そんな僕に君と握手する権利は僕にない。けど、きっと」



 悔しさに叱咤激励するのでもなく、涙するのでもなく、歯を食いしばるのでもなく。


 ただ、敬意一つ払って、



「その時は、君を打ち負かしてからにしよう。僕はブラウス・ロン・クロウリー。天才の家計にして時期当主、努力の天才にだってなれるさ」


「なら、まずは紙くずみたいな努力から始めないとな」


「ふっ、そうだね」




 孤高の天才は、結局孤高の天才のままだった。天才は、天才であるが故に疎まれ、期待の視線をとおくられ、理解されない苦しみを背負う。



 しかしそれだけとは限らないのを少年は初めて知った。誰かと競い合い、高め合う精神。いつかきっと。もしかしたら既にいるのかもしれないけれど、対等になれるそんな誰かに出会うまで。旅という名の努力を続けよう。



 そしたら、「孤高」の天才から脱却できる。



「さぁて、眼鏡のフレームは何色にぃしよっかな」





ブラウス・ロン・クロウリー


クルクルとした金髪と碧眼が特徴の非常にプライドが高い貴族のお坊ちゃま。しかしその傲慢さに見合うほどの才能と実力を有しており、自分が天才であることをこの上なく誇りに思っている。趣味は入浴。最近は半身浴にハマってる。

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