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27  遂に迎えた大勝負!


 パリンッ!!と、ガラス細工が砕け散るような鼓膜に響く高音が鳴る。ドテッと疲れ果てた、さながら徹夜帰りでしかもまた明日仕事がある中年のように地面に寝そべった。


「ふぃー……。中々思い出せねぇな、あの形が」


「俺からみたら凄くいい出来だと思うけどなー。どこが駄目なん?」


「なにも違ぇよ違ぇよ!例えば、ここのがくのうねり方とか、刺々しい痛々しさがありつつも、不気味に残る美しさとエレガントさとワイルドさが足りねぇ!!」


「は、はぁ。その氷像だけは妙にこだわるな。何か思い入れでも?」


「お前ガチでしばき倒していい?」


「なんで!?」



 本当に一から十まで聞いてなかったのか、と怒りと呆れが混じったため息を吐く。カツジは授業中でも長い説明があるとお構いなしに寝るからよく先生に怒られている。



 先日のベリアル先生のチョーク投げは素晴らしかった。ヨダレを垂らして寝るカツジの額に綺麗にクリーンヒットだ。


 未だに驚いた顔のカツジの顔を覚えている、思い出し笑いをするほどには。



「ま、地獄にいる知り合いにでも見せてやろうかなと思ってさ。『氷』を使う魔術なんか滅多に触れねぇし、この機に学んであの自慢してやる」


「そか、その知り合いってのはなんだか分かんねぇけど頑張れ。俺も頑張ってみせるからさ」


「あったり前だ馬鹿野郎め。さてと、カンナー!そっちの調子はどうだー?」


「ばっちぐーアル。今じゃ予定の2倍近く操れるようになったネ。明日のあいつの吠え面が楽しみアルくっくっく」



 口角をあげて(包帯で見えないが)悪い笑みを浮かべる。この一週間、死ぬ気で練習したからなのか今まで以上の強気と自信を彼女の背中からひしひしと感じる。


「カツジ、そっちの『爆』の調子はどうだ?お前が駄目だと大技が台無しだぞ」


「分かってる、バッチリ!……とは自信満々には言えないけどベストを尽くすよ」



 肩をすくめ謙虚めに言うカツジ。「そこは自信もっていいんだぜ」と肩をポンポンと叩くが、不安そうの顔は消えない。



「最悪、お前の……………なんだったか、裏カツジ?ってやつに頼ればいいさ」


「いや、それは」


「大丈夫アル、勝てばいいんだよ勝てば。この世は弱肉強食焼き肉定食。勝つための手段ならいくらでも使うアル」


「カンナ…………それは――」



 カツジは眉をひそめ、黙り込む。引きつらせた顔でカンナに向き合い、そして、



「それもそうだな!」


「「「へへへへへへへへへへへへへへへへ」」」



『おい、そこの卑怯者たち。いっぺんしばくぞ』



 対決まであと一日!



#####




 彼にとっては何の他愛もない一夜だった。

 学校の課題は終わらせた、やることは全てやった。あとは寝るだけ。


 ……しかし妙に寝付きが悪い。何か、特に大事ではないけど約束ごとをしていたような。何だったかな?


 そんな事を考えながら夜風に当たりながら月を見上げる。


「えぇと……なぁんだっかな?…………そうだ、明日は眼鏡を最新する日だ。たぁのしみ」


「恐らく、違うと思われます坊ちゃま」


「おう、びっくりしたぁ………。じぃじ、こんな時間まで起きてると老人には堪えるよぉ?」


「ご気遣い感謝いたします。しかし、坊ちゃまがお忘れになられていることをご報告いたします」


「あー、えっと、うぅん分かってるよ。眼鏡のフレームの色は何色にするか忘れてるってはぁなしでしょ?」


「違います。坊ちゃまが以前来られたお客様と言う名の門破壊魔とのご勝負についてでございます」



 あー、とポンと手を叩き思い出す。そういえばあの凡人達との勝負ごっこの約束をしていた。明日になるまで忘れていたなんて本当にどうでもいいことだったのだろう。


 ……しかし、そんなどうでもいいことを何故、よりにもよってじぃじが今更言ってくるのだろうか。首を傾げつつじぃじに問う。


「いえ、坊ちゃまが何も対策をしていなかったもので。少々気になってご質問させていただいた次第でございます」


「―――じぃじ、もしかして僕が負けると。そう疑っているのかい?」


「めっそうもございません。―――しかし、彼らは対抗なしに、"努力"なしで勝てるような輩には見えませぬ」



 努力。努力、か。


 恐らく最も疎遠な言葉だ。自分は今まで才能だけで全てをこなしてきた。だから、才能のない努力だけでなんとかしようとするやつのことが全く理解出来ない。


 何故出来ない、何故やれない、何故理解出来ない?そう何度も叫んだ。けど自分を理解する者はいない。それどころか、聞く耳すら持たない。


 その時から自然と凡人を見下すようになった。自分でも悪い癖だと自覚してる。



 けど、あぁ、イライラする。


 あの、カツジとかいう爆発野郎。ああいう奴が最も腹立つ。少し、奴らの動向を探ってみた。本当に気紛れだが。そしたらあいつら、勝負の練習をしていた。



 猿の一つ覚えみたいに爆発を繰り返して、イライラする。非効率だ、やり方がおかしい、いやまず前提がおかしい。



 だからあの時珍しくつっかかったのかもしれない。





「……………じぃじは何が言いたかったの?」


「いえ、ただ。坊ちゃま、足下をすくわれぬようにお気をつけ下さい。ただ、それが言いたかっただけでございます。失礼」



 ペコリと一礼して、バルコニーから出て行く。その後ろ姿を見ていると、なんだか胸の高まりが収まらなかった。



 イライラする。イライラする。イライラ、する―――――




#####



 キーンコーンカーンコーン。


 放課後の始まり、授業の終わり、決戦の合図が今鳴り響いた。


 遂に迎えた当日。


 帰りのホームルームを終えると即刻教室を飛び出し、各自持ち物を持って集合する。決戦の舞台は我らが誇る大学園、『アナスタス』のグラウンド。


 比喩表現を使うのならばまさに荒野と言わざるを得ない、そんな広大で勇ましいグラウンド。男と男達の勝負という、静かにそして激しく行われる信念のぶつけ合いには持ってこいの場所。…………のはずだが、



『さぁさぁ急遽行われる謎イベント開催でございます!!二年に一回は生徒達が勝手に起こすイベントがあると言われるこのアナスタスですが、今宵はまさかまさかの魔術によるパフォーマンス対決!!前代未聞の勝負になっております!!実況は私、新聞部部長、アヤとー?』


『……………解説のベリアルでーす。はぁ』


『ということでよろしくお願いいたします!!』



 思った以上の、というか予測不可能な領域での盛り上がりを見せていた。唖然とする二人の横で鼻を鳴らして胸を張るカンナは褒めてほしい子供のように、


「スゴイでしょ、スゴイでしょ頑張ったアルよ。褒めてくれてもいいアル」


「誰がここまでお祭り騒ぎにしろっつったよ!!なんかもうめっちゃいるじゃん!?凄いことになってるんですけど!!?貸し切りお願いするときにお前先生になんて言った?」


「えーと、素晴らしいエンターテイメントを皆様にお見せすることを約束するんでグラウンド貸してください。と言ったアル。新聞部にも情報を伝えといたからそりゃ皆来るわナ」


「間違ってはないけど、間違ってはないけど言い方!一応これクロウリーの奴の鼻っ柱をへし折ってやろうという個人的な事なんだよ!?」


「でも人が多ければ多いほどいいネ。決着の付け方は確か投票なんでしょ?人がいた方がより勝負つけやすいアル」



 実際の正論に何も言い返せなくなるカツジ。確かに人はある程 度必要だった。しかしカツジの予想していた人数と違っていたのだ。精々少なくても50人か100人いれば十分と思っていたが。


 ご丁寧に観客席まで用意されてるし、ていうかどさくさに紛れて屋台ない?1年生どころか2年生3年生も多く混じっている。



「カツジさーん!!やっと見つかりました。クロウリーさんと対決するんですよね?頑張って下さい」



 すると、現れたのは白頭の半人半サキュバスことエルザだった。二個の焼きそばを脇に挟んでカツジの手を両手で握る。


「エルザ、抜け駆けは、許さない」


「あ、巴さん。巴さんの分の焼きそばも買っておきましたよ。はい」


「え?あ、ありがとう」



 少々戸惑いつつも焼きそばを受け取る巴。二つも抱えていたのは彼女のためだったのか。というか一緒に観戦するくらいいつの間に仲良くなっていたのか。



「カンナさんも頑張って下さい。応援してます。クロウリーさんにいっちょかましてやりましょう!」


「おう、もちろんアル!」


「なぁ、エルザ。もちろん俺にも応援コメントはあるよな?うん?聞かせてくれ」


「……………それではカツジさん。私達はこれで。頑張って下さい!」


「シカト!?俺なにかしたか!?」



 かなりショックなのか肩をガクンと落とすサングラスを慰めながら巴の方を向く。


「巴もありがとな。こんなに人が来るとは思わなかったけど、巴が来てくれて嬉しいぜ」


「ッッ!!?え、あ、うん。も、もちろん。カツジもがが頑張って」


「どうした?顔が赤いけど風邪でも引いたか?」


「いや。別に大丈夫」


「ほんとか?風邪っていうのは意外と自分では気づかないものd


「大丈夫だって言ってる!!じゃあ!」



 大声で突き放され、小走りで逃げられる。しゃがんで落ち込むカツジを慰めるアキレスとそれを包帯越しにじと目で眺めるカンナ。


「おやおぉや。まだ勝負も始まっていないのに仲間同士で傷をなめ合っているのかい?これだから凡人は……ぷふ」


「―――クロウリー」


「そんな怖い目で見ないでくれよアキレス君。凡人が移ったらどぉしてくれるのかい?君たちぃがいくら努力したって、そんなの紙くず当然だよ。降参をオススメするけど」


「いいか、クロウリー。始める前に一つだけ言っておく事がある」


アキレスは一歩踏み込み、顔をクロウリーに近づける。怒るのでもなく、にらみつけるのでもなくただ不敵に、ニヤリと笑う。



「その紙くずも集まれば天才の才能にだって負けないことを、今から証明してやる。かかって来いよ天才様」


「―――調子に乗るなよ」




『さぁ両者ちょうど揃ったところで、そろそろゲームを開始いたします。果たして勝利の女神は、魔術の神はどちらへ味方するのか!?歴代屈指の天才少年、ブラウン・ロン・クロウリー。バーサス!!曲者揃いの凡人チーム、努力は才能に勝ることを見せつけてやると言わんばかりのオーラです!アキレスチーム!レディー、ファイト!!』

  



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