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25  ワイルド地上日記



 翌日。


 だいぶ調子が良くなった。体はすこぶるように動くようになり、魔力もだいぶ回復した。ヤブ医者からの薬だったから少々警戒したが、腐っても医者だったようだ。



 リケンドはアキレスの身体をペタペタと触って調子を確認し、


『よし、治ってるな。なら俺がかくまってる理由はないな。早く親の元に帰れしっし』


『人を獣扱いすんなよ。ていうか、帰りたくない。このまんま置いてくれよ』


『はぁ?いいか、ガキは温かい家で温かい飯食って温かいミルクでも飲んでりゃいいの。ほら分かったならか・え・れ!』


『むむむむ……………ならば』



 しょうがない、と呟くと立ち上がり歯を食いしばった。右手の手刀を天高く上げ、そして


 思いっきり自分の肩にチョーップ!!



『痛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁいい!思ったより痛ぇ!?』


『馬鹿ァァァァァァァァァ何してんだガキィィ!?』


『くっくっく………ほ、ほら大好きな患者のできあがりだぜ。目の前に脱臼した子供を見過ごす医者様じゃねぇよな…?だからここに置きやがれ下さい』


『ぐぬぬぬぬぬぬ!!このクソガキャ!!…………………はぁ、分かった分かったよ好きにしろ。そこに包帯とか置いとくから自分でやれ、俺は飯取りに行ってくるから』



 リケンドが気だるそうに肩を落としてトホトホと歩いていくと、アキレスがその手を掴んだ。


 ピクピクと不機嫌そうに眉間を動かしながら、



『おいアキレス。これはどうゆうつもりだ?は・な・せ』


『俺にも果実の場所とが取り方とか教えてくれよ。色々学びたいんだ』


『自分から怪我人装っておいて何言ってんだこいつ……?もしかして鳥頭なの?3歩あるいたら忘れちゃう鳥頭なの?』


『んー、なら。よっこいしょ』



 片手が使えないアキレスは見えないように小っちゃく翼を広げふわりと浮遊しリケンドの背中によじ登る。



『こら、おい!背中に乗るな。ていうか今どうやって登った?』


『小っちゃい事は気にするなー!しゅっぱーつ!』


『人の話を聞けガキ!』



 こうして地上での生活が始まった。




#####



○月☆日


 今日から日記をつけることにした。せっかくの地上だ、記憶だけではなく文字に起こしておくことでより地上での記憶を強く保てるだろう。



 なにより、このアキレス・ガブリエルが地上に降りた初めての天使族であるという証明にもなるのだからな!はーはっはっは!



 …………でだ、今日はなにがあったかというと。リケンドから狩りについて教えて貰った。彼は面倒くさそうに頭を掻きながら渋々言っていたが、まんざらでもなさそうだ。


 ―――――――



『いいか、ワイルドな男は、いつだってクールでそして強くなければならない。こうやって、なッ!!』



 そう言ってニヤリと笑いながらゴツイ弓を引きはじめた。


 狙っている獲物をは猪型の魔獣。体長は驚異の二メートル近く、気が緩んでいるのか茂みに隠れているアキレス達にも気づかず寝座っている。


 リケンドはサングラス越しに獲物を定めて、ビュンッ!!と文字通り空気を裂きながら矢を放った。



 ドガンッ!と矢が着弾した音と共に砂埃が舞う。弓で砂埃が舞うってどんな威力をしているんだとアキレスは疑問に思う。


 リケンドは高笑いし、ゴツイ弓をクルクルと拳銃のように回しながら獲物の生死を確認しに行く。アキレスも意気揚々とついて行く。



『フゴ』


『…………………ねぇ、リケンド。生きてるんですけど』


『あれ、おっかしいな。ちゃんと狙い撃ちしたんだけどな。気のせいかな、矢が地面に刺さってるんですけど』


『ブゴガァァァァァァァ!!!』


『逃げるぞアキレス!全速前進で逃げるぞ!ワイルドに逃げるぞ!!』


『逃げてる時点でワイルドじゃねぇぇぇぇぇ!!!』



  ――――――



 思った以上に魔獣の脚が速く、リケンドが前足の蹴りを食らっ て吹っ飛ばされたりアキレスの白布の一張羅をボロボロにされたり結局仕留めれないと散々だった。


 ぐうううと今も腹が鳴っている。お腹がすいた………最後に肉の絵でも書いて気を紛らわすか。



#####



○月△日。


 今日もリケンドは朝早くから起きてラディオ体操?なるものをやっていた。俺から見ると摩訶不思議奇々怪々な動きにしか見えない。一種の民族舞踊かな?


 好奇心が揺さぶられリケンドにラジオ体操について聞いてみることにした。


  ―――――――



『よぉアキレス。昨日は散々だったな!』


『誰のせいだ誰の。思ってたんだけどさ、なんでそれ毎朝やってるの?』


『ラジオ体操は健康にいいらしい。早寝早起きを心懸けているワイルドな俺は、健康にも気を使うのさ。もちろん葉巻なんてものはノーセンキュウ、ワイルド肉体美を保つための筋トレも欠かさない。そんな俺は健康的な朝を送るための努力も欠かさないのさ!ワイルドだろぉ!?』


『ふーん、あっそ』


『自分から聞いておいてなんだその反応は…………』



 アキレスは素っ気なく応えた。極東にある幻の島大瀑布の向こう側に住む人達が時折世界のどこかで現れては謎の知識を人々に教えて回る。ラディオ体操もその一つらしい。



 食生活も早寝早起きも、見かけによらず無駄に健康に気を遣うなこいつ…………。



 チラチラと視界に映るリケンドの動きが鬱陶しい、というより気になってしょうがない。


 アキレスの視線に何かを感じたリケンドは、スウーッと深呼吸して声を大にしてあげた。



『ラディオ体操第一!てーててん、てーててんてけっててー!おらアキレスもやるぞ!お前もやりたくて仕方なかったんだろ?』


『違うわい!…………でも、気になる』


『ヨッシャさー行くぞ!まずはワイルドに腕を上げてー………』



 ――――――

 


 実際にやってみると中々に激しい体操だった。朝から汗だくになるとは思わなんだ。しかし、激しい運動の後の森の果実は格別に美味しかった。この快感を味わえるのなら続けてもいいかもしれない。



 というよりラディオ体操仲間が増えたのがうれしいのかリケンドが無理矢理やらせようとしてくる。自分で言っててなんだが、ラディオ体操仲間って何だよ!




#####




○月♢日。


 リケンドは今日も森へ探索しに出掛けた。一体何を探しているのか、何故探しているのかを問い詰めても答えてくれない。一緒に行かせてくれとせがんでも絶対についてくるな、と強い口調で言われる。



 お利口にお留守番していた俺は暇なのでリケンドが置いていった私物を漁った。前の植物図鑑は無かったが、よく見るともう一冊入っていることに気がついた。



 ――――――



『これで君もワイルドな男に早変わり!野性味溢れるダンディーな素振り服装心構え集……………はぁ』



 思わず息がこぼれた。なんだこれは馬鹿なんじゃないか、これを書いたやつは誰だ!そう言いながらも好奇心に負けてページをめくる。



 リケンドの言う、ワイルド、について詳しく知る事が出来るかもしれない。一緒に暮らしていくのだから共通の知識ぐらいは身につけておこう。



『何々………ワイルドを磨き上げるにはまず服装から、服装のなんたるかを知らない青二才がワイルドな男になることはできない。なるほど、男を磨き上げるっていうなら聞き捨けないな、なるほど理解したぜ!(←分かってない)』




 そして、ただひたすら雑誌を読み漁っていく。中にはこう書いてあった。


・コーヒーは欠かせない。ワイルドな男の朝はコーヒーから始まると言っても過言ではない。大人の雰囲気を纏い苦いコーヒーを眉一つ動かず飲む姿は男らしさそのもの。



『確かに、リケンドはラディオ体操が終わった後果実食べながらコーヒー飲んでるな。果実とコーヒーって死ぬほど合わなそうと思ってたけどそういう意図があったのか』



・革ジャンを着るべし。スタンダード、王道を行く革ジャン。渋みのある色合い、どっしりとした重み、そして何よりカッコイイ。とりあえず革ジャン着てそれっぽい振る舞いしていたらワイルドになる。



・サングラス。ワイルドな男にとってサングラスはなくてはならないキーアイテム。人は目をみて相手の行動や感情を読みとったりする。つまり、目を隠すサングラスをつければなんかミステリアスな雰囲気を醸し出してクールになれる。



『………なんか、さっきから適当になってきてないか?』


  ――――――



 しかし夢中になったらもう止まらない。気付いたら夕方になっていた。



 その後リケンドが戻って来る前に後にコーヒーをこっそり飲んでみたが、苦い。苦いの一言に尽きる。確かにあれを澄まし顔で飲めるのはカッコイイかもしれない。



 豆の量減ってね?とリケンドがなにやら呟いていたが、気にせずに寝ることにしよう。



#####



☆月◯日。


 やっと腕が治ったので狩りの実践をしようと思った。弓なんぞ引いたことないが、まぁなんとか行けるだろう。リケンドに駄々をこねてなんとか弓を貸して貰った。


  ―――――



『おいおい、お前みたいなガキが使いこなせる代物じゃねぇんだって。悪いことは言わねぇからやめとけって』


『ふっふー、俺はアホなリケンドと違って頭がいいからな。こんな時の為に罠を用意してあったんだよ』



 上機嫌に鼻歌を歌いながら昨日貼った罠を確かめに行く。罠とは言っても、簡単な縄で輪っかを作ってその穴に入ったら脚をギュッと縛られるやつだ。アキレスでも作れる。


 魔獣なら話にならないが、小さな鳥や獣程度なら十分効果を発揮できるだろう。


 クルクルとゴツイ弓を回しながら歩いていくと、早速罠にかかった獲物を確認!



『よぉーし、今日の晩飯は鳥鍋だ、ぜ☆はぁぁぁ!……………あれ、ぐううう!ぐぬうぅぅ!!引け、引けない……!硬すぎ……!?』 


 

 精一杯力を込めてるはずなのに弦はビクリともしない。期待してた反応をしてくれたのがツボなのかリケンドが横でゲラゲラと大笑いしてる。



 悔しさと羞恥心に歯茎を噛みしめながら、力を振り絞ってなんとか弦を少し動かす。



『うおおおおおおおおおおおお!!!!』



 ビュンッ!!と矢が発射され、幸運なことに獲物に向かって一直線に飛ぶ。ブスリと獲物の腹に突き刺さり意図もたやすく絶命させる。



『やったやった!俺って狩人の才能があったのかなー!はっはー!』


『ちっ、面白くねぇな。速く持ってこうぜ』



 リケンドが茂みから出て獲物を捕りに行こうとした、その時だった。突然木の上から謎の巨体が降りてきた。黒をベースとした毛皮に白い点々模様がある猫のような動物だった。


 その猫は目にも止まらぬ早技でアキレスが捕った鳥を横取りしていった。



『え、え!?ちょ、テメェ何しやがる!!?リケンドこいつなに!?』


『し、しまった。奴の存在を忘れていたぜ!こいつはハンテンネコ、悪知恵を働かせて死んだ獲物を横取りする森の盗っ人だ。冬の季節になると模様の色が反転する特徴からそう名付けられたぜ!』


『流れるような解説ありがとう!そして持ってかれるよヤバいヤバい!?』


『ええい逃がさん!地の果てまで追い詰めてくれるわ、あの肉は全部俺のもんだぁぁ!!』


『いやそれ俺が捕ったやつだからぁ!?』



――――――



 激闘の末、なんとか肉を取り戻すことができたが俺もリケンドも体中引っかき傷だらけになった。今でもヒリヒリする。


 けど、初めて自分で捕った肉は格別だった。地上にきて初めての経験をここに残そう。コーヒーを飲み終えたら今日の日記は終わりにしよう。


『苦……』



遅すぎる解説。(ごめんなさい)

魔獣と普通の動物の違いは魔力の保有量の違いである。厳しい自然界を強くたくましく生き残った動物は体内で製造される魔力が多くなる。量に比例して、体格、知能、戦闘力などが大幅にアップする。そしてその動物を魔獣と呼ぶ。魔獣の特徴として、普通の動物より体格が大きく、非常に好戦的。見分け方として体のどこかに色のついた螺旋模様がある。色が濃ければ濃いほど魔力の保有量が多いことを示す。

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