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21   宣戦布告


 12時を回り、昼食を食べ始める時間帯。カツジは今朝寮の食堂で買ったおにぎり(塩味)を頬ばっていた。



 そして目の前で長い金髪をかきむしりながら細長いパンを口にくわえているのはアキレス。午前中の魔術の授業、その時にあのクルクル頭に言われた事が頭から離れない様子。


 アキレスはパンを牛乳で流し込みカツジに言った。



「ムキィィィィィィィィィ!!イライラが収まらねぇぜ!おいカツジ、お前はあんな事言われて悔しくないのかよ!?」


「悔しくない、と言ったら嘘になるけど……。でも、実際に俺が悪かっただけだし。一番簡単な『空気』すら出せないやつだからさ」


「何弱気な事言ってんだ。魔術なんてそんなもんだ!使えない人の方が多いのに、あんなくだらないやり方であいつ…!!」


「そういえば、二人とも面識あるみたいな会話だったけど。知り合いなの?」



 くやしさに歯ぎしりするアキレスに、ふと思ったことを告げる。


 あのクルクル頭はアキレス君と名前で呼んでいた。それに、『僕に敵わないから』とも言っていた。アキレスは遠くの地から来た奴だから前から面識がある……とは考えられない。


 恐らくこの学園に来てから知り合ったはずだが。



「知り合ったのはつい一週間前だ。魔術について廊下でユウキやモブと話してたら、突然横から現れてな」


『君ぃ、噂の天使族さぁんでしょ?自慢の魔術をみせぇてくれないかなぁ?』


「魔術仲間が出来た思ってついて行ったんだけどな。そしたらあいつもつウザいのなんの!見せて欲しいって言うから見せてやったのに、この程度か、とか。まぁまぁだねぇ、とか!しかもわざと聞こえるぐらいの小声で!そっから少し喧嘩になっちまってな。喧嘩にしちゃあドカドカ撃っちまったけどよ」


「…………まさか」


「恥ずかしいことに、かなり押され気味だった。途中で先生に見つかって決着はつかなかったが、ありゃ技術だけは一人前だ。ベリアル先生、とまではいかねぇと思うが天使族の俺を破ったんだ。この学園で一二を争うと言っても過言じゃねぇ」


「まじか………」


 驚きに口を開いたまま言葉がこぼれ落ちる。この街に来た当日。鬼神のやつがアキレスとドンパチやっていた際、カツジは魔術についてはよく分かんなかったが見てて凄かったのを覚えている。



 アキレスには鬼神の一撃を受けてもピンピンしていたあの天使族の羽がある。なんでも、ありとあらゆる暴力を受け流したり、時には武器にもなるとか。



 その羽を持ってしても押され気味だったと言う。そうなると相当な手練れだ。



「そういえば、あいつってどんなやつなんだ?」


「あいつの名前はブラウス・ロン・クロウリー。調べた所、この街に住む貴族らしいぜ。貴族だから財力はもちろん、才能にも恵まれてて、絵や楽器のコンクールで最優秀を取ったり、学力はそこらの研究者とためはれるとかなんとか。

 とくにずば抜けているのが魔術だ。これが出来たら一人前と言われる記号魔術を、13歳で成し遂げやがったらしいぜ。国の魔術師団体からはスカウトを受けてるほどだとか」


「ほげー……。そいつはすげぇや」


「だが!俺はどうしてもあいつをギャフンと言わせたい!友達を馬鹿にされて黙っていられるか!あの傲慢な鼻へし折ってやるる!………だが、問題はどうやってあのプライドを潰してやるかだ」



 単純に勝負を挑んでも、多くの才に富んだ彼を勝負事で打ち負かすのは難しい。こちらの対抗手段は魔術だが、あっちの対抗手段も魔術その他もろもろ。戦力差は火を見るより明らかだ。



「なら魔術しかないアル」


「うおっびっくりした!……て、カンナか。話聞いてたのか?魔術じゃあ勝ち目は薄いんだよ」



 机の下からカエルのようにひょこっと顔を出したのは、吸血鬼チャイナ少女のカンナだった。



「ふっふっふ。三人集まればなんとやらアル。ワタシにいい考えがあるネ。魔術の単純なぶつけ合いで勝てないなら、対決方法そのものを変えるアル」


「対決、方法?」


「魔術はただたんに戦闘だけに使うものじゃないネ。時に便利な技術にもなるし、幻想的な世界を作りだしたり、場所を行き来したり、土地開拓などなど。そもそも起源より、魔術は人がより便利に過ごす為に発見、開発された技術ネ。ようは使い方アル。何が言いたいのかと言うと、魔術の撃ち合いじゃなくていかにどれだけ魔術が利用出来てるかで競うアル!」



 カンナはすらりとしたボディラインの腰に手を当て胸を張る。アキレスはポンと手を叩き、



「な、なるほど!その発想は盲点だったぜ。ワイルドだぜカンナァ!」


「け、けどよ。魔術の天才なんだからそれぐらいは出来るんじゃ……」


「誰がアキレス対あのクルクル頭野郎の一騎打ちと言った。言ったアルよ、三人集まればなんとやら。チーム戦!3対3の魔術パフォーマンス対決ネ!」




#####



 

 クルクル頭こと、ブラウス・ロン・クロウリーはサクライの北東部、第3地区を歩いていた。



 ここは街の人間の住宅が多くの集まる住宅地だ。中でもクロウリーが住んでいるのはこの地区でも金持ちが住むゴールドプレイス。その中でも一番大きな屋敷に住んでいる。



 学園『アナスタス』ほどはさすがに大きくないが、それでも校舎の5分の2強はあるはずだ。黒光りした門を開けると、これまた豪華で広い庭が広がっていた。両親は花や自然を愛でるのが趣味なので、庭には力を入れている。



 その手の道の専門家をよく招き入れるほどだ。母と父、二人でキャッハウフフしながら庭の手入れをしている所をみると思わず舌打ちをしたくなるが、いつも我慢している。



 別に両親と仲が悪い訳ではないが、仲が良いという訳でもない。クロウリーから見るとあの二人は機械みたいなものだ。いつも同じ事を言って、いつも同じ事をして、いつも同じようにあれやこれやの勉強を押しつけてくる。



 そういえば今日は家庭教師が来る日だった。昨日と一昨日がたまたま休みだったから忘れていた。



 地味に長い庭の通路を抜ける。玄関の階段を上ると黒スーツを着た一人の老人がいた。


 クロウリーが唯一信頼する使用人、通称じぃじだ。じぃじは父が子供の頃からこの家に仕えてたという。



「お帰りなさいませ、クロウリー坊ちゃま。湯浴みの準備が整っておりますが、いかがなさいましょう」



 クロウリーの趣味は風呂だ。一日に2回は入る。帰ってきたら一目散に一番風呂に入り体を癒やす。これほどの娯楽は他に無い。



「んーいや、悪いけどぉ今日はいぃかな。先にじぃじがぁ入ってもいいんだよ?もう歳なんだかぁら体は休めなぁいと。今日の仕事は他の使用人に任せて休みなぁ?」


「ありがたきお言葉。しかし坊ちゃま、この老木はこの家に仕える事こそ生きる喜び。仕事をしていなくては逆効果なのです。私の事など気にせず、どうぞ坊ちゃまは湯浴みをお楽しみください」


「いやだからぁいいってば。はぁ、んじゃ家庭教師が来るまでの時間潰しとしますかぁ」



 そう言ってとりあえず家の中に入る。荷物を使用人に部屋まで運ばせ、大浴場へ足を運ぶ。


 廊下を歩いていると、代々のブラウス家当主の絵画が壁の上に飾ってあるのが目に入った。別に日常光景だからいつもは目も向けないはずだが、今日は何故が顔を見上げた。



 クロウリー家は代々この街を管理、運営する事を国から任されている領主だ。ブラウス家の多くは何かしらに富んだ才能を持っている。父の場合は庭園、祖父の場合は楽器。



 クロウリーの場合は魔術と言った感じだ。



 数秒だけ絵画達を見つめたが、すぐに飽きてしまった。そんなことより風呂だ風呂。


 廊下を抜け浴場にたどり着く。高い濃い紫色のスーツを脱ぎネクタイを外した。


 その時だった。



「お着替え中、失礼しますクロウリー坊ちゃま。実は今謎の人物3人がクロウリー坊ちゃまに会わせろと押しかけてきてまして………」


「…………謎の人物3人?」




#####




「オラァァァ!開けろアル!開けてアル!開けてくださいアル!…………中々開かないネ」


「そりゃあな。そう簡単には開くわけが


「オラァ!……よし、開いたアル」


「何やってんだテメェェェェェェ!?何門破壊してんだ!他人様の物を勝手に壊すんじゃありません!!」


「いやだってこっちの方が早いから……」


「その強引な発想。ワイルドで嫌いじゃ無いぜ!」


「お前もお前でなに感心してんだ!宣戦布告の前に俺達が訴えられるよ!」 



 駄目だこりゃ、とカツジはため息混じりに呟く。カンナが宣戦布告しに行こうと言って強引に連れて来られたのだが、これだ。


 ドンッ!!と細く包帯が巻かれた脚で門を破壊するカンナの評価がぐっと下がる。


 すると、黒スーツを着た一人の老人が睨みながらこちらに向かってきた。



「どなたかは存じ上げせぬが、即刻お引き取り願いたい。今お帰りになられるのなら門のことは目をつむりましょう」


「ふーん、クロウリー坊ちゃまのお友達と言ったら?あいつと会う約束してるんだ。そいつを出してくれ。まさかクロウリー坊ちゃまのご友人を無下に扱うことなんてしないよなぁ?」


「―――――少々お待ちを」



 眉をひそめた老人は一礼して行ってしまった。



「…………なぁ、これでクロウリーが勝負を受け付け無かったらどうするんだよ。相手は貴族だぞ?俺やアキレスはともかくカンナはこの街の人間でしかも店を構えてるんだろ?下手すれば店を潰されたり街から追い出されたりするんじゃ……」


「ッハ。その時は凡人のワタシ達に怯えた臆病者の称号を与えてやるネ!ブックロッジ家のゴキ○リ並の耐久力、舐めるんじゃないアル…………」


「もう少しいい言い方無かった?」



 そんな事をワーワー言っていると、5分足らずでクロウリーがやってきた。ピクピクと血管を浮きだし、苦い顔をして機嫌最悪のご様子。



「だぁれかと思ったら、アキレス君に爆発君、それと……包帯君?じゃあないか」


「包帯"君"じゃなくて包帯ちゃんと言えアル。次間違えたらぶっ飛ばすアルよ」


「え?あ、あぁすまない………じゃなくて、なんのよぉうだい!?こっちは楽しみの時間を奪われてイライラしてるぅんだけどぉ?嫌がらせに来たぁんなら帰ってくれ。門のことは僕に免じて許してやるかぁらさ」


「嫌がらせじゃなくて、宣戦布告をしに来たぜ」


「宣戦布告?」




 アキレスはサングラスをカチャリと上げて力強く言った。



「お前のその傲慢な態度とプライドをぎったんぎったんにへし折るための勝負を申し込みに来たんだよ!!」


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