20 爆発は芸術
『ちな、今回はC組と合同だから。仲良くしろよ』
「て言ってたけど、俺そういや他のクラスの奴とほとんど話したことなかったわ」
「まだ一ヶ月も経ってねぇしそんなもんじゃね?」
男子更衣室にて。体操着という名のジャージに着替えながらカツジはぼそりと呟く。
他のクラスで顔見知りというと、マーマンとあのレースの時に知り合った鳥の獣人族の少年だろうか。
隣で藍色のTシャツを頭から被るアキレスはそれに対し適当に応えた。
「ちらほら廊下で見たことはあるが、いかんせんワイルドさに欠ける連中だぜ。男らしさっていうのを見せつけてやるぜ。見よ!体操着姿でも輝く俺のワイルドさを!全く俺を見習ってほしいな」
「ワイルドさっていうか物理的に輝いてるな。眩しいから羽閉じろ」
「貴様のような奴が増えたらこの学園も終わりだ。男児たるもの、常に鍛錬を怠らず生真面目に行動すべきだ。変に流行りに乗った着飾りなど見るに堪えぬ」
太い筋肉質の四つの腕が中々袖に通らないのか、顔を引きつらせたゴウキが割り込む。常日頃、何があっても言いように鍛錬を重ねている彼が言うと説得力が違う。
そんなゴウキに羽を畳んだアキレスは鼻で笑いつつ、
「っへ。お前は生真面目過ぎるんだよ。もう少しワイルドでありつつラフで行こうぜ。」
「………思うが、貴様の言うワイルドは絶対意味履き違えてるからな」
「………そういえばさ。アキレスってよくワイルドワイルド言ってるけど、天使族ってみんなこうなの?それともお前がヤバいの?」
ジャージのジッパーを上に上げつつ言った。天使族はアキレスのようにおちゃらけてなく、神からの寵愛を受け、それを信仰によって返す。神の使いに相応しい敬虔な信徒であると本で読んだが、こいつを見ると少し目を疑う。
アキレスの地元の話は一度もきいたことがない。この際に聞いてみるか。
「アキレスの地元ってどんな所なんだ?気になるから教えてくれよ」
「やめとけ、聞いてもつまんないだけだぞ。それがいやで俺は飛び出して来たんだからな。第一……」
「おーい、そろそろ行かないと遅れるぞ」
と、何か喋り始めたアキレスに割り込み、既に着替え終わったモブことモーブレッドが危険を知らせる。
「………ま、俺の話はどこかの機会にな。速く行こうぜ」
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女子、そしてC組がいるグラウンドに集合。全員集合したことを確認したベリアル先生がパンパンと手を叩き口を開く。
「よーしお前らきけぇ。今から先程言った通り魔術の実践練習を行う。今から説明するから耳の中かっぽじってよーく聞け」
少し開けた場所に移動すると、先生はニギニギと掌の調子を確認する。その小さな掌の空中にかざすと、突然先生の掌からビュンッ!!と突風が吹いた。いや、突風と言うよりも空気の球が空気を裂きながら通っていった方が正しいか。
「さて問題だ。これは有機魔術?それとも無機魔術?」
「はい先生!無機魔術!」
生徒の誰かがすぐに手を上げ回答する。先生は見た目に反した低い声で、
「ばーか有機魔術だアホ。有機魔術の中で唯一簡単にできるのは『空気』だ。やり方としてはさっき習ったよな?魔力を魂に通して形作り放出する。魔力の練り合わせ方としてはそうだな……風船。風船をイメージしろ。空気はほんのちょっとの魔力でも出せるがもし具合が悪くなったり目まいが起こったりしたらすぐに辞めて保健室に行くこと。安全のために二人一組でやること。時間は30分したらもう一度集合かけるから、んじゃ行ってこい」
そう言うと皆々霧のように散らばって行った。とりあえず皆に合わせてカツジも散らばってみたものの、ペアが見つからない。見渡す限り男子は男子と、女子は女子と組んでる人が多い。
魔術に詳しそうなアキレス辺りがいいだろうか。生まれてこの方14年、一度も魔術に関して触れたことがないので少し楽しみでもある。
腰まで届く長い金髪なので人がいつもより多くてもすぐに見つかった。
「おーいアキレース……ってもう組んじゃってたか」
「すまんなカツジ。俺はユウキとやってるから他を当たってくれ。あ、でも分からなかったらこの最年少魔術エキスパートのこのアキレスにたy
「あーうんうん分かった頼るよ、多分」
それではゴウキの奴はどうだろう。一応、鬼神と決闘(?)で魔術っぽいのを使っていたし、ある程度の知識はあるだろう。
「ゴウキー。ペアくも…………」
「あのー、ゴウキ君?そんなに睨まれると怖いんだけど」
「―――――――」
「ちょ、まじやめて怖いって……」
どうやらモブとお取り込み中らしい、他を当たってみよう。別に男子同士で組めとは言われていない、女子を当たってみよう。
とは言ってもまだそこまでクラスに馴染めていないので親しいのは巴かエルザくらしいかいないのだが。
しかし既にペアが埋まっている人がほとんどで残ってる人は見当たらない。
だが、こんな時にもコミュ障を発揮している少女が一人。長い黒髪のツインテール、いつも着物だから体操着がとても新鮮な巴はポツンと砂の上で体育座りしていた。
誰か声をかけてやらないのかと思いつつも彼女に近づこうとすると、
「巴さん。私余っちゃったんで組みませんか?」
「――――――?」
「巴さんですよ巴さん。余ったので組みましょうと言ってます。さぁ行きましょう!」
白髪のエルザがまるで聖女のような微笑みで彼女の手を引っ張る。巴は困惑気味でぎこちなかったが、頬が緩み笑みを浮かべた。
なんだろう。初めて娘に友達が出来た所を後ろから見守る母のような気分になった。要するに嬉しいということだ。一人で勝手に感動していると結局振り出しに戻ったことに遅れて気がつく。
「やっべどうしよ。他に誰かいないかな……」
挙動不審でキョロキョロしている、その時にだった。トントンと後ろから肩を叩かれ振り返る。誰かと思ったが見たらすぐに分かった。彼女ほど目立つ格好をしてる人はいないからだ。
先端がとんがった赤い帽子に、ぶかぶか袖にところどころに見られる金の刺繍が目立つチャイナ服と呼ばれる装い。極めつけは全身が包帯という包帯で巻かれている。
「余ったのならワタシと組むアル。拒否権はないネ」
「カンナ………でよかったっけ」
「そうアル、カンナアル。安心するアル。魔術には少しだけだけど知識はあるネ。ほんじゃまレッツゴー」
異国の地の学生服の袖を引っ張り無理矢理カツジを連れていく。
抵抗などするわけがないが少々乱暴なのが気になった。父ちゃんが言っていた、女は少し乱暴な方がいい、と。
だがあえて言おう。乱暴なのより絶対優しさと包容力に溢れている女性のほうが絶対いいと!
「時間が結構潰れたから速くするネ。一回やってみるからどんな感じが見てくれアル」
「お、おう」
そう言ってカツジから距離を取ると彼女は両手を前に突き出す。
実際に目では見えないが、今も彼女は魔力を練り合わせている。
魔力を意図的に動かす……という芸当にカツジはピンと来ない。
唯一里で魔術が使えたリュウトおじさんも世界に比べるとちっぽけなものだと言っていた。彼に皆で少し教えて貰った事があるのだが、皆さっぱり分かっていなかった。
「お、出たアル出たアル」
「なんだが判別がつきにくいな……。本当に出てるの?」
「ベリアル先生みたいにやれってか?無理アル。あんな規模はまだ難しいね。あ、でも実際に当たってみるといいかも」
どれどれ、とカツジは少し姿勢をかがめて彼女の前に立つ。するとうちわで軽く扇いだときのような風、正確には空気が彼の顔を包み込んだ。
「ほんとに出てる……!?」
「ふふん。これぐらいは出来て当然アル!次はカツジの番アルよ」
「よっしゃーなんかやる気出てきた。これで夏はうちわ要らずだ
な!」
意気揚々と体操着という名のジャージの袖をまくり、両手を前に突き出す。カツジは瞳を閉じ集中する。なにせ初めてやるのだ、すこしぐらいは大目に見てほしい。
体内に流れる魔力のイメージを固める。それを『魂』とやらに通すはずなのだが……『魂』はどこにあるのだ?目をつむりながら首を傾げる。
するとカツジの様子を見て察したカンナが横から助言をくれた。
「ドアをイメージするネ、カツジ。『魂』は必ずどこかにある。『魂』をドアに見立てて、ドアを開閉するネ」
ドアドアドアドアドアドアドア………!!
強くイメージする。すると、体の中で何かが起こったような気がした。あくまで気がしただけだ。しかし分かる、これが魔力を『魂』に通す感覚。
あとは風船をイメージし、魔力を組み立てる。意外と操作が難しい。海の波に揺らり揺られて行く感じだ。つまり不安定ということ。
「こうか!?」
なんとか必死に魔力を形作り放出した。魔力の放出は、主に掌 から行うらしい。固めた魔力を掌まで持ってきて銃口を引くようにドカン、と撃ち込む。
すると
バヂンッッ!!
突然、空気が爆ぜた。カツジの目の前で眩い閃光と火花を撒き散らされる。
「うぉぉ!?」
「ななな何してるアルか!?誰が『爆』を出せと言ったアルか!?」
「えぇ!?いやいや知らない知らない!?俺は風船のイメージで………」
「と、とりあえずもう一度やってみるアル。ゆっくり深呼吸して、フワッとしたイメージでアル」
「よ、よし!」
もう一度両手を前に突き出し、イメージする。
(フワッとした感じ……風船のイメージ………こうか?)
バヂンッッ!!とカツジから出された『爆』が衝撃を散らせる。
むしろさっきより威力が増した気がした。
「も、もう一度……!!」
数分後
「だぁぁぁぁぁなんでだぁぁぁぁぁぁぁ助けてベリアル先生!!?」
「逆に凄いアル………。こんなにやっても『爆』しかでないとは。爆発が起こる確率は百パーセントネ………」
何度やっても成功しない。カツジはグラウンドの地面にうつ伏せになりながら叫ぶ。まだ『空気』がでないのはいい。しかし、カツジの場合百パーセントの確率で『爆』しかでないのだ。
集中力と上げて『空気』を作ろうとするも『爆』がでる。さらに威力もやるごとに何故か上がっていくため、はた迷惑極まりない。
すると、さすがにしびれを切らしたのか爆発を聞きつけた一人の生徒がカツジ達に近づいてくる。
その声は妙にピリピリしていて、苛つきが一声で分かる。
「君たちぃ~なぁにしてるのかなぁ~?うるさいし迷惑だぁ。先生が今この場にいないからってぇふざけすぎるのはぁよくなぁい」
妙におっとりした口調で現れたのは恐らくC組の人間だ。額を広くみせ、クルクルと先端が回っている金髪の髪。眼鏡をかけ、がさついてない綺麗な体操着を着ている。
「す、すまない。頑張ってはいるつもりなんだけど、中々『空気』がでなくて……」
「…………………ふぅん」
「『空気』がどう頑張ってもでないんだ。でるのは『爆』だけ……。迷惑かけたのは謝る!許してくれ。そして出来ればやり方を教えてくれないか?」
「――――――」
次の瞬間、ブォファ!っとカツジの体が空間に弾き飛ばされたように後方へ吹っ飛んだ。
「ちょ、何するアルか!?」
「あぁイライラする………なんだそれ、凡人でももうちょっとマシだよ?意味不明理解不能………所詮は凡人、か」
まるでカツジの存在全てを馬鹿にするように彼は文字通り見下した。
「野蛮人が多いこの学園でも、あの『アナスタス』、さぞ僕のライバルに相応しい奴がいると思って今日は期待してたけど、こんなもんか………。がっかりぃだよ」
「…………どうゆうこと?」
カツジは土を払いながら言った。
「どいつもこいぃつも………呆れる位馬鹿だ。無駄に青春ごっこしちゃってさぁ。無駄だし、非効率だし、何が楽しいわけ?それでいて全員才能のない凡人ばかり………いや、僕がありすぎるだけか。ごめぇんね、君。少しカッとなっちゃって」
そう言って立ち去ろうとした瞬間。ガシッ!と何者かが彼の体操着の袖を掴んだ。
アキレスだ。
「おい。さっきから聞いてりゃいい加減にしろよテメェ。カツジは真剣にやってるだろ。そいつをあんな大勢の目の前で晒し者にするみたいなこと友達である俺が許さねぇ」
珍しく声を低くし、怒りの形相に満ちている。クルクル頭は無愛想にアキレスの手を払いのけパンパンとホコリを払いのけるように袖を叩く。
「おやおや、天使族のくせに野蛮人代表のアキレス君じゃあなぁいか。なんだい?僕に敵わないからっていちゃもんをつけるのはやめて欲しいな。僕はぁただ彼に迷惑だかぁらやめてくれと注意しただけぇなんだけどなぁ」
「注意にしちゃあ度が過ぎてるだろ。ちょっと才能と家柄に富んでるからって調子にのるんじゃあねぇぞ」
「そんなに怒っちゃって。それとも、それも君が言う『わいるど』ってやつなのかい?僕頭悪いから分かんないなぁ~?そろそろ僕はおいとまさせていただくよ。一人で自習をしたいんで」
「おい!待て!」
そう言ってクルクル頭は去って行った。アキレスは手汗で酷く濡れた拳を強く、強く握りしめていた。何も言えなかったカツジはそのアキレスの姿を後ろから眺めることしか出来なかった。




