18 侍少女は強くなる
あれから2週間たった。最初は出来がダメダメだったカツジも図書館にあった例の本を使ったり巴が教えてくれたりしてなんとかマシにはなった。
巴はその後も成長を続け、ついには。
ザッギンッッ!!!と何千年の歴史をもつ大樹の一部が斬られる音がする。
美しい動きだった。完璧に一刀両断を果たし、木は自分が斬られた事すら自覚出来ない。
ちなみにこの神桜樹。根っこを斬って良いのかという疑問が湧くだろう。なんとこの木、不思議なことに数日経つと断面が塞がっているのである。
なんでも人間が計測不能の程の魔力を保有しているからだとか。今のところ詳しいことは分かっていないらしい。
カツジは思わず大きく手を広げて拍手した。なんだか自分の娘が受験に合格したようなそんな晴れがましさを感じる。
巴は木刀片手に少し照れながら、
「あ、ありがとう」
「やったな!!これで『魔刃』はマスターだな俺達!!この二週間本当に頑張った!!今からごちそうでも食べに行こうぜ」
『は?何言ってるんじゃ頭がおかしいのか?小僧はまだ半分しか斬れてないじゃろ。というかこの程度でマスターしたとは、失笑するにも程があるぞ、たわけ。儂からすればこんなの剣術の入門に過ぎぬ。世界一硬いと言われるダイアン石を手刀で割るぐらいしてくれないとだな―――』
相変わらず頭の中の鬼神は辛口だ。しかし今は巴が目標達成したこと喜ぼう。一人で勝手にはしゃいでいると、横から巴がカツジに言葉を投げかける。
少し緊張しているのか肩に力を入れながら、
「カツジ。改めて、ありがとう。多分君がいなかったらここまで来れなかった。君と、君の中の人に感謝を」
「―――――なんで俺も?このクソバカ鬼神なら分かるが」
カツジはキョトンとした顔で首を傾げた。馬鹿なのか鈍感なのか分からない彼に対して初めてため息をついた。鬼神も『馬鹿が…………』と呆れた声をこぼす。
コホンと咳払いをして場を変える。
「なぁカツジ。あの日の続きをしないか?今度こそ」
#####
ここ数日が鮮明すぎて今では懐かしく感じる。体育館の裏、円形のスタジアムのようなステージ。地面がもろむき出しだがかえってそれが動きやすい。
模擬戦闘室。結局途切れてしまった模擬戦の続きをしよう。
「一応聞くけど、なんでまたこんな事を」
「―――私は、あの日の事を今でも後悔してた。人と話せなくて、愛想が悪い私に嫌な顔せずに話してくれる君をガッカリさせてしまったことを。けど、今は違う。きっと今なら君と楽しめる。お礼をさせてくれ、剣で貰った礼は剣で返す」
巴はそっと胸に手をあて告げる。この言葉を聞いて数週間前のカツジなら驚いていただろう。何せメモ帳越しで会話してる少女がこんなにもスラスラと胸を張って言っている。
彼女は、成長したのだ。自信のなく不器用で、人と話すのが苦手な自分を乗り越えたのだ。
はっきり言うとカツジが彼女にどんなことをしてあげたのかは不明だが、これだけは言える。
貰いっぱなしなのは君だけじゃない。確かに最初は話すのも疲れていたかもしれない。
本音はウジウジしてる彼女に苛立ちを覚えていたかもしれない。話せないのに会話したがる彼女に矛盾を感じていたかもしれない。
けどそれだけじゃない。まだ数週間だが彼女と会話して、『魔刃』に触れるきっかけや、君に教えてもらった剣術。なにより君と話す時間は楽しかった。
だからこそ本気で応えよう。彼女と胸を張って並べるように。成長した互いをぶつけ合おう。
「よし。じゃあこうしよう。先に相手の木刀を『魔刃』で斬った方の勝ち!準備はいいか巴!!」
「―――――(こくり)」
巴は無言で頷いて和服の上着を脱ぎ戦闘態勢に入る。カツジも木刀の柄を握り直して構えた。
合図はなかった。
ガッッ!!と両者が正面から衝突した。
カキン!ガキ!!ゴッッ!!、と。
木刀同士を打ち合わせる音が鳴り響く。あのカツジが、だ。初めは巴の速さに翻弄されるしかなかったが今では彼女の動きについていっている。
これも鍛錬の成果なのか。
巴は姿勢を猫背のようにかがめ、砂の地面を踏み込み突撃する。まさに表現するなら音速と言ったところか。
それほどのスピードがカツジの木刀を獣のように狙う。
(とった!!)
角度、スピード、そして腕にかけた筋力。すべてが一定に達し今、『魔刃』が放たれる。
そしてカツジが取った行動は。
上。
横に逃げるのでも剣でさばくのでもない。天井、あの一瞬で5メートル程飛び上がった。
(けど空中では手も足もでない。着地狩りを狙えば………)
「うらぁ!!」
「ッッ!?」
ザッギン!!と空気が爆ぜた。カツジは腕を関節可動域ギリギリまで伸ばし木刀を縦に振るう。
『魔刃』はありとあらゆるものを斬る技術でもある。巴は『魔刃』を応用した何かと思った。
が、実際のところは(鍛えに鍛えた)筋力任せに空気を衝撃波として放った斬撃であった。
「けほっ、けほっ」
放たれた斬撃は地面に衝突し砂埃が舞う。
(しまった!見失っ―――)
「取った!!」
「くっ!!」
巴は直感でなんとか攻撃を受け流し砂埃から脱する。両者ハァハァと息を上げ額に汗の珠ができる。
汗を拭いながら巴は言った。
「カツジは地元ではダメダメだったって言ってたよね………嘘でしょ?」
「いや、嘘じゃないけど。みんな斬撃ぐらいはできてたよ。長老とか素手で海割ってたし」
(カツジの地元って怖……)
「にしてもやっぱ強いな巴は。いけると思ったんだけどそこまで甘くないか」
「いやカツジこそ短期間でここまで成長するなんて。尊敬する。けど、容赦はしない」
「むしろそうしてくれないと困るよ!!」
今度はカツジから突撃した。負けず劣らずのスピードで巴の懐に潜り込む。しかし直後、カツジの視界がぐわんと揺れる。巴は向かってくるカツジのすねに足のつま先でつつき転倒させる。
(まず!剣が――――)
木刀が来る。と思って受け流す姿勢に入ったのが駄目だった。グガッ!!と巴はカツジの顔面をゾウリを履いた足で蹴飛ばす。
まさか蹴りがくるとは思わなかった。その油断がつかの間。カツジは大きく吹っ飛ばされるが指を立て地面を擦りながら体制を立て直す。
だが巴の猛攻撃は終わらない。シュン!と風を切る音をたてながら低空飛行。ブジュリと肉が悲鳴を上げながら顔面に膝蹴りが突き刺さる。
鼻血を出しながら円形のスタジアムの壁に激突。
(ヤバいヤバい!!デジャブ!この展開前にもみた!!)
大事なところを学習しないのはこの男の悪い癖である。ドクンドクンと心臓の鼓動が加速し脳内で警報が鳴り響く。
緊張。
この隙を逃さない彼女ではない。すかさず全力の『魔刃』が飛んでくるだろう。前回みたいに奇跡の回避は無理そうだ。
『限界を超えろ小僧。目には目を、『魔刃』には『魔刃』じゃ。そら来るぞ』
「んな無茶言うなって!!クソっ!!」
舌打ちをしカツジも構える。今までのカツジだったら凄まじい闘気を一身に受けてチビりそうになるだろう。しかし今は違う。この数週間、彼女と共に特訓した。
巴の剣技は間近で見てきたカツジが一番知っている。思い出せ、彼女ならどんな軌道でどんなスピードでどのタイミングで来るかを。
イメージしろ!!
(男をみせろ、カツジ!!)
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉあ!!」
「てりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!」
二人の獣は吼える。巴は上から、カツジは深く頭を下げ、下から上へ軌道を描き剣を振るう。技術で言えば巴の方が一枚上手だっただろう。
同じ『魔刃』でも精度に違いがある。このまま行けばカツジの木刀が斬られてチェックメイトだった。
しかし相手がカツジだったのが巴の敗因だった。彼女の癖や動きを知っているカツジだからこそ。
感と集中力を限界まで高め巴の一撃をスルっと抜ける。下からの振り上げが巴を襲う。
ザキンッッ!!
彼女の木刀の真ん中から先が宙をクルクルと回り地面に突き刺さる。
「やった、勝ったぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
大きく雄叫びを上げ歓喜する。巴は数秒間驚きの顔で固まっていたが、ふっと息を吐きカツジに寄りそい握手を求めた。悔しいはずなのに何故か吹っ切れたような笑顔を浮かべ、
「よかったカツジ。ありがとう。けど、今度こそ負けないから」
「あぁ、こっちこそありがとう。巴のおかげで強くなれた。次も負けないようにもっと強くなるよ」
一人の少年と一人の侍少女は固い握手を交わした。
『ふむふむ。ま、こういうのも悪くないか。高見を目指して精進するのじゃ二人とも!!』
その時だった。シュルリと何か柔らかい物が落ちる音がする。紙…………というよりは布に近い音だった。すぐに目線を下げその物を手に取る。
確かに布だ。白く細長い衣服に使われるような。
布を首を傾げながら見ていると巴がプルプルと震えだした。
「どうした巴。なにか具合が悪いの、か…………あ」
「…………………………………………」
地肌が。そう、彼女の白く綺麗な地肌がみえた。さらしを巻いててみえなかった彼女のむn
「ッッッッ!!!!!!」
「うおっつ!!!??」
顔を真っ赤にした巴は背中の馬鹿でかい刀を手に取り地面をえぐるような斬撃を殺意を持ってくらわせる。険しい山脈のような斬撃をくるりと身を回転させなんとか回避する。
危なかった。あと数センチ斬撃がこちら寄りだったら文字通り真っ二つになっていた自信がある。
(まさかあの振り上げの時にさらしも斬れちゃったのか………!?)
巴は顔を真っ赤にしたまんま猛スピードでさらしを取り上げ文字通り瞬きの去ってしまった。
こんな偶然があるのか。これが父ちゃんの言っていた伝説の「ラッキースケベ」なのか。
しかし死にかけたのも事実。これを幸運と受け取るか不幸と受け取るか。
「ねぇ、これ俺が悪いの?」
『お主が悪い』
解せない。
#####
翌日。よく晴れた朝だった。今、カツジが最も恐れていることさえも太陽パワーで消し飛ばしてくれそうだった。
「無理無理無理!!気まず!嫌だー今日学校行きたくねぇぇぇ!!絶対嫌われたよ!あぁぁぁぁぁぁ」
そんなこと無かった。昨日の巴の顔を思い出すだけで罪悪感で内側から破裂しそうだ。
「落ち着くでござるカツジ殿。ほら、温かいコーンスープ」
「おちついた。………はぁ、終わったよ。俺なんて………………ぐすん」
「るーるる、るるるるーるる。カツジさんにマーマンさんおはようございます!今日もいい朝ですね!……ってどうしたんですか?」
ゲストを招きそうな鼻歌を歌いながらやってきたのは食堂のメニュー(お米魚味噌汁三点セット)を持ったエルザだった。
彼女とは朝よくマーマンと朝食を取る。朝は米派の彼女は和食定食一筋だ。
「昨日からこの調子で。何があったか聞いてもらっきーすけべ?がなんだのともえ?がなんだの言ってて困るでござる」
「ともえ?あぁ巴さんのことですか。そういえば前に巴さんのこと探してましたけど、どうかしたんですか?まさか喧嘩したとか」
「喧嘩というかなんというか。まぁ色々あったんだよ。はぁ………憂鬱だ。あれは俺が悪いのか?不可抗力でしょあれは!」
テーブルにうつ伏せになって病むカツジ。マーマンは呆れた声をこぼし、エルザは目をパチパチさせて首を傾げた、その時だった。
「カツジ。聞いてる?」
「あ?って巴ぇぇ!!?あ、いやその昨日のことはすまん!記憶から消しとくから切るのはやめて……」
「そんなことしない。あれは……忘れて。それより、一緒に食事いいかな」
「え?まぁうんいいけど………」
そう言って巴は和食定食をテーブルに置いて席に座る。すると彼女に話しかけたのは意外な人物だった。
「巴さんも和食定食、好きなんですか?」
「――――え、わ、私?」
「そうですよ。良いですよねこれ。お米の味がしっかり引き出されていて甘くて美味しいんですよ!どうやって炊いてるでしょう、なにかコツが………?巴さんはどう思います?」
「あ、いやえと」
「私独自の食べ方なんですけど。お米を口に含んだ後にお味噌汁を飲むと良い感じに米がパラパラになってまた違った美味しさがあるんですよ!」
「――――――――」
非常に困惑してますという目線を向けられる。が、カツジにもどうしようもできない。まだカツジ以外の人と話すのは難しそうだ。
「トッピングに納豆があるじゃないですか!お魚と大根おろしと納豆を混ぜて食べると―――――」
「あ、その、えと、え?」
距離感が近いエルザに翻弄されつつもなんとか朝食を乗り越えた巴なのであった。
巴
人と話すのが苦手な和国出身の侍少女。常に着物や和服を着ていて運動するときは上着を脱いでさらし一枚になる。恐ろしく不器用で何するにも上手くいかない。好きな物はシュークリーム。
どうやら天才を自称する妹がいるらしいが・・・?




