14 コミュ障の扱い方
コミュ障とは。
俗称としてコミュニケーション障害。他人と意思疎通をはかることや対話することが苦手である状態のこと。
「お茶だけど。温かいやつ」
「………………」
コクリと頷き挙動不審な動きで近くの屋台で買ってきた温かいお茶(110銭)を手に取る。熱いのは苦手ではないのかすぐにズビズビと飲み込む。
ずっと目を細めたカツジは巴の隣に座る。
「……………落ち着いた?」
「…………少し」
「――――ねぇ、もしかして君人と話すの苦手?」
「ッッ!?!?い、いや」
「いや、だってさっきからめちゃくちゃ緊張してるしずっと目合わせてくんないじゃん。顔も明後日の方向向いてるし。人が苦手ですオーラが凄いんだけど」
図星なのか顔を真っ赤にしてうつむく。
正直な話、かなり困惑してる。口数が少ない人は鬼の里にもいたにはいたが、ここまで対話に苦手意識を持ってるケースは初めてだ。
無口でクールな子なのかねと思っていたがただ人と話せないだけという事が分かると、少し残念である。
何やら彼女は小声でブツブツ言っているがとりあえず無視して話題を変える。
「そういえばあの板何だったの?使い方がいかんせん想像しにくいんだけど」
そう質問すると、オロオロしながら懐からペンとメモ帳を取り出す。カキカキと長文を書き込みカツジにみせる。
『砥石。侍たるもの、常に魂である刀の手入れを怠るべからず。かなり重要なんだ。この長い刀だと振り回しづらいし手入れの作業も多いけど、私は大いに気に入っている。この波紋の螺旋や色合い、鍔の形なんか見てると興奮してこないか?』
「………………」
メモの中ではベラベラと喋る巴は自身の刀の刀身を抜きニヤニヤしながら眺めている。
(思ったけど、忘れるような大きさじゃないよな、あれ)
しばらくカツジ黙った後、会話が途切れてしまったことに気付いたのかハッと目を見開きまた挙動不審になる。
カツジは目を細めて無言で立ち去ろうとする。すると肩をガッとつかまれ引き留められる。
『待ってくれ!こんなに話したのはかなり久しぶりだからもう少し話さないか!?』
「痛い痛い痛い!分かったから離してくれ!」
肩を庇うように手を当て彼女の隣に座り直す。カツジはふと思った疑問を投げかけてみた。
「んじゃあ、サムライってなんだ?聞いたこともないんだが…………そもそもどこ出身なの?なんかの民族?」
『民族ではない馬鹿者。説明書くから待ってろ」
巴は目線を目盛り向け速い執筆スピードでペンを動かす。説明が固まったのかペンを膝に置きカツジにみせる。
『侍っていうのは。私の故郷である『和国』に昔から伝わる人達のことで、魂である刀一本携えてどんな敵であろうと己の信念を決して曲げずに立ち向かう、そんなカッコイイ人達だ。私は、その、少し人と話すのが苦手だからそういう威風堂々とした生き方に憧れてるというか』
「…………少し?」
「――――!!」
「分かった分かった!言われたからって肩揺らすな!!」
またプイッと顔をそらしてしまう。どちらかと言うと呆れられた感じではあるが。
買ってきたお茶を飲み干すとカツジはゆっくりと立ち上がる。
「んじゃそろそろ行くわ。このことは内緒にしとく安心しろ。じゃn
そう言いかけた時、またもミカンを握り潰しそうな力で引き留められる。
『早い、早い!!もう少し話そう。こんなに会話したのは数年ぶりだからさ待って!!』
「分かった分かっただからはなせぇぇぇぇ!!」
激痛から解放されたカツジは背中を丸めため息をつく。
「じゃあ。そのさ、文字で会話するのもあれだし一緒に運動でもするか?心を通わせるにはまずは対話よりも一緒に体を動かす事が大事ってヒョウゾウ爺ちゃんが言ってたからな。そうだな例えば…………」
何かないかとぐるりと周りを見渡す。あのサッカーのゴールネットが使えそうだ。
カツジはグラウンドの階段のそばにある大きな籠に目をやる。その籠にからボールを取り出し足で踏みつける。
「サッカーでもしようぜ!」
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「ルールは誰でもできるPK戦。交互にやって先に10点入れた方が勝ちだ。さぁ、かかってこい!!」
ぱんぱんと手を叩き気合いを入れるカツジ。とは言ったもののサッカーなどほとんどしたことがないので単純なPK戦を選んだ。
ボールガードしときゃ良いんでしょ?いけるっしょ。というか軽い気持ちで構える。
巴は不安そうな表情をしながらボールから離れ、大きく足を踏み込みボールを蹴り込む。
スカッ
「…………………だ、大丈夫!もう一回やろ!」
コクリと恥ずかしそうに頷く。彼女も同じく初心者なんだろう。今度こそ狙いを定めてボールを蹴る。
ドガッ!!とボールからは中々でないであろう衝撃音が炸裂しゴールネットに
「!?!?」
向うことは何故がボールが斜め後方に飛び小顔な巴の顔面につきさった。
「巴ぇぇぇぇぇ!?!?大丈夫かー!?!?」
中々ないぞこんなこと。
どんなボールコントロールをすれば顔面にぶち当たるのかはだはだ疑問に感じつつも彼女のそばにかけよる。
背中を摩り大丈夫か?と声をかける。巴は大丈夫と言いたいのか顔をうずくめながらも親指を上に立てる。
やり直し二回目。今度こそ来て欲しい。
巴は緊張をほぐす為に大きく深呼吸をし、今度こそボールに意識を向ける。軽い助走をつけ大鎌のような動きでボールを吹っ飛ばす。
ドガッ!!と超次元サッカーにも負けず劣らずの衝撃を放ち、凄いスピードで飛んでくる。
(速い!!が、いける!!)
屈伸した脚を伸ばし拳を向かってくるボールに向ける。
ドッッ!!と指の骨が痛む音が聞こえながらもゴールネットを死守する。
はずだったのだがなんの神のイタズラか、ゴールエリアに入った瞬間ぐねりと向きが上に曲がり白い枠組みにガンっ!とぶつかる。
「…………………やめよっか、サッカー」
「…………………(コクリ)」
その後も何かといろいろやった。キャッチボールをしようとしたが何回も何回もあるぬ方向に投げたり、わざとやってんのかってぐらいコントロールをミスってカツジの顔面にに当たったり。
他にも色んなことをしたがことごとくアクシデントが起き、気づけば二人はベンチに顔をうずくめ体育座りしていた。
「……………言っちゃなんだけどさ。―――――不器用過ぎない?」
「――――――うぐ、ひぐ、えっぐ」
「え、ちょ、泣いてる!?いや、ごめんそこまで悪意を持って言ったつもりはないんだよごめんなさい!!」
巴は涙目でカキカキとペンを動かす。
『いいんだ。昔から不器用で、なにもこなせないんだ。私の方こそすまない。こんなに付き合わせてしまったことに申し訳ないと思ってる』
文章こそカツジを罪悪感を感じさせないようにと優しさが見えたが、彼女の瞳は儚げなく悲しそうだった。
「お、おい。どこ行くんだよ……………」
『帰る。今日はありがとう』
こちらを向かずそう書いた紙切れだけを渡して立ち去っていった。カツジはその背中をただ黙って見てるしかなかった。
#####
巴は夜道を歩いていた。
ため息を何回ついたことか。あの後から彼への申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
出来損ないの自分になにができようか。サッカーもキャッチボールもコミュニケーションも。これなら"妹"に馬鹿にされるのも当然だ。
昔から自分はドン引きするほど不器用だった。書道、茶道、川柳、魔術、何をしようとしても上手くいかない。そしてすぐにやめてしまう自分にも腹が立つ。
強いてできることがあるなら剣術ぐらいだ。刀を振るうことだけは飽きなかった。身内からは何かに取り憑かれたように剣を振ってて少し怖いとも言われたほどだ。
しかしそれしかない。理由だって侍になりたいから。和国では侍なんて過ぎ去った古い考えであるが、その武士道に巴は憧れた。
無意識に唇を噛みしめる。
タンタンと小さな足音を立てながら寮の門を通る。
「くかー、くかー、むむむむ」
「…………………」
すると門に背中を当てもたれかかっている管理人のお姉さんを発見した。相変わらず寝ている。受付に来たときも寝ていたほどだ。
仕事中なのにも居眠りをこけるその楽天さが少しうらやましい。
「そんなことないけど」
「!?!?」
「おはよう巴ちゃん。いや、今はこんばんはかな?帰ってくるのが遅かったね。おかえり」
巴はただいまの代わりに頷く。
この人はいつから起きていたのだろうか。ていうかそもそも口には出してないはずなのだが。エスパーか?
「常に楽天な人なんていないよ。私だって悩むし落ち込むし泣いたりだってする。でもそれをね、恥じることはないんだよ?」
「………………」
「巴ちゃん、なにか悩んでるね。顔見ればわかるよ」
まるで何百回と人々の懺悔を聞いているベテラン修道士のような表情で語りかける。巴はペンを懐から取り出しすらすらと文章を書く。
『私は人と話すのが苦手で、しかも不器用だ。今日、一人の少年を落胆させてしまった。そのことを悔いている。彼は私の為に色んな提案をしてくれた。でも、私にできることは何もない』
「本当にそうなのかな?巴ちゃん、勝手に決めつけないで。お姉さんはちゃーんと見ているよ」
「…………?」
「分かんないかな。お姉さんは巴ちゃんが毎日寮の外で剣を振るってるところちゃーんと見てるんだよ?」
「え」
「驚いた顔してるね。お姉さんは管理人さんなんだよ?あそこだって寮の領内だし」
視線を巴に合わせニコッと笑いかける。それはとても輝いて見えて同時に温もりも感じる。悩みに冷やされた少女の心を溶かすように。
「何があったのかまでは分からないけど、自分は何もできないなんて思わないの。何もできないか人間なんていない。巴ちゃんのその剣がある。
苦手なことから逃げるなとは言わない。でも、時には頑張って少しでもいいから立ち向かってみるのも大切なんだ。その巴ちゃんの自慢の剣で彼に何かしてあげたらどう?お姉さんから言えることはこれぐらい」
「――――――」
「それじゃあお姉さんはそろそろ定時なんで帰りまーす。夜更かしは厳禁だぞっ」
黒い巴の髪を撫でる。管理人のお姉さんは青いキャップ帽のつばを前に回し去って行く。
「あ、あの!!!」
「?」
彼女本人は大きな声を出していたかもしれない。実際のところ弱った子鹿よりも小さな声だったが、その音色には勇気が籠もっていた。
「ありがとうッッ!!!」
彼女は、ほっと微笑んだ。




