12 強さの使い方
時間はだいたい午後の8時ぐらいだろうか。どんどん闇夜は深くなり空気は冷たさを増していく。そんな中、ぽつんと置かれた公園に二人の少年がいた。
額に青白い角を生やした少年はウサギのようにだんだんと地面を踏む。
「おらおら。来ないならこっちからいくぞぉ!!」
「待て!?さっきから流れが読めぬ。貴様は何がしたい!?」
「あぁん!?久しぶりにイライラする奴に会って気が立ってるのじゃ!!いくぞぉ!!」
両脚を折り曲げバッタのようにゴウキの懐に潜り込む。ノーモーションで拳を直接に一発。ゴウキは咄嗟に腕をクロスし受け止める。が、カツジの猛攻は終わらない。腕をピストンのように何回も何回も撃ち込む。
「お主は自分の意思で闘ってるのかも知れぬが、それは大間違いじゃ!!それは悲願をという名の亡霊に取り憑かれてるにすぎぬ。そこにお主の意思は一つも無い!!」
「な、!?否、我は自分の意思で友との誓いを守ろうと………」
「本当にそうか!?ならその鍛えぬく過程で何を得た!?」
最後に強めの一発をお見舞いしゴウキはズズズズと擦れながら後退する。ハァハァと息を吐きながら下の両腕を見つめる。
「我は…………我は………」
何もない。何も過程で手に入ったものなど、これっぽっちの無い。強いて言えば力がついた程度だろうか。
誰かの役に立った訳でもなければ、自分に得になったこともない。ただ無心に、友の為に、友の為にと身体を鍛えた。
だが、よく分からないヘンテコ服装の奴にボコボコにされた挙げ句、自分の目的さえ全否定される。
そもそも強さを求めるってなんだ?誰かを倒すのが目標?どこまでが強いの基準のライン?…………分からない。
気付いた。今になってやっと気付いた。自分は何かをしてきたようで何もしてなかった。考えることを放棄し、まるで亡霊の操り人形みたいに必死になって努力した。
けど、結局自分は弱い。弱いままなんだ。
無駄に浪費した時間は返ってこない。もっとこうしてればよかったなどと思っても意味はない。
「だーかーらー。自分の中で勝手に完結させるなと言ったはずじゃ」
「…………?」
ゴウキは膝をつきながら首をかしげる。何が言いたいのだろうと心の中で呟く。
「お主。今何歳じゃ?」
「……………14だが」
「で、多腕族の平均寿命は?」
「ざっと100年前後だ」
「なら、まだまだ未来があるじゃないか。儂はお主みたいなタイプは何度もあってきた。会ったたびにイライラしてきた。何千年も年上の儂から一つ助言をやろう。過去ばかりを見つめるな。今を見ろ未来に期待をしろ。そうやっていつまでも後悔した過去にこだわってるじゃあない!」
「―――――」
「確かにお主は己の『芯』もないし、弱っちい子供じゃ。…………だが、子供だからこそじゃ。生きていれば何かがある。何かがあれば可能性がある。可能性があれば希望がある!!…………努々、それを忘れぬことじゃ」
「可能性………」
ゴウキはゆっくりと顔を上げる。そこには威厳と自信に満ちたまるで"鬼神"のような表情をした少年がいた。
「そうじゃ。お主は若い。若さ故の悩みなのかも知れぬが、勝手に自己完結するな!!周りに相談してみろ!!それともお主の友はキョウキしかいなかったのか!!?」
「―――――なら、我は、僕は何をすればいい………?強くなる以外に何が、僕が生きてる価値なんてあるのか?」
「知らぬ。だがそれを見つけていくのが人生というものじゃ。落ちても、焼けても、折られても、溺れそうでも、きっと何かが見つかるはずじゃ」
「きっと、何かが…………」
自分の人生は償いしかないと思ってた。自分がなくて、弱くて、情けなくて、何も残せない自分。だが、そんのゴウキでも何かが見つかるのか?自分に、何ができるか?
「唯一残ったその身体で、お主は何をしたい。もう亡霊とはおさらばじゃ。自分の、心の底から、叫べ!!その力は何に使う!?」
「僕は、僕は――――――」
ゆっくりと、ふらふらとした動きで、立ち上がる。しかしその瞳には『何か』が目覚めたような。
『強くなって、みんなを守ってくれ。俺の代わりに。お前ならできるさ』
「僕は!!もう二度と大切な者は失いたくない!!あんな惨劇はもう二度とごめんだ!!この無駄に多い腕はなんの為にある!?それは多くの人を守る為だ!!自分以外の人に、あんな思いはして欲しくない!!」
「ほう。それは随分と大きく出たものじゃな。それはとても茨の道で、何より強欲じゃぞ」
「けど、それを成し遂げようとするのも人生だ。すべて守ってみせる!すべて救ってみせる!それために強くなる!そのために力を使う!!」
カツジはスッキリしたような顔でニッと笑う。思わずゴウキも吊られて笑った。
「ははははははははははははははははははははははははははは!!!!」
「ははははははははははははははははははははははははははは!!!!」
夜だというのに近所迷惑など考えずに声を大にして笑った。ここまで腹の底こら笑ったのはいつぶりだろうか。笑いすぎてすこしむせたカツジはゴホンと咳払いし、拳を握った。
「さて、邪念は消えたか?」
「あぁ、きれいさっぱりなくなった」
「なら、そのためにはまずは特訓じゃ!儂が付き合ってやる!」
そして二人の少年は月夜の光をバックに飛んだ。ギスギスした空気のない、ただただ純粋な拳の音が夜の公園に静かに響き渡った。
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翌日。
『と、いうわけじゃ』
「なるほど」
カツジは廊下を歩きながらコクリと頷く。そんなことがあったのか。人の意識押しのけて何してんだろとは思ったが、まさか多腕族の少年、ゴウキを悟していたとは。
………………話を聞く限り中々に強引なようだが。
しかしそれも鬼神なりの思いやりだったのかもしれない。悩める力には力で悟す。毒をもって毒を制す…………少し違うか。でもそんな感じのイメージでいいだろう。
カツジはというと、あの後すっかり宿題をするのを忘れたので休み時間を合間に終わらせた宿題を先生に提出しにいくところだった。
ふと、一階の廊下の窓からグラウンドを見てみる。学校も迷うほどでかいのだからグラウンドもそれと同じくらい広い。まだグラウンドを使う授業はないから、ある日が楽しみだ。
2、3年生の人が走ったりなんだりしている。あの服装はなんだろう…………野球、かな?
何かそういう活動が学校にはあるのだろうか。
「我が盟友よ、今からトレーニングにいくぞ」
「…………………へ?」
そんなことを考えていると、ガシッと頭を掴まれた。その声はと後ろを振り返る。
「ごごごゴウキ!?なんでこんなところに!?」
「お前が中々見つからないから、わざわざここまで来たのだ。ほら早くいくぞ」
「いやいやどゆこと!?俺今忙し――――」
「特訓に付き合ってやると言ったのはそちらだろう。ほらいくぞ」
そう言ってズルズルとカツジを引きずっていく。あーだこーだ言ってもゴウキは聞く耳を持たず、むしろ頬を緩ませ楽しそうにしている。
「あれ?カツジさん達何してるんですか?」
「あぁエルザ!!ちょ、助けて!!今から職員室にいかなあかんのにこいつが!何か言ってくれ!!」
「―――――二人とも、仲良くなったようでよかったです」
「違ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁう!!!!」
この後滅茶苦茶ランニングした。




