11 悲願という亡霊
「―――ゴウキ。そうか、ゴウキか。んじゃあボコすけど今のが遺言ってことでいいんじゃよな?」
「ほざけ。卑怯者の言葉に聞く耳などもたぬ。ごちゃごちゃ言ってるのならばこちらからゆくぞ」
「くく。いいじゃろう。魔術は使わないでおいてやる。漢なら拳で語ろうぞ」
互い大きく構え、睨み合う。チカチカと光る電灯だけが闇夜に染まる公園を照らす。静寂が数秒間二人を包み込んだあと。
合図はなかった。
ドガッ!!と地面の砂を踏み込み激突する。カツジは二つ、ゴウキは下の二つの腕で組み合う。
「我には4つ腕があることを忘れたか!!」
上の腕2つを組み合わせ落ちてくる鉄球のようにカツジの脳天を狙う。だがカツジは動じなかった。むしろ、逆に、二回りくらい太いゴウキの腕を前に引き寄せ重心を崩す。
近づいてきた無防備の腹に、一発!
グギリィッッ!!とゴウキの灰色の肌が歪む音がする。
「ぬっっ!?」
「何も避けるというのは、こちらが動くだけではないのじゃぞ?こんな風に、なぁ!!」
姿勢をかがめ、左脚を軸に右脚で弧を描く。足に引っかかって体制を崩した隙に前蹴りぶち込む。
ゴロゴロと転がりながらブランコを取り囲む柵に激突する。
「ほれほれどうした?これで終わりじゃなかろうに」
「ふっ。少しだけ効いた。少しだけだがな」
ゴウキはポンポンと砂を払い構え直す。
「強がっても意味ないぞー?肋が少し逝っちゃったかのぉ?もっと来い来い!!」
「言われなくとも、貴様のような輩に負けていては"友"に笑われるだけだ。この世は強さがすべてだ!!」
ゴンッッ!!とゴウキは両腕を地面に叩きつける。するとモゴモゴっと地面が膨れ上がり岩の刺が山脈のように連なる。
カツジめがけて岩の山脈が向かってくる。
「なるほど。大地を魔力で歪め思い描いた形に再構築するとは。だが、儂に言わせればこんなもん」
まるで腕に噛みついてきた狂犬を振り払うような動作で粉砕する。素材が砂だからか変に柔らかい。
「子供騙しにもならぬn
「油断したな。傲慢になるのは戦いにおいて最も愚行であることを知らぬのか!!」
粉砕した時に舞った砂埃からゴウキは姿を現してカツジに接近する。4つの腕をフル活用しまるで蒸気機関のように突きを連発する。
「うりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃあぁ!!!」
「(あ、いいこと思いついた☆)」
「ッッ!!今だ!!」
カツジの緩んだ隙間を掻い潜り岩石のような拳がカツジの側頭部に突き刺さる。
ゴッッッワッッッッ!!!!
ピタッとゴウキは手を止めた。止めざるを終えなかった。思わず距離をとり防御の体制をとる。
(なん、だ…………?今の覇気、は?)
とてつもない威圧がゴウキを襲った。プルプルと足がすくむ。魂が警鐘を鳴らす。
威圧だけでも体を吹っ飛ばされんほどの覇気。並の常人ならば失神していただろう。こいつは何者だ?そんな疑問がゴウキの脳を走り回る。
「ん?少し威嚇した程度じゃがまさかちびっちゃったの?」
「――――否、そんなことはない。決して」
「はは、そうかそうか。――――なら」
「?」
ボワッッ!!と複数の炎の塊がカツジの周りを星の周りを回る衛星のように旋回する。
ビリビリと青白く光る角が電気を帯び、そのエネルギーは今にもそこら中に雷でも撒き散らさんとしていた。
ゴウキはゴクリと唾を飲み込む。こいつはただのホラ吹きではない。
「遊びは終わりじゃ。本当の決闘というものをみせてやろう」
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『ねぇキョウキ君。なんでキョウキ君はそんなに強くなろうとするの?』
『どうしたゴウキ。我が強くなろうとする理由?はっはは!それはもちろん、カッコイイからだ!!』
『……………それだけ?それにしてもやりすぎだと思うよ?今だって片手で逆立ちして筋トレしてるし』
『んーまぁそれ以外の理由も勿論あるんだがな!』
『どんなの?』
『ふっふっふ。それはだな、―――――――』
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ふぅ、と息を吐く音が一つ。春とはいえ夜にもなると冷え込んできた。着ている学生服を抱くようにして体を少しでも寒さから守ろうとする。
「―――――で、もう終わりかえ?」
「ぐ、ぬぅぅぅぅぅ!!!!」
『ぷはぁ!!や、やっと抜け出せた…………。おい!突然人を押しのけやがって、何して、ほんとに何してんのぉぉぉぉぉ!?!?』
カツジは倒れ込んだゴウキの上に座り込んでいた。一分程度しかなかった。少しだけ本気を出したカツジ、いや鬼神にはゴウキといえど手も足も出なかった。
「おう小僧。やっときたか。でもまだ終わってないからまだ寝てろ」
『ちょ、説明し――――――
パチンと指を鳴らしカツジとの通信を切った。
ゴウキはというと、これほどかと言わんばかりの恥辱と悔しさに唇を噛みしめていた。
炎で体中軽い火傷を負い、文字通り目にもとまらぬ早技で全身ボロボロ。まず14歳の少年がつく傷じゃなかった。
カツジはまるで王様気分でゴウキを見下ろしニヤニヤと笑う。
「どうじゃ、井の中の蛙の気持ちを味わった気分は。所詮お主は弱体化した儂にすら手も足もでない奴だということじゃ。確かにゴウキ、お主はまだまだ可能性はある。しかしお主は『芯』がない。決定的な何が足りんのじゃ」
人差し指を立てて言う。
「『芯』、だと?」
「そうじゃ。お主の攻撃一つ一つに自分らしさが足りん。何かあるな?そんなんだったら儂には到底及ばんぞ。お主が強さにこだわってる理由もそこにあるとみた。興味がある、話してみろ」
顔を地面にうずくめ唸るゴウキ。少し落ち着いたのか、力を抜き、しばらく沈黙した後、ゴウキは開き直ったような口ぶりで語り始めた。
「―――――我には一人の友がいた」
「ほう、友とな」
「名をキョウキという。キョウキは強かった。多腕族でありながら二つの腕しか持たず、それでいて体格も小さかった。しかし、天才という奴なのか奴は一度と負けたことはなかった。さらに自ら研究を重ね常にトレーニングを怠らなかった。当時、引っ込み思案で弱かった我は憧れた」
(引っ込み思案て、意外じゃなあ……………)
ゴウキは少し悲しそうな顔をして続ける。
「そんな我にキョウキは優しく接してくれた。たまに一緒に出かけたり、闘い方を教えてもらったりもした。だが、別れは突然だった。ある日我らは二人で森に探検しに出掛けた。村では危ないから行ってはいけないとされたが、幼い好奇心には勝てなかった。我らはそこで謎の魔獣に襲われた」
「魔獣じゃと?まさか――――」
「―――そうだ。奇妙な魔獣だった。獣とも言えず、生物には見えず、しかし命があり魔獣たらしめる不気味さがあった。キョウキは戦った。怯えて部様な我を守る為に。だがキョウキは負けた」
『駄目だ!!キョウキ君!!死んじゃ嫌だ!!』
『ゴウキ。いつか我の望みを叶えてくれ。そしてみんなをま――――』
「そう言いかけてキョウキは喰われた。頭がおかしくなりそうだった。走って走って逃げた。我は己の弱さを憎んだ。あの日ほど自分に憎悪の炎を燃やしたことはない」
尻に敷かれるゴウキは一筋の涙を流し、怒りと悲しみに満ちた声で呟いた。
「我は、我は!――――――僕は、弱い。どうしようもないゴミくず同然だ。あの言葉が、頭から一日たりとも離れないんだ…………。あの日からあの言葉は僕にとって呪いの言葉になった。僕が弱いからか?弱いからか呪われたりするのか!?なぁ、どうすればいいんだ…………?」
悲哀に満ちた瞳がカツジに突き刺さる。彼は悩んでいたのだろう。自分にしかできない友の悲願を、しかし自分の才能では決して届きはしない事に。
罪悪感を感じていたのだろう。自分なんかよりもよっぽど未来のあるキョウキが自分を助けて死んでしまったことに。
怒りを感じていたのだろう。あの日なにもできなかった、情けなくとても、とても弱い自分に。
友の悲願と言う名の亡霊に長年取り憑かれ、以降強さを求めることしか生きる目的を、強さを得ることでしか償いができなかった少年にカツジはそっと手を差し伸べ
「る、わけないじゃろぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
「ドゥべぇッッ!?!?!?」
空気を読まず彼の右頬を思いっきり蹴り飛ばした。実はこの時復帰したカツジ(ご本人)が頭の中でガヤガヤ騒いでたがめんどくさいのでまた通信を切った。
ピキピキッと額に血管を浮かべイライラしたような顔つきで倒れ込むゴウキの前に仁王立ちする。
「はぁ……………お主馬鹿じゃな!典型的な馬鹿じゃ!!まだ道はいくらでもあるのに勝手に自分の中で完結させて終わった気になってる典型的な例じゃ!!」
「な、――――え?」
「解説が欲しそうな顔じゃな。まずは自分で考えてみろ」
「…………………………………」
「ぶっぶー違いまーす!!」
「まだ何も言ってない!!?」
首根っこをつかんで困惑したゴウキを立たせる。キョトンとした顔のゴウキに向かって指をさし叫んだ。
「答え合わせは決闘の続きをしながらお送りします!!おら構えるんじゃ!!」




