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10   決闘?


 カァーカァーカァーと黒鳥の鳴き声が響く。恐らくまだ夕方なんだろうが午後から曇ってきたのですでに真っ暗だ。


 額から青白い角を生やしたカツジ(鬼神)は帰り道の近くにあった公園のベンチに座り込んでいた。



「――――なぁ、小僧。そろそろ出てきてくれぬか?もうええじゃろ、さすがにやり過ぎたと思ってるからさぁ。長いよ、何千年ぶりに学校の授業なんて受けたと思ってるんじゃ。疲れた」


『もうやだ。終わったんだよ、俺の学園生活は終わったんだ。ははは、はは』


「…………まぁ、生けてりゃそんなこともあるものじゃ。案外、自分が気にしている事は他人にとってはすぐ忘れ去られる事なことも多い。ドンマイ」


『他人事みたいに言いやがって!!確かに、確かにさぁ…………今回は俺が悪いんだけどさ………ぐすん』



 あの後、出てこないカツジの代わりに鬼神が授業を受けた。5千年ぶりにペンを持ったからか指が未だに疲れている。あの多腕族の奴、ずっとこっちにらんでたなーと星の見えない曇った空を見上げながら呟く。


 電灯がチカチカと光り始めた。



 もうそんな時間か。



 ふぅーと特に理由もなく一息つくとカツジ以外の声がかかってきた。



「カツジさん、こんなところにいたんですか。もう遅いですよ。何してるんですか?何か悩み事でも?」


「あぁ従者の娘か。別に、小僧が全然出てこないからここで話してるだけじゃよ」


「相変わらず意味不明なことを口走ってますね。全く今朝は驚きましたよ。いくらカツジさんが凄いからって神様を名乗るのはさすがにバチ当たりですよ?あの人からすっごいにらまれてましたけど大丈夫でしたか?」


「それを言うならこの小僧に言ってくれ。頭の中でブチブチ言ってうるさいのじゃ。それより、お主はなんでこんなところに?」



 カツジは脚を組み直し尋ねる。エルザはカツジの隣に座り荷物を膝に置く。



「本屋に行ってたんですよ。せっかく都会に来たんだから本屋くらい行っとこっかなーと思いまして。やはり品揃え豊富です、3冊も買っちゃいました!」


「…………そういえばあの鉱山のバイトどうするのじゃ?ここから通ったりするのか?」


「さすがにそれは厳しいですかねー…………。どこかバイト募集してる場所がないか探してみましょうか。月普及されるお金じゃ少し足りないですしね。もっと欲しいものとかありますし」



 ふーん、と興味なさげに呟く。エルザは尻尾を揺らしながら、あれはこれはと妄想を膨らましている。


 そういえば気になることがあった。



「時にお主、自己紹介の時に自分がサキュバスのハーフだってことを有無も隠さず言ったな。どうした、先日まで服に隠してただろうに」


「あ、そのことですか。――――実は私あの夜、ルカさんという騎士さんに助けてもらったんです。悪魔の血があるからなんだと、パニックに陥ってた私を含めた皆さんを抑えてくれたんです。ハーフとはいえサキュバスである私は、差別的な目で見られることを避けてました。けど、あの人のおかげで少し考えを改めたんです。理解してもらうには隠さずに本当の自分を見て貰う必要があると。何よりこれから一緒に生活していく皆さんに始めから隠し事なんてあれですしね。…………カツジさん?」


「―――――っは!?ね、寝てないぞ!?」


「本当にひっぱたきますよ」



ガチトーンで言われた。ムスッとした顔でエルザはベンチから立ち上がると公園の出口へ歩いて行く。



「む?もう帰るのか?」


「はい、もう暗くなってきましたしね。宿題でてるので急いでやらないとです。本はその後。カツジさんも遅くなりすぎないように気をつけてくださいねー!!」



彼女はゴテゴテした石ブロックの間を通り抜けていきながらそう言った。



『え、うそ。宿題って出てたの!?』


「せめて話の内容ぐらい聞いてたらどうじゃ…………?」





#####




「さて、そろそろ儂らも帰るとするか。明日はサボらずにちゃんと授業受けるんじゃぞ」


『分かってる。いつまでもうじうじしてても意味ないからな。で、宿題って何出てるの?俺聞いてなかったんだけど』


「確か、えーと、算術の軽い問題プリントだった気が…………ん?」



 何者かの視線を感じる。相手はうまく気配を消しているようだが、発せられる怒りの感情が溢れんばかりに漏れ出していてバレバレである。


 カツジに怒りの感情をみせる人物など心当たりしかない。恐らく奴だろう。


 カツジはゴキゴキと首を鳴らし目を細めて言った。



「おい、そこの多腕族のガキ。バレバレだから出てこい。全くなんのようじゃ」


「ふん。我の気配を感じ取るとは、口だけではなさそうだな」



 ガサゴソと公園の茂みから出てきたのはやっぱりあの多腕族だった。



 2メートル近い巨体を有しておりながらあの小さな茂みに隠れるとは中々のチャレンジャーだが、本人はそんなことはどうでもいい様子。



「貴様の吐いた愚かな言葉が頭から離れぬのだ。ふつふつと頭の中の血液が沸騰していくのがわかる」


「――――で、何が言いたいのじゃ?」


「単刀直入に告げよう、ここに我との決闘を申し込む」


「決闘、ねぇ。…………はて、そんなことに何か意味があるのか。儂はさっさと寝たい。くだらないガキの遊びに付き合ってる暇はないのじゃ。んじゃそう言う事で」



 ため息をつき後ろにくるりと回って歩き出した瞬間、待てと低い声で手を掴まれる。意外と高身長のカツジを表情一つ変えず一本の腕で持ち上げ目線を合わせる。



「今朝言ったであろう。渇を入れてやるとな。己の未熟さと愚行を憎むがよい」


「――――――そうか、ならさっさと終わらせてや、るっっ!!」



 グジャリ!!と不気味な音を立てながらカツジは顔面に頭突きを食らわせる。不意打ちに鼻血を出しながら後退する多腕族の少年はギロリとこちらをにらみ、



「貴様ッッ!不意打ちとは卑怯なり!戦士として恥を知れ!!」


「儂は騎士道だとか正々堂々だとか良い子がしているような戦い方は好まぬ。そんな甘っちょろいこと言ってられるか、やっぱガキじゃな」


「――――次から次へと、我に対する侮辱、許さぬ。多数の戦士を代表し、貴様に思い知らせてやる。行くぞッッ!!」



 次の瞬間、ドガッ!!と脚を踏み込み少年は突撃する。その巨躯からは想像できない程のスピードでカツジの懐に迫り拳を突き刺す。



「筋は悪くないの。しかしその程度じゃ儂に渇を入れるどころか拳一本いれられ、グフォ!?」



 目を閉じて舐めプをしていたら突撃斜め上からミサイルのような衝撃が走る。重い一撃は深くカツジの体全身を震わせる。



 グラリと一瞬だけ視界が揺れる。その隙に更に顎にアッパーカット、ふわりと浮かんだカツジに追い打ちをかけるように顔面に一発入る。



 公園の地面を転がり吹っ飛ばれる。ぺっぺっと砂を吐き青白い角の横に血管を浮かべながら立ち上がる。



「あーあ。ガキ、確かお主の名前は聞いてなかったなぁ………なんというのじゃ?」


「ゴウキ。我は貴様を倒す者である。いざ心情に、勝負」



 夜の公園での静かなる決闘が幕を開ける。




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