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7   同居人はスーパーフィッシュマン


 夕方のサクライの街をトホトホと歩く。憂鬱………とまではいかないが、蓄積された昨日からの疲労とルーメルン先生の説教に加え、今は俺の中でふて寝している鬼神が壊した屋根の修理までやらされたおかげで体中がヘトヘトである。


 速く寮に行って休みたい………。頭の中はそれしか考えられなかった。


 アキレスはというと説教からの逃亡を図ったと思ったら余裕で先生に捕まり、修理の後さらに説教を受けている。こういうのは黙って従った方がいいのだ。俺はそれを母ちゃんで学んでいる。



 ふと、カツジは両親のことを思い出してみる。今頃あの二人を含めて鬼の里のみんなは何をやっているのだろうか。



 父ちゃんはヘマをやらかして母ちゃんにしごかれているだろうか。ヒョウゾウ爺ちゃんの腰が爆発していないか心配だ。年下三人はどんな新しい遊びを考えているだろう。



 ……なんか、みんなが遠くにいるように感じた。いや、星の裏側まで飛ばされたんだから当たり前なんだけどね?なんかこう、そういうことじゃなくて、違うんだよ。



 そんなことを考えていると、寮が見えてきた。門の前には一人のお姉さんがよだれを垂らしながら居眠りしている。


 見た目からしてカツジより10年上だろうか。長い黒髪に青いキャップをかぶり、黒のポーカーを羽織っていた。これが都会のファッションだろうか、カツジのこのいつの間にか着ていたヘンテコな服装よりか全然ましである。


 机の上には受付と書かれていた看板がポツリと置いてあった。



「あのー、すみません。受付お願いしたいんですけど」


「くかー………くかー…」


「あのー、お姉さん?」


「くかー、くかー」


「聞こえてますかー。おーい、おいこら」


「くかー、くこー、こけー」



 駄目だ全然起きねぇ。どうしよう、このままじゃ寮に入れないではないか。今すぐにでも眠りこけたいのに。カツジはそっと彼女の横に立つ。白い肌の耳に手をよせ、息を吸い込むと。



「わっっ!!!」


「だぁぁぁぁぁぁアパラチアサンミャクゥウ!?!?!?」


なんだその驚き方は。


「やっと起きた」


「……あ、ごめんごめん!私隙あらば寝てしまう体質なもので……ははは。で、君は新1年生かな。どうしたのこんな時間に、みんな受付終わって寮に戻ってるけど」


「まあ、色々ありましてね。それで、受付をお願いしたいんですけど」


「あぁ、はいはい。部屋割りに関してはくじ引きで決めているんだけど、君の場合ほとんどの部屋が埋まってるから、この残った二つから好きに選んでいいよー」



 そんな適当でいいのだろうか。くじ引きで部屋を決めていることに驚きと不安を隠せないカツジだが、とりあえず指示に従ってみる。


 見せられた紙にはズラリとチェックが書かれていたおり、空いているのは1階の左奥と2階の一番右の部屋。


 んー、と手を顎にあて考え込んだ末に出した答えは。



「それじゃあ、この2階の一番右の奴でお願いします」


「はーい。それでは、君の名前を教えてくれるかな?」


「えっと、カツジです。ただのカツジ」


「カツジ君……カツジ君……あった、うん。写真からして本人だね。それじゃあここにサインお願い」



 カキカキと名前を書き込みいざ出陣。速く寝たい、布団が俺を待っている。


 玄関を開け中に入る。


 というか下を見下ろして気づいたのだが、なんで靴だけ着てきたやつのまんまやねん。バランスが絶望的に悪い、このヘンテコな服もあれだし何か新しい服がほしい。が、当分はこの服のまんまだろう。


 通路は赤い絨毯がびっしり敷かれていて、ところどころに小さな明かりがある。こんな小さな明かりでもここまで明るくなるのかと、都会の科学力に新鮮味が沸く。



 階段を上り遂に部屋まで来た。201号室と書かれた紙がある、ここで間違い無いだろう。


 ふとドアノブに触れた瞬間思い出す。午前中に「一人部屋」争奪戦レースをやったのだから、もちろん同居人がいるだろう。一体どんなやつなのだろうか、できれば親しみやすい人がいいなと願いつつドアノブをひねる。


 

 中は大変シンプルで、玄関には靴置き場があって、通路をまっすぐ行くと広い部屋に二段ベッドが一つと、ダイニングテーブルがぽつんと置いてある。



 キョロキョロと周りを見渡しながら中に入る。玄関には靴がすでにあったため同居人はいるはずなのだが、見当たらない。



 すると、ジューという何かを焼く音とともに香ばしい香りがカツジの鼻につく。なんだなんだと後ろをみると、




 ダイニングキッチンに鼻歌を歌いながら調理をしている、二足歩行の魚がいた。




 開いた口が塞がらないとかこのことだろうか。しばらく口を開いたまんま絶句していると、その魚人間と目があった。初対面の第一声は、



「ギャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!」


「逆でしょ!!それ俺が言うセリフ!!叫びたいのこっち!!」


「はっはっは!!すまぬすまぬ、一度やってみたかったのでな。失敬。して、貴殿が同居人でござるか?」




#####




「はい、拙者の得意料理スパゲッティでござる。疲れたでござろう?きちんと運動してしっかり食べてぐっすりと睡眠をとる、これが一番健康にいいでござる」


「………あ、ありがとう」



 目の前の魚人間はスパゲッティをテーブルにカツジの分も置いてくれる。


 ………しかし、どこから話せばいいのだろうか。



「む?食べないでござるか?もしやスパゲッティは好きではない………?」


「いやいや食べるよ食べる!食べるのは初めてだけど。いや、その、君凄いね………見た目」


「はっはっは。よく言われるでござる。何しろ拙者、魚人族でござるからな」


「魚人族!?あの!?」




 魚人族。水辺のある地域に住んでいると言われ、肺呼吸とえら呼吸の両方を兼ね備えた種族。特徴的なのはその見た目。魚人、と言われるだけあって、魚の顔から下をぐにゅーんと伸ばし人型にしたような感じ。


 実際、目の前にいるのは薄緑の色をして肌はピチピチしている。よく見ると指には水かきやヒレなどがあって本当に、魚人間と言うべき姿だった。



「そんなにジロジロと見られると照れるでござるなぁ!」


「いやー、ほんとにいたんだー魚人族。本で読んだことはあるけど、思ったより魚っぽいね。ねぇ、人魚ってほんとにいるの!?」


「まぁまぁ、質問には答えるでござるが、話していたらご飯が冷めてしまうでござる。手を合わせて………」


「「いただきます」」



 銀色のフォークを手に持っていざ実食。スパゲッティ、実家では出てきたことは無く、たまに街に行ったときに食品サンプルとして見たことはあるが、食べたことはない。


 この赤?オレンジ?色の麺が少々気になるが、今は食欲のままに麺をすする。



「ん!?」


「どうでござるか?」


「――――――美味ぇ、めっちゃ美味い!!色が少し気になったけどそんなのを吹っ飛ばすぐらいに美味しい!特にこのひき肉がよろしい、ケチャップの味かな?それをを引き立てる!!」


「そうでござるかそうでござるか!そんなに言われると拙者も嬉しいでござる!!スパゲッティにはチーズをかけるといいでござるよ………あれ、そういえば貴殿の名前を聞いていなかったでござる」


「む?ほれのははえははふじだ」


「まずは飲み込むでござる」


「ゴクンっ!俺の名前はカツジ。鬼の里から来た。つっても生まれつき角はないんだけどな。修行の一環としてここに投げまれた」


「ほーー、鬼とな。カツジ殿もずいぶん珍しい種族でござるな。南の鬼族は自分達の領域以外の者を敵視すると聞いたが、カツジ殿はそんなことなさそうでござる」



カツジはフォークを口に含んだまま首をかしげる。



「南の鬼族?俺は北から来たけど」


「何っ!?北にも鬼族は住んでいるのでござるか!?知らなかったでござる……世界は広いでござるな」



 食べ終わった皿にフォークをおいて汚れた唇を拭きながら、



「そういえば君のの名前を聞いてなかったわ。なんて名前なの?」


「ん?そういえば自己紹介がまだだったでござるな。拙者の名前はマーマン!!人呼んで、水辺の料理人!!これからよろしくでござるよカツジ殿」



 歌舞伎役者のようなポーズをとるマーマン。


 なるほど、料理人と名乗るからには料理が得意なのだろう。二人は握手をしてから台所に皿を置く。



「そういえば、カツジ殿はもうすでに神桜樹を拝んだでござるか?」  


「あいや、まだだけど。そんなに凄いものなの?その神桜樹って」


「それはもう偉大でござるよー。このマーマン、スケールの大きさに心を奪われてしまったでござる。皿は拙者が洗っておくから、カツジ殿は就寝時間までに見てみるといいでござるよ」

 


 なら、お言葉に甘えてカツジは神桜樹を見に行くことにした。

  

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