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5  鬼神とワイルド・エンジェル(笑)


 颯爽と風のように去って行ったカツジを追い、白髪ワイシャツの半分サキュバスはヒィヒィと息を切らしながら走っていた。



「ぜぇ、ぜぇ、や、やっと半分です。疲れたー……。カツジさんやアキレスさんも今どの辺でしょうか。もしかしたらもうゴールしてるかも」



 次の瞬間、エルザに吐き気を催す神聖な光が襲った。不意打ちの急襲に膝をついて口を押さえる。



「なな、何ですか………これ。うぷ」





#####





 天使族。天高くそびえる巨大な豆の木、雲をも貫くとされるジャンク大樹。その大樹が貫く雲の上に生息していると言われる希少種。


 昔、今は滅びた悪魔族との戦争においてかなり数は減ってしまったが地上とは離れた地域で平穏に暮らしている。自らを『神の使い』と名乗り、神に祈りを捧げ信仰し、自分達が生きていられるのは神の加護によるものだと考えて生きている。


 地上に住まう者を欲望に溺れた"けがれ"として忌み嫌っており、人との接触を避けている。





「かかっ!!そんな天使族とご対面とは、やっぱりこの体で正解だったかもしれんのぉ!!」


「あまり俺を天使族天使族言うな!!俺は地元が嫌いなんだよ、できれば羽は使いたくなかったが仕方ない!!行くぞカツジーー!!」


「ふんっ、望むところじゃ!!」



 片や地上を走り、片や宙を舞う。


 アキレスのスピードはさっきより比べものにならないぐらい上がっている。やはり鬼神に体をゆだねたのが正解だったようだ。


 神秘の羽を散らしながら飛ぶアキレスを見上げながら走っていると、



「そういえば、このレースって妨害はありじゃったんだよな?」


『え、確かにそうだけど……おい、てめぇまさか何かしでかす気――――』


「ふふん、天使族ならちょっとポンってやっても大丈夫じゃろ」



 ペロリと楽しそうに唇を舐める。少しスピードを上げ、前斜めに飛ぶ。脚を天に掲げオーバーヘッドキックの体制をとると、サングラスをかけたアキレスと目が合う。


 ドッッッガッッッン!!!とまるでサッカーボールを蹴るようにアキレスの体を地上へたたき落とす。ズガガガガガガとそのまま地面をえぐるように擦れる音がする。



『ポンっ、じゃねぇよこれは!!あれ、大丈夫なのか!?』


「多分大丈夫じゃ。天使族の羽はなぁ……ほれ、よく見ろ」



 カツジは吹っ飛んでってアキレスの方を見る。すると、金色に輝く光線が直線に飛んできた。咄嗟に体をひねって避ける。


 煙の中から白い球体のような物が出てきた。………いや、あれは球体ではない。


 羽で身を覆ったアキレスだった。



「中々にワイルドな攻撃だったぜ。だがその程度の攻撃じゃあ俺の羽に攻撃を通すことはできない。これは、お返しだぜ!!」



 アキレスが手を横に振るう。すると背中から生える6枚の羽から光線が発射された。



「光系統の魔術か。天使族は光系統の魔術に適正があると聞いておるから、これで確定じゃな。くく、面白くなってきたわい。小僧、少し飛ばすぞ。疲労でぶっ倒れるなよ」



 バッ!!と前に走り出す。手で光線を払いのけながらアキレスの懐に潜り込む。鋭い回し蹴りを炸裂させ、規定コース外へ斜め上に吹っ飛ばす。


 アキレスはギギギと足を滑らせながらもなんとか体制を立て直す。だが、やる気になった鬼神は止まらない。



「うらうら、どうしたのじゃ?避けてばかりじゃつまらんぞ!!」


 次の瞬間、右手の指を一つずつ折っていき拳を作る。爆発かと錯覚させるような破壊力のある突きがアキレスに襲いかかる!



 ズパン!!と音がなる。カツジの鉄拳が受け止められた。



「ッッつー、おいおいカツジ、俺をそこら辺の天使族と思ったら大間違いだぜ?肉弾戦ができないとは誰も言ってねぇ!!」


「っは!鬼神の儂に肉弾戦を申し込むとは、いい度胸じゃあ!!」



 拳と拳が交差する。広い屋根の上で繰り広げられるのはもはや妨害の域を超えている。



「けど、そこに変化球じゃ」



 ボファ!とカツジの掌から火球が発射される。アキレスはすぐさま羽で自身を覆う。天使族の羽はすべての暴力を受け流す、故に並大抵の攻撃では傷一つどころか汚れすらつかない。


 火球が今、羽に届く。


 ボワッッッ!!!


「何!?」


 火球が突撃広がり、火の薄い壁がアキレスの体を羽ごと包み込む。



「結界魔術の応用じゃよ。結界魔術ってのは本来、魔圧バリアの大規模バージョンじゃ。同心円状に広がる魔力を火球に込める、火球が破裂した瞬間、中に込めた高密度の魔力が展開される仕組みじゃ。これ、調整するの大変なんじゃよ」


「なぁるほど……しかし、ワイルドな俺にそんなバリアは……きかぁぁぁぁん!!!」



 体を広げると、金色の光がバリアの中で輝いた。パツン!と火球のバリアが壊されてしまう。


「はっはー!ワイルドォ!!俺様にかかればこんなもん………あれ、いない……」

                     

「上じゃ上。結界魔術ってのは調整が難しいんじゃ、"わざわざ壊されることを前提とした結界"はなぁ!!お主程度の魔力で、鬼神たる儂の魔力を相殺できる分けないじゃろー!!」



 クルクルクルと回りながらかかと落としが炸裂する。広い赤屋根に穴が開く。



「あ、あっぶね!?!後もう少し遅かったらやられてたぜ………」


「ぬぅ、しぶといのぉ。ならこれでどうじゃ?ほいほいほいと、な」



 手を水晶占いこように空中でこねくり回し、中心に火の玉を作る。


(ま、まずいぜ………さっきの火球より何倍も威力が高いな……カツジ、最初はお前のことは正直たいしたことないと思ってが、ワイルドだぜ!!)


 アキレスをカツジと同じ動作をし、脚を後ろにどっしり構える。


 カツジはふっと唇を緩める。やはりこの体は当たりだ、これからもっと面白いことになるだろう。



「行くぜカツジ!!全力全開!!」


「受け止めてみろぉ、アキレス!!」



 二つの光が激突する。衝撃と振動が周辺を襲い、ベキベキと建物が破壊される。




 ――――――――かと思われた。

 


「そこまでですよー。二人ともー。盛り上げてくれたのは大いに結構、しかし周囲を巻き込むのは指導が必要ですねー」


 歌声が聞こえた。美しく、聞いていて心地がよくなるような歌声だ。その歌声が二人の魔力の塊を打ち消した。




「あん?その声ほまさか……解説の人かえ?」



 ちっちゃい眼鏡をかけて、雑に髪の毛を一本にまとめた、ぶかぶかの白と青の刺繍が入った洋服をきた女性。


「はーい、ルーメルン先生でーす。少しやり過ぎですねー、運動するのはいいことですが、回りの被害と安全を考えてやらないと駄目ですよー。それと…」


「それと?」


「あなた達、まだレース中ですけどー、こんなことしてて大丈夫なんですかー?」




「「あ」」



 戦いに夢中ですっかりレースのことを忘れていた二人なのであった。



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