4 ワイルドな天使
一人部屋決めレース。正式名称アナスタス学園寮一人部屋争奪レース。
今から30年前に始まった、この長い歴史を持つサクライの街ではかなり新しいお祭り。マンネリ化してきたこの街に何かいいイベントはないかと話し合った結果、思春期生徒達の思考を利用したレースイベントが始まった。
なお、このレースにおいて新一年生のある程度の身体能力や個性、種族の相性などを測りクラス分けの最終資料としても使われる。よって、このレースが終わった後の教員達の仕事量は膨大なので教員達からは地獄と言われている
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やはり空からの眺めはいい。スピードが速いかと言われたらそんなことはないが、風を切る感覚は心地よい。何より地形を無視して移動できる点もグッドだ。障害物競走ではないがやはり地上で走るよりこちらの方が効率がいい。
「効率がいいのはそっちだろッッ!!!こちとらただでさえ自分自身飛ぶのも疲れるのに、人一人持って飛ぶのがどれだけの筋力を使うことか!?離したまえ!いつの間にかしがみついたんだ君は!!?」
「なんだよケチくせーな。ほら、同級生なんだからチームワークは大切だろ?」
「まじで振り落とすぞ君ぃ!?同級生とはいえ初対面だろーが!!遠慮というものはないのかね!?」
「んなもんはへその緒と一緒に切り落としたわ」
丸眼鏡をかけた鳥の獣人族の少年は羽をブンブンと羽ばたかせカツジに抗議申し立てる。
「そろそろ離してくれ!!マジで、おち、落ちるぅぅぅ!!」
「頑張れp(^-^)q」
「ぶち殺すぞッッ!!!まじで限界!!離してくれ、離してくださいお願いします!!」
「あぁ分かった分かったよ。急にしがみついて悪かった。こんど何か奢るよ」
「君の顔はもう二度と見たくないんだけど……」
その時だった。カツジが彼の脚から手を離した瞬間、シュンと風を切り裂く音が聞こえた。それはどんどんこちらに近づいていきやがて……
「はぁ、はぁ、軽くなっt、ハゥアッッッッ!?!?」
「―――あ」
思いっきり彼の尻に刺さった。よろよろと宙を舞う扇のように落ちていく。
羽のおかげなのか垂直落下はせず紙のように左右振り子のように舞う。先に地に足をつけていたカツジが羽毛に覆われる彼を受け止めた。
………さすがに可哀想だと思った。
『哀れなり、名も知らぬ鳥の獣人よ』
「だ、大丈夫か………?大丈夫じゃないよな。思いっきり尻に刺さってるし。なんだこれ、クナイ?まさかあの……」
カツジは前半レースの出来事を思い出す。確か、後尾らへんにいたときにクナイを使った妨害を受けた。
犯人は凄いスピードで消えていったからもうすでに上位勢に追いついていると思ったが、なぜまだここにいるのか。
とりあえずカツジは彼の尻に無情にも刺さったクナイを引っこ抜く。本物の刃物ではなくゴム製のようだ。さすがに安全面は確保していたらしい。
「大丈夫!?気をそらす程度の気持ちで投げたらまさかケツに刺さるとは!!」
「うおっびっくりしたぁ!?まさか、あんたが!?」
「彼を受け止めてくれてありがとう!!猿も木から落ちるってやつかな。いくら天才の私でもコントロールミスぐらいはあるよね仕方ないウンウン。私は彼をとりあえず運ぶわ、後で謝っておこ。んじゃあね、ありがと」
そう言うと少女は文字通り瞬きの間に彼を抱え行ってしまった。もの凄いスピードだった。
それでいてあのクナイの精度(丸眼鏡のケツに刺さったことは抜きにして)、自分自身を天才だとか言っていたがもしかしたら本当なのかもしれない。
次彼にあったら本当にご飯でも奢ってやろうと心に決めたカツジなのであった。
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『さぁー!レースも終盤に差し掛かってきました!!現在一位と二位が既に埋まっております。残り一つの栄光を掴むのは誰か、見物です』
かん高い実況の声が聞こえる。
「嘘だろ。もうゴールしたのか。今どのくらいだぁ……ん?」
息を切らしながら走っていると本日二度目の背中が見えた。長い髪を乱暴にざく切りし、革の黒ジャケットをきたあの野郎。
「アキレース!!さっきはよくもやってくれたなちくしょうめ!!一人部屋を手にするのは俺だァァァァァ!!!」
「おうカツジ。俺のワイルドな手品はどうだったかな?俺としては練習した甲斐があってってもんだ」
「ざけんな。ていうかあの魔術はワイルドではないだろ!!むしろ相反するものだろ!!」
「いやそっちじゃなくてその前の演出なんだけど………」
そっちかよ!と叫ぶカツジ。ワイルドなのは服装だけなのだろうか。謎魔術使っておいて自分の着眼点はそっちかよ。
謎のどや顔を決めてくるアキレスに腹を立てながら並走していると、
ガクリッと体制を崩してしまった。
もう片方の足を前に出しなんとか踏ん張る。
どうした?動きが、鈍、く――――。
『おそらく、昨日の疲労じゃろうな』
「あん?疲労?」
『お主自分で気づかなかったのか?腹をさすってみろ』
言われるがまま自分の腹をスリスリとさする。いづッ!?と小声だが口から出てしまう。
なんだか若干、くぼみが一つ、二つとあったような感触がした。
はっ、と昨日の出来事を思い出す。たしか、爆撃熊に遭遇した時に腹に護身用の刀を刺されたような……。
ん?ではこの二つ目の傷はなんだ?
『あ、すまんそれ儂が油断してたら刺されたやつ』
「てめっ、ふざけんなよ。人の体借りてるんだからもっと大切にしろぉ!」
「?。なに一人でブツブツ喋ってんだカツジ?人の体だとかなんとか聞こえたが」
「あ、いや、何でもない」
しかしどうしたものか。腹に二つも穴が開いて疲労が回復しきってる訳がない。だとしてもこのレース、負けるわけにはいかない。
『よし小僧。儂に変われ』
「え!?今!?」
『なら逆にいつ変わるというのじゃ。人間の感覚ではこの先疲労感でみるみる抜かされるだろうな。だが儂に変われば身体能力は一時的に上がるし疲労も感じない。何より儂は負けるのは嫌いじゃ、約束もあるしな』
このタイミングで今朝の約束の話をさせられるとなんだが抵抗する気も失せる。人は約束という言葉に弱い。
一人部屋を手にするにはこれしかない………というわけか。
「んーー。分かった、約束だもんな。けど、変なことはするなよ」
『お主もしつこいのー。分かってると言っとるではないか。んじゃ、行くぞい』
ビクンッ、とカツジの背筋が痙攣し手を地面につけ倒れ込む。さすがにアキレスも足を止め、大丈夫か?と言いながらトントンと背中を優しく叩く。
「おいカツジ、急にどうしたんだ?体調が悪いんなら俺が教員の人達がいるところまで連れてってやるが」
アキレスが倒れ込むカツジに手を貸そうとした瞬間、パチンとその手は払いのけられた。少年の革を被った鬼神はガバッと顔を上げ、
「その必要はない。ほれほれ、同級生とはいえライバルに構ってる暇はあるのかえ?」
「!?」
ぱんぱんと手を叩きニヤッと笑った瞬間、ドバッ!!と音を鳴らしカツジは走り出した。
「何!?カツジの野郎、あんなスピードを隠し持ってたのか!?マズイ!!」
すかさずアキレスもカツジの後をおう。
「ヒャッハー(・∀・)ーーー!!久しぶりに風を切って走る感覚、悪くないのう!五千年も待った体じゃ、このぐらいの感動は味わって当然かの」
「クソ!速い!待て、カツジ!!」
アキレスは思わず舌打ちをした。しかし妥協してはいられないと首を横に振り、唾を飲み込む。
カッ!と目を見開き叫ぶ。
「いいだろうカツジ!!おまえのワイルドなその表情、嫌いじゃないぜ!!むしろ好物だ!だが勝つのは俺だ、これはワイルドさに欠けるから使いたくはなかったが仕方ない!!トウッ!!」
「ん?なんじゃ」
アクションヒーローのようにジャンプしたアキレス。クルクルとそこで回りバッ!!体を大の字に広げると、
「ハァッッ!!!」
「何………!まさかあれは――――」
その姿はまるで壮大な空から舞い降りた一人の天使。
六枚の羽は悪を滅する為の剣。
その美しき羽は善人なるものを守る為の盾。
その神聖なる光は穢れるものを制裁する粛正。
それを持つ名は――――――――。
「天使族って名前はワイルドじゃねぇ。ぜひ俺のことはワイルド・エンジェルと呼んでくれ!!」
「ダセえ」
最終ラウンド、開始!!




