3 寮決めレース
思春期!!
それは、12から15らへんと年頃の子供が心身ともに大人へと近づく時期。関心や好奇心の幅も広がり、いろんなことを学んでいく時期だ。
時に、精神が不安定なため病んだり中二病の痛いやつになったり、親などに当たりが強くなってしまったりもする。
そしてカツジ達一年生は大体14歳!思春期ドンピシャである。そんな彼らにとって最も望まれるものは何か。
それは!一人だけの空間!!つまり自分一人の部屋!!
ある程度の家事はできるようになってきた彼らにとって、親がいない、邪魔が入らないというこれほど魅力な空間は二つと存在しない。
そう!!このレースは聖域を賭けた聖戦である!!!
ガタンッ!!と体育館の後方が壁が落ちる。眩しい光がまぶたを刺激すると同時に、大勢の人の歓声が聞こえる。
「え!?何なに何なの!?展開が読めないんだけど。ていうかなんでアキレスやみんなはそんなやる気満々なの!?」
「カツジだったか。何を言っているんだ、このレースは聖戦。毎年サクライの街で起こるイベントの一つだ。一人寮という至高の空間を手にするためには、どんなワイルドな手を使う。それがこのレースだ」
サングラスをカチャと動かし決め顔を作るアキレス。
一人寮……なるほど、そういうことか。
『えー、ルールを説明します。ルールは簡単ただ指定されたルートでこのサクライの街を走行するのみ。上位4人には景品として一人部屋寮が贈呈されます。毎年この街で起こる重大イベントの一つなので、皆さんぜひ盛り上げてくださいね。それでは、スターっト!!!』
カーン!と聖戦のゴングが鳴った!!
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ゴングが鳴った瞬間、一斉に走り出す。押し寄せる大行列、あまりの多さに出遅れを許してしまう。
「で、出遅れちゃいましたね……」
「しまった。クソ、一人部屋は俺のもんだぁ!!」
すっからかんになった体育館を抜け出し外に出る。体育館の前では街の人たちが規定のコースの横にずらりと並び見物していた。
アキレスが先程サクライのイベントの一つと言っていただけあって人がわんさかいる。
こんなに人を見るのは初めてかもしれない。何しろカツジの住んでいた鬼の里は人口200人程度だったから、大勢の人からの視線とは慣れないものだ。
「だが今はそんなことはどうでもいい!!二度寝しても起こされない空間を手に入れるのは俺じゃい!!どけどけどけぇぇぇ!!」
風のように突っ切り後尾の連中を抜かす。
「なんだあいつ、速!?」
誰がそう呟いた。
「へへん、他の身体能力では何一つみんなに勝てなかったが、走るのだけは得意だぜ!」
『なにやらずいぶん面白いことになっとるの』
「んあ?なんだよ。これは俺のレースなんだから邪魔すんなよ」
『いや、お主が勝つのなら邪魔はせん。しかし儂は負けるのは嫌いじゃ、まけんるんじゃないぞ。あ、それと』
「ん?」
『上に注意した方がいい』
ザクザクザクザクッッ!!!とカツジの一歩手前の地面に何かが突き刺さる。驚きのあまりキキーーーッと急ブレーキをかけ止まる。
周りをよく見ると皆等しくその何かに速度を止められていた。
「………クナイ?」
『おおーっとここで何者かによるレース妨害!!後尾の参加者の足を止める!!これはクナイでしょうか、中々見かけない武器を使うようです!!解説のルーメルン先生、こういう行為はよろしいのでしょうか!?』
『怪我しなければー、全然いいですよー。むしろそうしてもらわなきゃ盛り上がりに欠けますしー』
「嘘だろこのレース、妨害もありなんか!?」
よく見ると、横の建物の屋根を何かがびゅんびゅんと音を立て過ぎ去っていく。速すぎて姿は見えなかったが、恐らく奴が犯人だろう。
カツジは軽く舌打ちをしクナイの柵をまたいで疾走を再開する。
走っている途中で街のところどころにあるスピーカーから実況の声が聞こえる。
『開始から10分、現在一位の生徒はすでにコースの半分を走りきっています。上位勢の大半は獣人族の方々が独占しております。さすがは獣の魂を宿し獣人族!!恐るべき速さです!』
『獣人族はー、身体能力が高いことで有名ですからねー。スポーツ大会でも過去の記録を見る限り、獣人族の方々が多いことからも分かりますー。しかし油断はできませんよー』
『ルーメルン先生、それは一体どうゆうことでしょうか?』
『後尾らへんのクナイの生徒、彼女はなかなかのスピードです。並大抵じゃ追いつけないでしょうー。油断しているとーすぐに追いつかれてしまいますよー。みんなー頑張ってー』
実況を聞き流しながら走っていると、アキレスの背中が見えてきた。ということは真ん中らへんだろうか。
「おう、カツジ。ずいぶんで出遅れたようだが大丈夫か?」
「まぁまぁかね。ハンデにしちゃ軽いって感じ」
「おー、言うじゃねぇか。今の台詞、結構ワイルドだぜ。俺には敵わんがな」
「多分おまえの言うワイルドって若干使い方違うと思うだけど……」
「ふっ、だがここからはそうもいかねぇぜ。なんせこの俺がいるんだからな」
アキレスは鼻を鳴らし自信満々に言う。ずいぶんと余裕な表情だが、何か隠しているのだろうか。
すると突然アキレスは速度を上げる。前の何人かをあっという間に追い越すと、まるで鳥のように空を舞った。
「注目ー!!この俺が最高にワイルドな秘術を見せてやる!!」
「「「?」」」
空中でアキレスがそう叫ぶとカツジ含めた真ん中らへんの参加者達が顔を上げる。何か嫌な予感がする。カツジの背中がゾワリと動いた。
すると突然周りがちょっとだけ暗くなったように感じた。
アキレスはサングラスをカチャリとかけ直し、大きな声で告げた。
「『スバル』!!」
ピカァァァァァァァ!!!と強烈な閃光が覆いかぶさる。咄嗟に目を伏せ、足を止める。
「目が、目がァァァァァァァァ!?!?」
「お先だぜ~♪」
『ほお………某滅びの呪文じゃなくてスバルか。なんだかしっくりくるのぉ』
「言ってる場合か!!クソ、あいつあんな魔術が使えたなんて!俺魔術使えねぇんだよなぁ!」
『あれは「スバル」と呼ばれる魔術ですね。これには食らった生徒達も悶絶!思わず目を閉ざして足を止める!あの一年生、なかなかのやり手のようです!!』
『「スバル」は指先に魔力を込め、周囲の光の軌道をねじ曲げ集中させる、そして集めた光を一気に放つという変わった魔術ですー。直接な攻撃力はありませんがー、目くらましには十分使えます。しかしーこの魔術はかなり難しい方なんですがー……まさかね』
なんだその意味深なセリフはと心の中で呟き疾走を再開。足を止めた他の生徒達を突っ切り進む。
開始から25分、ようやく半分到達という看板が見える。どうやらすでにこのサクライの街を半周しているようだ。
しかしこれでようやく半周。かなり走ったと思ったがまだあるのかと思うと戦意がなくなっていく。
「このままだと上位勢に食い込むには難しいな…なぁ、何かいい案はないか?」
『それ、儂に言ってる?そうじゃなー、儂から言えることはそんなないのー。お主がやると言ったレースなんじゃからお主が頑張れ』
「なんだよ。ツカエナイ(ボソッ」
『聞こえとるからな!!全く、儂がいなかったらお主は今頃どうなっていたことか……。そうじゃな、あれなんて使ってみたらどうじゃ?』
「あれ?」
空を見上げる。そこに映っていたものは……
「ハハッ☆翼を持つ私にとって妨害など無意味なのだよ!!飛ぶスピードは置いておいて……しかし、なんか脚が重いな。疲れてるのか………………な?」
「あ、どうも。どうぞ俺に構わずお進みください」
カツジは鳥の獣人族の脚に木登りするような体制でしがみついた。
「――――――は?」




