2 ワイルドなやつと入学式
走れ走れ走れ走れ走れ走れ!!!
緑の森を駆け抜けサクライを目指す。というかこの辺りの生態系は不思議だ。先程の街の近くには広大な荒野が広がっていたはずだがいつの間にかこんなに豊かな自然に囲まれている。
しかし今は鑑賞に浸ってる場合ではない。絶賛遅刻を回避すべく全力疾走。
「エルザ、今何時!?そして今どこらへん!?」
「ぜぇ、ぜぇ、あ、あともう少しです!あのおおっきな桜の木が見えませんか!?あれがサクライのシンボル、『神楼樹』です!!あの巨大さは世界随一の大きさを誇っており、特徴的なのはあの桜!年中冬だろうが夏だろうが桜が咲き誇っているという不思議な巨大樹です!!」
「解説ご苦労、で今何時!?」
「8時20分です!ギリギリ間に合いません!!」
「何ぃぃぃ!?どうしよどうしよ………」
爪を噛み頭を悩ませる。すると脳内から声がかかってきた。
『おい小僧。儂にいいアイデアがある』
「うおぉうビックリした!?お前そうやって話しかけんの!?いいアイデアってなんだよ!!言っとくが簡単には体は貸さねぇぞ!!」
『まぁ聞くのじゃ。こうすればなあ……。ゴニョゴニョゴニョゴニョ………どうじゃ、遅刻だけは回避できるぞ』
「んな!?随分危険な賭けだな!却下だ却下!」
頭を振り却下を申し立てるカツジ。脳内鬼神はニタリと笑い、耳元でそっとささやくような声で、
『んん?いいのかなぁ。初日から遅刻なんて、周りのクラスメイトや教師からはいい印象はうけんぞ?今儂の考えを飲みこめば回避できる』
「……一応聞くが、対価はあるのか?」
『分かってるじゃあないか小僧。まぁ儂とて鬼じゃない、鬼神だけど。そうじゃなぁ………今日、どこかで儂が変わりたいと言ったら有無もいわず変われ。一回だけでいい。儂が何かやらかそうとしたらお主が勝手に止めろ』
まさに究極の選択。さっき夢の中で体は貸さないと宣言したくせに、こんなにも速く鬼神に譲らなければならない時が来るとなると。
だが、今後のことを考えると遅刻は不味い!!
「ぐぬぬぬぬぬ、わかったよわかったよ!!けど、悪いことはするなよ」
『毎度ありー!!んじゃ早速』
ビクンッ!とカツジの背筋が動く。青白い角が額から生えだし、鬼神の帰還を告げる。
「カツジさん?急に止まってどうしたんですか??……カツジさん?」
「おい従者、今から飛ぶぞい」
「へ?ってきゃあ!?」
エルザはお姫様だっこし、構える。ダッ!!と飛び出して宙を舞う。
カツジは後方に掌を掲げ、魔力を集中させる。現れた小さな火 の球はどんどんと大きさを増していき、カツジ達と同じくらいの大きさになった。
片目で角度を調整し一気に、
「『閻魔炎魂・炎星小規模バージョン』」
ボファ!!と火の球が炸裂し暴風を生み出す。その暴風を乗ってサクライまで一気に駆け抜ける!
「いいいいいやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「へっ、きたねえ花火だ」
とてつもない風圧を受けながらも、いつの間にかサクライの門を通過。民間街や市場、横丁、公園などの上空を駆け抜けると学校らしき物を発見。都合のいいことに真正面だ。
バフゥゥゥゥン!!と大量を砂埃が舞い上がる。キキー!と足を滑らせながら無事(?)に着地。
「無事に登校、完了☆」
『じゃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!』
カツジは頭をブンブンと振り鬼神から主導権を取り返す。周りに人がいることも気にせず怒鳴り散らかす。
「やっぱお前馬鹿だわ!!こんなに派手にやれとは言ってねぇぞ!!」
『でも、遅刻はしなかったじゃろ?小さいことは気にすんなそれはなんとやら〜』
「キィぃぃぃぃぃ!!!」
否定しきれない自分に腹たち歯ぎしりする。すると腕の中のエルザが弱々しい声が話しかけた。
「あの……カツジさん。降ろしてくれませんか、その、恥ずかしいです…」
「はっ!?ご、ごめん。いや違うんだ、これはあいつの判断であってそのー」
必死に言い訳を並べるカツジ。エルザは少しため息を吐き、砂をパンパンと払いながら
「もういいです………ギリギリ間に合いましたから良しとしましょう。さて、一年生は体育館集合と書いてありましたが…どこでしょう」
「体育館なら案内するぜ。お前たち、随分ワイルドな登場してくれるじゃあねぇか」
「?」
突然話しかけてきたのは一人の少年。身長的にエルザ達と同じ一年生だろうか。
長い金髪に中性的な顔立ち。その腰まである長い金髪は乱暴にザク切りしてあり、せっかくの綺麗な髪質が台無しである。黒の革ジャケットを羽織り、茶色のカーゴパンツが非常に特徴。
少年はサングラスをクイっと上に上げ、
「俺の名はアキレス・ガブリエル。この学園で最もワイルドな男を目指す予定の男だ。お前らも一年生だろ?これからよろしくな」
ニッとワイルドの笑み浮かべ少年は握手を求めた。
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「………え、あぁ。うん、よろしく」
「よろしくぅ!」
「よ、よろしくお願いします」
「よろしくぅ!」
随分とテンションの高い少年だった。アキレスはサングラスをかけ直し手を腰に当てる。
「さて、じゃあ早速体育館に案内するぜ。こっちだ………ん?どうしたそこの白髪」
「あ、エルザ・サッカバスと言います。いえ、そのなんでもないです」
「エルザか。そんな鬱った顔をすんなって。ワイルドであるためには浮かない顔は禁物だぜ?」
そう言い軽くトンッとエルザの肩に手を置く。
「んんぅ!?」
すると彼女はまるで拒絶反応のような、突然電流を浴びせられたみたいな顔をする。アキレスは首を傾げ、
「どうした、なんか気分悪いのか?」
「いえ、ほんとに、本当になんでもないですから………はは。さぁカツジさん行きましょう」
「え?あ、うん」
エルザは急ぐようにカツジの背中を押して進む。そして彼女はカツジの背後にピタリとくっつきアキレスから距離を離そうとする。
「………どしたん?」
本人に聞こえないようにそっと小声で言う。
「――――なんか、あの人から変なオーラがビシビシ伝わって来るんです。握手した時に急に掌がビリビリってなって。何か、神聖な物を感じます………」
そうブルブルと震えながら言う。
彼女は半分サキュバスの血が通ってるだけあって神聖な物に弱い。昨日、神聖文と呼ばれる神が作った文を聞かせると吐きそうになってた。
そこまでの効力は無さそうだが、彼女の血が反応したのならば彼は一体何者なんだろうか。
「ついたぜ。ちょうど入学式が始まるみてぇだ。さっさと入ろうぜ」
そんなことを考えるていると体育館についたようだ。
初めて体育館を見た感想だが………でっけー。
長老の家の3、4倍はある。当然中も広く、多種多様な種族がワラワラと散らばっていた。
獣耳の生えた獣人族に、爬虫類のような見た目の種族。勿論普通の人間もいるし、中には腕が何個も生えいる奇妙な種族もいた。
「ほげーすっげぇ。人がいっぱいだ」
「今年の一年生の人数はちょうど150名。昨年よりも30人も増えてるらしいから、これは骨が折れるぜ。だが今年のあの"権利"を持つのはこの俺だぜ」
「あ?なんの話?権利?」
「お、始まるみたいだぜ」
体育館の中が薄っすらと暗くなる。するとエコーのかかったマイクボイスが全体に響き渡る。
『それでは第155回、入学式を行います。まずは学園校長からのお話です。校長先生、よろしくお願いします』
(校長先生、どんな人なんでしょう)
(コウチョウ先生?偉い人なのかな…)
そしてステージに上がってきたのは。
「えーどうも。最近孫がより一層冷たくなって冷凍食品に加えられそうになるほど心が凍えました。タコ校長でーす」
((人ですらねぇぇぇーーー!?!?))
校長を名乗ったそれは、黒い巨体に八本の触手。ぱっちりした目と長い白いヒゲが特徴の、360度誰が見てもタコと答えるものだった。
(え?え?あれがコウチョウ!?どっからどう見てもタコなんですけど!?ていうかなんでタコが喋れんの!?)
横を見て他の人の反応を伺う。流石にアキレスやエルザも阿鼻叫喚な表情になっていた。
ステージのタコ校長はそんな驚く我々に気づかずに話を進める。
「新一年生の諸君、まずは入学おめでとう。私は毎年この春の季節が大好きです。卒業していく彼らを思うと寂しい・・しかし、今出会えた君たちのような新入生と関係を作り上げていくのもこれまた一興。私は―――――――――――――――――――――――――」
数十分後
「――――これで、私の話は終わりです」
((な、長かった…………))
数十分にも渡る長話を耐え抜き、安堵の息をこぼすカツジとエルザ。これで終わりか、と思いきや突然周りがザワザワし始めた。
アキレスも待ってましたと言わんばかりにニヤついた表情をしている。
「さてさて、皆さん待ち望んでいたであろう時がやってきました。それでは早速始めましょう」
「??」
白いヒゲのタコ校長がマイクを触手で絡め取り、キーン!と響くぐらいの声で言った。
『それでは、第30回!!一人部屋寮決めレースを行います!!アーユーレディー!!?』




