1 旅立ちの日
暖かい日差しと冷たくなってきた風にカツジの意識は覚醒する。目をぱちぱちと見開き、夜が明けたことを確認する。そしてカツジはいつものように二度寝に……
「コラァァカツジ!!起きなさい!!」
「ぎがぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?」
翌日、早朝早々母の角ドリルがカツジに襲いかかる。思わず布団から飛び跳ね額に手を当てながら床に転がる。
「いったぁ!?なんかいつもより強くない!?まだ眠いよ母ちゃん!!」
「はぁ……カツジ、今日はなんの日か分かってそれ言ってんのかい?」
「なんの日って……あ、そっか」
今日は14の誕生日、カツジの旅立ちの日だ。
「ほら速く着替えて長老の家に行きな、父ちゃんと長老が待ってるよ!」
#####
おにぎり片手に疾走する。まだ太陽が出始めで少しずつ霧が晴れていく。カツジは長老の家に辿り着くと目一杯の声で、
「すいやせん遅れましたー!!ブフォ!?」
「遅いわー!!この馬鹿カツジ!!」
謝罪を申し上げた瞬間に、長老の膝蹴りが顔面に直撃した。カツジはまた床で転がり回る。
「カツジぃ!!お前は自覚が足りん!!そんなんで角が生えると思うなぁ!!」
「まぁまぁ長老、カツジが遅れてくるなんていつもの事じゃないですか。そんなに怒るとハゲますよ、あっもう剥げてたか」
「よし後で表にでろ貴様の髪を死滅させてやる」
「いってぇ……。おはようございます、長老」
ヒリヒリと痛む顔を手に当てながら起き上がり長老に挨拶する。
今年で258歳になる、身長110センチのハゲ爺さん、それがこの鬼の里の長老だ。見た目からは想像出来ないが実力は昔"神童"と呼ばれた父をも凌駕するほど。
「起き上がったなら速くそこに座れカツジ」
「はーい」
カツジは言われた通り床に正座する。正面には長老と父、緊迫感に押されカツジの心拍数は上昇していく。
「カツジよ、お前も今日で14歳だな。まずはおめでとうと言っておこう」
「ありがとうございます」
「そして14ということはこの里を旅立つ事になる。分かっておるな?」
「もちろんです」
「まずは志を問おう。カツジ、お前は外に出て何がしたい?」
「―――――分かりません」
カツジは下をうつむいて答える。
「そうか。それを見つける事が旅の目的の一つだからのう、気にするでない。
そして旅立つ鬼はまず角をへし折る儀式をするんじゃが……言わずもがなお前には角が無い。さらに言えばお前は鬼としての身体能力も、力も無い。一人旅は辛かろう、というか多分死ぬよ。というわけで、お前には特別な旅を送ろう」
「特別な、旅?」
「お前には世界でも有数の異種族が交わる巨大学園、『アナスタス』に通ってもらう」
「あ、あな…な、なんて?」
「『アナスタス』じゃ。まぁ聞いたことないのは当然じゃだって星の裏側にあるし」
「星の裏側!?まさかそこまで歩いて行けってわけじゃないですよね!?」
「まさか、行き方はこちらで用意しておる」
カツジはホッと胸をなでおろす。
(しかし『アナスタス』?ガクエン?何一つ分からずじまいなのだが)
心配に心を潰されたのか、首元にぶら下げた御守りの数珠繋ぎを握り締める
「外に出るぞ。皆が待っとる」
「は、はい」
立ち上がり家のドアを開け外に出る。するとそこには里のみんなが長老の家の前に集まりカツジを祝福していた。
「やっと来たかカツジ!!頑張れよー!」
「全く大きくなったわねぇカツジくん」
「カツジよー、わしらはいつでもお前の帰りを待っとるぞー」
「カツジ兄ちゃん!頑張れーー!!」
「カツジー!!」
「―――みんな」
すると父が後ろから肩を叩いてきた。ニッと笑いカツジに言葉を贈る。
「カツジ、父ちゃんから一つアドバイスだ。外には色んな奴がいる。良い奴もいれば、もちろんムカつく奴だっている。そして色んな出来事がある。絶体絶命の事や、嬉しい事、悩んだり、泣いたり、怒ったり。だがいついかなる時もお前がこの場所で育んだ"鬼の誇り"を忘れるな」
「鬼の、誇り……」
今度は横から肩をポンと叩かれる。それは荷物を持ってきてくれた母だった。
「はいこれ、荷物よ。カツジ、特に言うことはない。けど母ちゃんたちはいつでもあんたの味方だからね。外に行っても負けんじゃないよ!!」
「ありがとう、母ちゃん、父ちゃん、みんな。俺、頑張るから!!絶対一人前の鬼になって帰ってくるから!!」
「よし、それじゃ早速行くか!!」
「行くって、そういえばどうやって?」
「それはな、こうだ」
父はパチンと指を鳴らす。するとぶぅわぉん!ぶぅわぉん!と突風と共に轟音が鳴りびく。途端、大きな影が辺りを埋め尽くす。カツジは頭上を見上げるとそれは……。
「龍の宅配便さんだ。今からこれにのってもらうから」
黒い鱗、巨大な翼、ギョロリとした目。4メートル以上の巨体を持つドラゴンさんだった。
「……………………父ちゃん、旅に出るのはまた後日にしなn」
「駄目だね☆頼みます配達員さん」
「了解でーす」
「あぁ、ちょ!襟掴まないで!!高い高い上がっていくんだけど!ていうか父ちゃんだけ背中乗ってんだよ!!」
「あ、カツジ。意識強く保ってないと気絶するから」
「アァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!?!」
そうしてカツジの絶叫と共に長い長い旅が始まった。