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17  あの日できなかった約束


「あぁ………あ」


「そんな腑抜けた声を出すでないぞ。もっと、こう、膝をついて両手を握ってじゃなぁ」



 彼はそんな調子のいいことを言っているが、アブという少年の目には、それは夜中だというのに一筋の光が天から差し込んだような。まるで本当の神様のようだった。



「アブよ。稽古の続きじゃ、ズバリ死とはなんじゃと思う?」


「…………?」


「死ぬっていうのはニ段階ある。一段回目はそのまんま肉体の死じゃ。確かにお前の父親は死んだかもしれん。けど、ニ段階目の死はお前によって守られた」


「――――――――――」


「ニ段階目の死は、その者の残した意思や尊厳、記憶をゴミのように踏みにじることじゃ。存在した証、という尊ぶべきものをお主は自分の意思で護った。お前の勝ちじゃ。後は儂に任せておけ」


「あのさぁ、そろそろ御託はいいかなぁ?人がピリピリしてるってことが分かんないわけ?子供に教えを解くのは後にしてもらえない?」



 ミャシャは前髪を大きくかきあげ、その怒りに満ちた形相でカツジをにらみつける。カツジは「わるかった」と耳をかきながら適当に返事をし剣を向ける。



「それじゃ、第2ラウンドじゃ。かかってこい小娘」


「君、私より年下だよね?」


「儂はざっと10000年ぐらいは生きちょるわい」



 ガッキンッッ!!と鋼と鋼が交差する。両者の鋭い眼光が空間に裂け目を作るんじゃないかと錯覚させる。


 ミャシャはノーモーションで剣を巻いた腕を放つ。ヒョイと攻撃を避け、本人はいたって軽めの気持ちで膝蹴りを彼女の腹に決め込む。



「ぐゔぇ!?!?」


「ほれほれ今度は剣さばきをご覧あれ」



 ズジャジャジャジャ!!!とペンで文字を書くように剣を振るう。細かい斬撃が狭い空間を埋め尽くしミャシャの身体を切り裂かんとする。



「ふん」


「ウガァァォァァァァァァ!?!?!?」


「ぺっ。胸糞悪いもの子供の前でみせんじゃあない」



 しかし彼女は近くにいた部下の眼鏡を盾に斬撃を受ける。ヒヒと気持ち悪い笑みを浮かべ



「近くにいた君が悪いのさ。悪く思わないでよ眼鏡くん」


「今まで上司面してたくせに、所詮はゲスの集まりじゃな気持ちが悪い。キッショ」


「その、きっしょってなんて意味か分かんないけど随分神経を逆なでする響きだなぁ。よし決めた絶対殺す。場所を変えようじゃないか」


「そうじゃな」



 次の瞬間、シュピィ!と二人は一瞬の内にその場から消えた。



 その場に立ち止まったアブはふと後ろを振り向く。そこには、ギィィィと脳に響く音を立てながら開くドアがあった。




#####




 大部分の火が鎮火した夜の街の空で、キキキキン!と金属音が合唱を成す。


 屋根を飛び回りながら風のようなスピードで剣を交える。



「意外かもしれぬが、儂って素手より剣の扱いの方が得意なんじゃよ」


「へぇ。ほんとに意外。でも威勢を張った割には少し押され気味なんじゃない?」


「ぬかせ。押され気味なのはお主じゃ」


「いいや君だ」


「違うねお主じゃ」


「「あ?」」



 低音ボイスで見事にハモる。二人は少し屋根の上で沈黙し見つめ合う。しかし次の瞬間、ボガッッッ!!!と膨大なエネルギーの衝突が起きる。



「流石は随一の魔術師と名乗るだけあるのぉ。けど、まだまだ青二才じゃ」


「煽り耐性がないのは自覚してるつもりだけど。ここまで言われるとやっぱピリピリしちゃうよねぇ……」


「ほっほほ、だって事実じゃん」


「……………死ね」



 ミャシャは懐から紙切れを取り出すと天にそれをかざし、



「させるか!!」



 一線!


 カツジが居合い切りで斬撃を放ち紙切れをちょん切ろうとする。しかし間に合わず発動を許してしまう。


 とっさに目を隠し体を少しかがめた。


 ……しかし光は照らされない。


 カツジは思わず首をかしげr



「ぐぼッ!?」



 動作をする前に腹を思いっきり蹴られる。溝うちに入りビュンッ!!と地面までカツジの体を吹っ飛ばす。



「どこじゃ!?」


「こっちこっち」



 声が聞こえた方向に迷わず剣を振りかざす。しかし手応えはなくまたも敵に攻撃の隙きを与えてしまう。


 グボッ、と腹に拳が練り込まれる。

 


「残念、ギリ当たってないよ☆」


「光系の記号魔術か。光を操ってこちらから認識されないようにしているとは、中々やるようじゃな。しかしそれならこっちにだって対策はある」


「?」


「手を見てみろ。お主は手に剣を巻きつけていたはずだけど、あれれーどこに行ったのじゃろうな?」



 ジューーーと肉を焼く嫌な音をようやく認識する。剣が、溶けている。自分の腕ごと焼き尽くされ高温によりドロドロの溶けていた。



「な、な、な、まさか。魔圧、バリア!?!?嘘・・確かに人それぞれの魔力によって性質は変わるけど。こんな高温出せる訳が、あ、あぁぁぁぁ!?!?」


「んー、そうじゃな。強いて言うなら、生物として格が違うのじゃよ」



 フンッッ!!と声を上げミャシャの顔面に、膝蹴りをぶち込 む。


 後方20メートル先までノーバウンドで吹っ飛び壁に貼り付けにされる。



「そろそろチェックメイトじゃ」



カチャ、と騎士から借りた高そうな剣を構え力を溜める。ピキピキと、カツジの魔力が増すのに応じて空間にも小さな裂け目ができる。


ブワォォォォォォォォォォと尋常じゃない熱エネルギーと光が天を焼き焦がさんとする。



「く、そ。うぐ、クソっがぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


「『閻魔炎斬・地獄切り』!!!!」




#####





 アブは思わず扉へ脚を運んだ。そもそも鍵など必要なかったのだ。風化しもはやドアとしての役割は放棄されていた。



 その中には金銀財宝………などなかった。あるのは黒一色の炭の雪原。父はすでに宝など燃やしたのだろう。


 あんのゲスの集まりが持っていた宝を持っていたら自分も腐りそうだ、などどぬかしたんじゃないかと思う。


 炭の雪原の中、それは一つだけあった。ポツンの奥の壁に立て掛けた棚にあった一つの小さな宝箱。


 アブの両手サイズの宝箱はホコリまみれでひどく汚れていた。



 ギシギシと音を立てながらそれを開ける。中には一つの紙が入っていた。





 そこからは何が書いてあったかはよく覚えていない。読み返そうにも涙で紙はぐしゃぐしゃになってとても読み返せるものじゃなかった。


 涙が、止まらない。


 たった一文だけ後で確認できた。その一文にはこう書かれていた。




『ハッピバースデー、息子』




 アブは生まれたての赤子のように、ずっと、ずっと泣き続けた。




#####




「あぁあ、剣壊れちゃった。怒られないか心配じゃ」


「カツジさん!!!」


「おう従者、やっと来たか遅いぞ。ノビくん、廊下に立っとれ」


「はぁ、はぁ、はぁ。何言ってるんですかひっぱたきますよ?人がどれだけ心配したと思ってるんですか。それになんですかこれ、瓦礫の山じゃないですか」



 周りを見渡すと辺り一面瓦礫の山だった。カツジは頭をかきながらはぁーと深く息を吐き、目をつむって言った。



「小さいことは、気にするな!!」


「小さなことぉ!?これがぁ!?ふざけるのも大概にしてくださいよ!!」


「ハハッ☆すまんすまん。儂は疲れたから寝る。後の復旧はこの街の者に任せて休むとしよう。明日は学校もあるしな」



 エルザは「えぇ…」と不満そうに息をこぼす。歩きだしたカツジはふと、立ち止まった。



「そうじゃ。お主は今日一日頑張ったから褒美を与えんとな。主たるもの従者に褒美を与えるのは当然じゃ。して、お主何か好きなものはないか?」


「な、なんですか突然……。そうですね、星とか眺めるの好きですよ。あ、でも今は曇って見えませんね」



 顔をあげ空を見上げる。今夜は月も隠れるぐらいの雲が夜の世界を覆っていた。



「そうか、ならこうしよう。よいしょ」


「きゃぁ!?かかかカツジさん!?突然なんですか!?」


「飛ぶぞ。瞬き厳禁じゃぞ」


「へ?」



 ドッッガッッ!!!と轟音が鳴り空を舞う。凄まじい速度で直線を描き天へ向かう。



「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


「ほれ、目を閉じるな見ろ。空一面の星じゃ。思う存分楽しめ」


「あの、そんな楽しむ暇ないんですけどぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!?」



 雲を突き抜け空中にいたのはほんの数秒だけ。すぐに重力に捕まり一直線に地上へ落ちる。



「よっこらせ。ふぅ疲れたのじゃ。儂ももう年かの、腰が痛いわい」


「おじいちゃんみたいなこと言わないでください……し、死ぬかと思った」


「はは、波乱万丈の一日じゃったな。さて寝る………か?」



その時だった。



『お前、俺の体でなにしてんの』



 …………………………………………は?




「―――――は!?ちょ、おま、小僧何故意識がある!?やめ、やめるのじゃぁ!!うお、うがぁぁ!!あび、アバババババババババババババババ………」



 しゅー、と煙が出たような音がした。スイッチを切った機械のように突然カツジはガクリと首を落とし立ち止まる。



「か、カツジさん?大丈夫ですか?」


「――――――――なんか、疲れたから寝させて。エルザさん」



 青白く光る"角"が消えた少年は死んだような目をして言った。

次からは学園が始まります

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