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15  "裏切り者"


 走っていた。逃げていた。恐れていた。


 アブはこんな短時間で二度も死の恐怖を味わうことになるとは思わなかった。


 突然、家が爆発した。パニック状態になり、てんやわんやしていると謎の二人組が家に突撃し火を慌てて火を消した。


 最初はとてもいい人だと思った。だけど、そんなことなかった。



 異様な雰囲気をまとっていた。正直に言って、クズみたいなオーラがあった。裏切り者だの宝だの鍵だの言っていたが1ミリもアブには理解できなかった事を口走っていた。


 そんな彼らを見た瞬間、母は言った。そのお守りの鍵を持って逃げろと。母は何に気付いたのか分からない。アブは強気に前に出て、



『母さんを置いて逃げることはできない!母さんは僕が守る!!』


 …………などと威勢の張ったセリフを吐いて両手を広げて母を庇った。けど、前に出た瞬間。無理だった。あれが本物の"邪悪"。


 片方の女はいたって笑顔だった。だが、その笑顔こそ恐怖。


 脳内の警鐘が鳴り響きすぐに逃げ出してしまった。母の言いつけを守った偉い子か、それとも口だけ意地なしか。



 情けない。こんな自分が情けない。結局お前は口だけの意地なしなのだ。奥歯をこれでもかと噛み締め、夜中の街を走る。




「いて」


「なんじゃ貴様……っとアブじゃないか。無事だったか?」


「お兄さん……。大変なんだ、母さんが、母さんが殺されちゃう………」


「なに?―――――まさかあの外道どもか。分かった、今向か



 次の瞬間、視界が弾けた。ブゥォン!と風の様にナイフが飛んできて、カツジの鼻から数ミリの位置でで受け止められる。



「アーブくん。お姉さんにそのお守り、貸してくれないかな?…ととと、やっぱり受け止められちゃったか」


「不快感マックスの挨拶をありがとう。お主、何者じゃ?見たところあの奴らの仲間に見えるが」


「仲間っていうか上司だね。ついでにアブくんにも自己紹介しよう、私の名前はミャシャ。爆撃熊の副頭を務めさせてもらってる。今回の事件の首謀者と言った方がいいかな?」


「そうか、そうか。儂も一応名乗っておこう。ええと……そう、カツジとでも呼んでくれ。で、お主の目的はなんじゃ。アブを狙ってどうする」


「アブくんっていうかアブくんが持ってるその鍵が欲しいんだけどねー。あの裏切り者が盗んだお宝の回収かな?多分その鍵がお宝を隠した場所の鍵なんだろうけど……」



 ミャシャは少々不安げに言った。すると小動物のようにカツジの後ろに隠れていたアブが口を挟む。



「―――――ねぇ、裏切り者って何なの?………まさか、父さんのこと?」


「―――――あり?知らなかったんだ。まぁこんな小さな子供に父親がテロリストの元仲間だなんて言えないしね」


「は!?テロリストの仲間……!?父さんが!?」


「そうだよ。君のお父さん、ナサは元爆撃熊の一員だったのさ。彼は元々は冒険家でね、たまたま私達とかち合ったんだけど、お頭が彼の技術を見越してヘッドハンティングしてさ。いやぁ、あの時は結構苦戦したよ。ただの冒険家じゃないよねあれは」


「は、はは……信じないぞ、そんのデタラメ!!父さんがテロリストの仲間なわけが」


「…………ま、別に信じる信じないはいいとして。それで彼が何をしたかと言うと、宝物ごっそり奪い取って逃げたわけよ」


 少し苦笑して言う。


「あの日は雨が強くてね、参ったよ。突然国の騎士の襲撃にあってね。火薬は使えないしかなり強い人達だったからさ苦戦を強いられたわけよ」



 だが彼女の表情はだんだんと血相を変えていき



「その時だよ……ナサの奴はかっさらっていった。本当にしてやられたよ…。もとが善人だったからなのかもね。奴は奪ったのさ、私達が何年も何年も積み上げた宝を全部全部全部全部ねッッ!!!」



 突然彼女は血管を浮き出させ叫ぶ。それほどまでに悔しく許しがたい行為だったのだろう。落ち着いたのか額の汗を拭い、ふぅと一息つく。



「ごめんね、自分で言っておいて怒るなんて。はしたない。それで、改めて聞くけどその鍵貸してくれないかな?大丈夫、おとなしく渡してくれれば君に危害は加えないからさ」



 掌をかざしニコッと微笑むミャシャ。カタカタと両足を震わせながらアブは叫ぶ。



「…………その前に、母さんはどうしたの?ねぇ!母さんは!!?」


「刺しちゃった☆ごめんね」



 即答だった。なんの前ふりもなくサイコ発言をするミャシャに、ガクリと膝を曲げるアブ。



「できれば傷つけたくなかったんだけど、あんまりにも抵抗するからね。まぁ運が良ければ生きてるさ。宝の場所は眼鏡くんに捜索させてるし、あとはそのだいじーに持ってる鍵が欲しいんだよね。分かってくれたかな?」


「母さんが……あぁ…」


「―――――どうやら、今はそれどころではないらしいの。さっさとお主をぶっ殺して向かうとするか」


「おお?」




 ガバッ!!とカツジは両脚を曲げ前に出る。高速度の飛び蹴りがミャシャの顔面を襲う。


 くい、と体を曲げ回避される。

 

 脚を彼女の足元の横の地面に突き刺し、それを軸として回転。至近距離からの蹴りが放たれる。



「うおっ!?」


「さらに、こうじゃ」



 奥の住民の家まで吹っ飛ばし、そこに付け加えて熱の光線を掌から放出する。ドッッガッッ!!!と破壊音が鳴り響く。



「手応えがないのぉ。威力が下がってる?いや、それだけじゃあない」


「おお、あぶねー!!死ぬかと思っちゃった☆魔圧バリア様々だねー」


「…………ほぉ、その技術は今は魔圧バリアなんて呼ぼれておるのか。そのまんまじゃな」



 魔圧バリア。


 それは体内を循環する"魔力"を体全体に均等に放出し、魔力の圧壁を作る技術。魔圧バリアというのはその使用者によって性質を変え、人によっては反射するものもあれば、ぽよよんと弾力のある魔圧バリアもある。



 カラカラ鉱山にてカツジが鉱石もどきを振り払う時に使ったあれもそうである。



※魔力については……恐らく今後解説がある回があるから、そこを見て欲しい。今は、「そういうものがあるんだ。ふーん(鼻ほじ)」程度と思ってほしい。



 ミャシャはニコリと笑いながら、懐から紙切れを取り出す。


「私は爆撃熊唯一にして最も優れた魔術師なんだよ。自慢じゃないけど、記号魔術だって使えちゃうのさ。これ、どんなのか分かるかい?」


「…………吸収、光、放出…………ッッ!?!?」


彼女はどこからともなく取り出したサングラスをかけて手を振り、


「それでは、アデュー☆」



 ピカァァァァァァァァ!!!と凄まじい光線が夜の街に灯る。



「ぐっ!?目くらましか!?アブ、大丈夫……か?」



 光が収まり視界が正常になっていく。膝を折り不安と焦りに飲まれ動けなくなっていたアブの安否を確認するも、彼はどこにもいなかった。


 カツジは歯ぎしりする。



「くそ、さらわれたか。儂としたことが………どこに行ったのじゃ!!」






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