13 半分サキュバスの奮闘 2
「はぁ、はぁ、はぁ。あ、あの!!」
「な、なんだい君。こっちは忙しいんだ、要件は手早く頼むよ」
「ルカさんという騎士からあなたの手伝いをしてくれと!何か手伝うことはないですか!?」
「ルカさんから………。うむ、嘘はついてないようだな。分かった。さっき住民から救出の要請があった。どうやら火が出口を塞いでしまってるようだ、時は一刻を争う。私と一緒に来てくれないか?」
「分かりました、私にできることなら」
そう言って黒煙が上がる場所に向かう。かなり火の手が回っていて窓やドアがふさがっている。
騎士さんによると、一人の女性が閉じ込められているらしい。煙の量が増している、このままでは一酸化炭素中毒になってしまう。
「えいっ!」
水バケツを持ちまずは入口の消化をする。ジューッと蒸発する水が水蒸気となってエルザの身体を蒸す。
結構熱い、袖なしのワイシャツなので肌にもろにくらってしまうが、今はそんなことを言ってる場合ではない。
騎士は鎧を脱ぎ水バケツを頭からかぶり、続けてエルザも水バケツをかぶる。
冷たい!と思わず声に出てしまう。
「よし、それじゃあ突撃だ」
「必ず助け出しましょう!!」
小さくガッと気合いを入れる。騎士がドアを蹴り破り中に突入する。家の中は外からみた光景よりかはあまり炎が回っていなかった。
しかしオレンジ色の悪魔が侵略していることには変わりない。
魔の手から住民を救う為に中を奔走する。
「誰かいませんかー!!返事してくださーい!!」
「――――――こっちにはいないか。どうやら二階にいるようだ、階段は…」
「こっちです」
「そうか、今向かう」
他を探索していた騎士と合流し、二階へ続く階段を慎重に登っていく。ボワァッ、と焼ける音がする。着々と火の手が迫っていることを痛感しながら階段を一段一段足で踏む。
焼け落ちた壁をどかし、ドアを蹴り破って二階へ突入する。
次の瞬間、ボファッ!!と熱波が二人の肌身を襲う。思ったより二階はオレンジ色に染まっていて、一階よりも熱い。
「まずいな、救出を急がねば」
「誰かいませんかー!!」
大声で叫んでみる。何も聞こえないと思われたが、かすかに何かの音がエルザの鼓膜を捉える。
「スケテ………ここだ…!」
「誰かいます!!この部屋からです。熱、火が!?!」
「よし、任せろ!!」
騎士はそう言って前に立ち鞘から剣を抜く。少ない酸素の中、軽く息を吸いそして、
「はぁぁぁぁ!!!」
一閃!!
横に切り落とされた火は焼け落ちた壁ごと、その場から崩れ去る。
凄い、と思わず呟く。とってもかっこいい。剣などほとんど握ったことの無いエルザだが、自分もこんな風になれたら。そうこんな土壇場でも思ってしまう。
騎士がドアを蹴り破って中に入る。そこにはぐったりとしたの一人の女性がいた。
「大丈夫か!!今、助けに来た!!」
「―――――――う、」
「酷い傷だ。破片が刺さっている。すぐに止血を」
「――――――うし、ろ」
「何?」
女性が低く、ぐったりとした、しかしはっきりとした発音で、
「後ろ」
「ッッッ!?!?!」
身の危険を感じたのかとっさに振り向き剣を抜く。カキッ!!と金属同士が打ち合う音が鳴る。
「き、騎士さん!!?」
「貴様、何者だ!!」
「んー、そうだなー。これ見ればわかるんじゃない?うん」
そう言って長めの髪の男はとんとん、と自分の頬を叩く。その頬をには赤い、熊の入れ墨が入った……。
熊の、入れ墨。
思わず息を飲んだ。心臓の鼓動が急激に加速し、エルザは金縛りにあったみたいに動かなくなる。
「貴様、まさか!!」
「そんな大声出さなくても。うん、そう、はい。爆撃熊でーす」
本日二度目になる、爆撃熊との遭遇。
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「あ、が、う、……」
「そんなに驚かなくてもー。まぁ、無理もないか。うん」
声が出なかった。ただカタカタと口を鳴らし小さく身構えることしかできなかった。
爆撃熊の男は手に巻いた剣をフラフラさせながら緊張感の無い表情に満ちている。
「なんほど、この爆発騒ぎも貴様らというわけか。いや、爆発絡みの時点で気づくべきだったか。貴様らの目的はなんだ」
「気づくの遅過ぎ、そして言うわけないじゃあーん。強いて言うなら、うん、そう、暴れまわること?」
「そうか、これ以上おしゃべりは不要だ、なッッッ!!!」
「おっと」
騎士がイノシシの様に突進し、剣を斜めに切り上げる。初撃はなんとも無様なことに失敗、爆撃熊の男は手に巻いた剣で攻撃を弾きながら後ろにバク転。
着地狩りのごとく騎士は剣の刃先を向け、放つ。ガギンッ!と金属同士がぶつかる音が鳴る。
男は両手の剣をクロスし防御する。
「君は速くあの二人を連れて逃げろ!!私のことはどうでもいい、まずは住民の安全が第一だ!!」
その言葉を投げられた瞬間、ハッと目を覚ます。何をしていたんだ自分は。一時のハプニングに思考を失い本来の目的を忘れるのは一番駄目だ。
自分を叱るのは後回しだ。
「分かりました!すぐに増援を呼んで戻ってきます!!絶対、生きててください!!」
「勿論だ、さぁ速く行け!!」
「うん、ねぇ、もういいかな。空気を壊すようで悪いけど」
「ほぉ、貴様にも悪いと思う感情があるとは、なぁッ!!!」
「うお、危ね」
奥歯をガッと鳴らし騎士に背を向ける。負傷者のところに向かい、腕を担いで引きずるように階段を降りていく。
何か、あまり良くない予感が全身を身震いさせた。
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「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ。あ、が」
担いだ負傷者ごと街の冷たい石の通路に倒れ込む。危なかった。火が思った以上に酸素を奪い、息が苦しかった。あと数秒出るのが遅かったら意識を失ってたかも知れない。
「お、おい君!大丈夫か!?」
すると、近くにいた白衣をきた男性が近づいてきた。
「―――――え?あ、大丈夫か大丈夫じゃないかで言ったら大丈夫じゃないです……。それより、この人を」
「酷い怪我だ……速く止血しなければ。まずは彼から安全な場所に運ぶ、君、立てるかい?」
「はい………あっ!?それよりあの騎士さんは!?」
ガバッと立ち上がり直ぐに後ろの焼けた家を見る。自分を逃してくれた彼は今もなをあの爆撃熊の男と戦っている。速く助けに行かなければ。
「おい、君。どこに行くんだ!?!」
「騎士さんを助けに行くんです!!その為に増援を!!」
走り出し、近くに騎士がいないか見渡す。エルザが一人で行ったところで、ただの自殺行為だ。爆撃熊は一人一人の戦闘力は高いと言われている、剣のエキスパートとである彼ら騎士でさえ軽くあしらうほどだ。
「いた!!」
「ん?ど、どうしたんだ君!?速く避難を…」
「それどころじゃないです!!今、一人の騎士さんが爆撃熊の一人と戦っています。助けないと!!」
「ば、爆撃熊だと!?なるほど………そういうことか。分かった直ぐに向かう。どこだ?」
「こっちです!!」
ハァハァと息を切らしながら少しふくよかな騎士を案内する。
どれだけ切羽詰まってたのか自分でも分からないが、時間という概念を感じない。
いつの間にか件の家に着く。二人は慌てて水バケツかぶり中へ向かう。
駆け足で二階へ上がる。
「騎士さん!!増援を呼んできま……あ、あぁ」
「ん?遅かったね。暇だから消火活動してたわ。まぁつけたの自分達だけど。うん、彼は頑張ったよ、すごい、うん」
周りをよく見ると二階にあった火は消えていた。そして焼けて黒くなった木の床に彼は突っ伏していた。
片足を無くした状態で
「次はそこの太った騎士さんかな?うん、そうだね、やろっか」
「貴様ァァァァァァァァァァァァァ!!!!!」