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12  半分サキュバスの奮闘



 炎が街中を焼き尽くす。無慈悲に、残酷に、そしてその炎からはドス黒いゲスのような雰囲気が感じられる。


 多くの人間が被害に合い、今も尚悲鳴をあげている。


 正直、街の騎士だけでは手が回らない。避難誘導、火災からの救出、パニックをなだめたりと、ただ犯人を叩くだけではない。



「皆さん、こちらです!!決して慌てないでください!!あ、ちょ、押さないで……!?み、皆さん落ち着いてください!!?」


「これが落ち着いてられるか!!孫の安否が不明だってのによ!!」


「火の手が街を覆い尽くしてるんだぞ!!速く安全な場所まで連れていけ!!」


「第一、あなた街の娘じゃないじゃない。こういうのは街の人間に任せとけばいいのよ!!」


「え、あ、…………」




 普段、こういう弾圧に慣れてはいない。どちらかと言えば善意でやっているつもりだが、パニックというものは人の心をぐちゃぐちゃにかき乱す。


 本来はこんなことを言う人たちではないだろう。しかし、平和だった街に突然謎のテロ行為が降り注ぎ負の、悪の感情が変に刺激され表に出てしまう。


 ――――無理だ。外野の人間であるエルザにこの人達をなだめることは出来ない。額に汗の珠ができ、彼女の平常心をかき乱す。


 すると、一人の女性が阿鼻叫喚な表情をしてエルザの腰回りを指差す。



「あ、あなたそのしっぽ……!?もしかしてサキュバスじゃないのかい?」


「――――――あ」



 目線を落とすと服に隠していたサキュバスのしっぽが、時間のたったポテトのようにしなれていた。



 何故、このタイミングでサキュバスであることを言うのだろうか。サキュバスは世間一般的にはあまり好印象ではない。男性からの支持は高いがやはり性に埋もれた不埒ふらちな存在として扱われることが多い。



 そのせいで昔から他の地域に行くと他人から驚かれ、それが嫌になってしっぽをできるだけ隠すようになった。


 手前にいた一人の少年が前に躍り出てエルザをにらみつける。



「分かったぞ!!お前がやったんだな!知ってるよ、サキュバスって悪魔族の仲間なんでしょ!!」


「ち、違。確かに私はサキュバスですけども…」




 サキュバスが世間一般的に好印象ではない理由はもう一つある。それは悪魔族の亜種であると言うこと。



 悪魔族はそれはもう根っからの悪であり、人に悪さをしたり犯罪を犯さない奴の方が少ないと伝えられている。そして世界に残る大犯罪の半分程度は悪魔族が犯人だと言う結果もある。



 それに怒った天使族という悪魔族と対をなす存在が攻撃を仕掛け、長年に渡る争いが起こった。



 結果は天使族の勝利、悪魔族は滅び恐らく今この世界には一人としていないだろう。


 そしてサキュバスはその悪魔族の亜種。エルザが生まれるずっと前ではサキュバスは差別的な目で見られていた、最近ではその差別意識は薄くなっていったがやはり根本からなくなった訳ではない。




「ま、まさか嬢ちゃん……」


「違います!!私は、決して………」


「いや、可能性はゼロじゃない。悪魔族の復活は昔から予言されてた、それか元祖帰り!?」


「そ、そんなわけないじゃないですか。わ、私が………」



 駄目だ、駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ。圧が、圧が凄い。


 この世で最も悪徳な視線が彼女の身体を貫く。普通ならありえないと彼らも思うだろう。だが今は違う。


 平常心を保っていられない、負の感情が全面に押し出されていて疑念という感情しか頭にない。



 子供、女、老人。吐きそうになるほどに嫌な視線を一心に浴びる。


 彼らが今、凄く大きく感じる。どっちが悪魔なのかわからなくなる。思わず後ろに後退し、彼らから距離を取ろうとする。



「あぁ、――――――ち、ちが」



 その時だった。



「そこまでだ!!」


「――――?」



 後ろから一人の女騎士がアクロバティックな動きで現れた。

金髪の髪を後ろに束ね、強そうな剣を一本携えている。



「る、ルカさん!?」


「みんな、やめないか!!この少女が何をしたんだ!!」


「だ、だがもしかしたら」


「この少女が悪魔とでも言いたいのか!?みんな落ち着くんだ、そして考えてみろ。この少女からは一切の邪気は感じられない。それに彼女はけが人の手当や避難民の手助け、避難誘導までやってのけた。騎士でもなければこの街の住人でもない彼女がだ!」


「「「………………………」」」



 先程まで興奮していた住民達が冬のナマズのようにおとなしくなる。


 ルカという騎士から発せられるオーラ、カリスマ性が住民達の感情を抑える。



「恥を知れ!!今この場でやることはみんなで少女を攻撃することじゃない、みんなで力を合わせてこの危機を乗り越えることだ!!」


「――――――あ、あの」


「………済まなかった。君は本当によくやってくれた。情けない私達を代表して、ここに謝罪の意を」



 そう言って彼女は深く頭を下げる。



「や、やめてください。騎士さんが頭を下げるなんて」


「………ありがとう。ここは任せてくれ、ここからは騎士の仕事だ」


「あの、私にも何か手伝わせてください!!困ってる人を放っておけません!!」


「し、しかし…………。分かった、君のその尊い心に、敬意を。向こうに私の同僚がいる。彼と一緒に住民の救出及び手当をよろしく頼む」


「分かりました。騎士さんもどうか置きおつけて」


「――――――最後に、君の名前を教えてくれないか」



 ルカが優しい瞳で問う。少し困惑したが、はっきりと強く彼女に向けて言った。



「エルザ・サッカバスです」




#####




 走り去っていく少女の背中を見つめる。


 あんなに健気な子を見たのは久しぶりだ。別にこの街の子供達がそうではない訳ではないが、彼女には何か違うものを感じる。



「よし、それじゃあみんな指示に従ってくれ。大丈夫だ、街の住民はひとり残さず我々が助け出す。だから今は自分達の命を守ってくれ」



 大きな声で住民達に叫ぶ。彼らはそれにおとなしく従い避難先へと走り出していく。


 最後の人が避難場所に入ったのを確認したあと、彼女も人民の救出をするために走り出す。


 小さな街とは言え、人はまだまだたくさんいる。彼らの命を守ることが騎士としての役目。その役目を果たさずしてなんと言おうか。



 消化器具をもって火の手が回る家に向かう。一人の騎士がその家から住民を背負い出てくるのが目に入った。



「ルカさん!この家の住民の救出しました。しかしが出血が酷いです」


「そうか。ここは危ない、安全な場所に移動し手当を頼む」


「了解です!」



 この場は仲間に任せ、他のところに行こう。まだ炎は街を襲っ ている。


そう思って走り出すと前から謎の影が二つ、こちらに向かっているのが分かった。



「ッッ!!?」



 とっさに身構えた。二つの影からはドス黒い邪気しか感じない。少々慌てた様子だった。


 両方ともマントを羽織い、片方は腹に、片方は額に熊の入れ墨を………熊の入れ墨!?


 思わず息を飲んだ。



「まさ、か」


「ミャシャさん、消化器具見つけました!」


「よーし素早く迅速に全速前進で奪い取れ!すまないけどそれ寄こせやぁぁぁぁ!!」



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