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9  街にて


 鉱山から出て街に戻ってきた二人はトホトホと気を沈めながら歩いていた。



「結局大した金にはならんかったな………いや、一日に2万5千ならかなりいいほうか」


「まぁ元は取れたんで私は満足ですけどね」


「儂以上にがっかりしてた癖によく言うわい………」


「にしても、もうこんな時間ですね」



 空はすでにオレンジ色一色に染まり、夜が着々と近づいた。


 二人は休憩がてら、近くのベンチに座る。



「サクライまでは徒歩で一時間ぐらいだからまだ時間的には大丈夫ですね。はぁーー疲れた!!久しぶりにこんな動きました」


「そうじゃな。何故か儂も疲れている。なんでじゃろな、依り代は死んでるから疲労とかないはずじゃが…………」


「何をブツブツ言ってるんですか?また依り代とかってセリフが聞こえてきたんですけど」


「この数珠を作ったのはあの引き籠もりだから詳しい原理は知らんのじゃが、儂はこの数珠をかけた人間が死んだところにつけ入るのじゃ。言うならば逆ネクロマンサーみたいなもんじゃ、肉体は死体だから『痛い』とか『疲れる』とかはないはずなんだかのぉ………」


「………なんだかよく分かんないですね。その引き籠もりとはカツジさんのお知り合いで?」


「知り合いというか腐れ縁というか面倒くさい奴というか………。今どこで何しとるかは知らんがいつか突き止めるか。イカネの奴にでも聞けばいいかの、でもあいつのいる場所って確か………」


「腐れ縁……ですか。私にはそういう人はいないので少し羨ましいです」


「なんじゃ?お主ボッチなのか?」



 すると突然エルザは立ち上がり少し恥ずかしそうに否定し始める。



「ちちちち違いますよ!?決して友達がいないとかそんなんじゃなくて……?」


「疑問系になっとるぞ。んま、せいぜい頑張ることじゃないボッチサキュバス」


「――――か、カツジさんは私と、と、友達になってくれ


「お、なんか面白そうなのがあるぞ」


「ちょ」



 エルザが何か言っていたが無視しベンチから立ち上がる。向かいの店で何やらくまの着ぐるみを着た何かに子供達が群がっていた。


 なんだあの着ぐるみは。ふんわりとしたデザインなのになんで口元が裂けてるんだ怖ぇよ。


 どうやら着ぐるみは子供たちにぬいぐるみを配っているようだ。それもよく見るとこの着ぐるみと同じデザインのぬいぐるみだ。



「これ、べべベアのぬいぐるみじゃないですか?かわいいですね〜」



するとエルザがおっとりとした声で言う。べべベア?なんだその適当な名前は。



「べべベアとはなんぞ」


「え?知らないんですか?べべベアはべべベアです。あらゆる環境に適応することができる小型の動物で、基本的に人には害を出さないし利口なので愛玩動物として人気が高いんですよ。私も小さい頃家にいましたねー。可愛かったなー」


「お主らはこの口元が裂けた動物をかわいいと思っておるのか……?」


「おや、もしかしてカツジさん。べべベアが苦手とか」


「いや苦手とか以前の問題じゃろ。下手したらB級ホラー映画とかに出てきそうなんじゃが………」



 長年この世界で暮らしてきたが、やはりこの世界の人間の価値観とは分かり合えない。


 するとエルザはぬいぐるみを配っている着ぐるみの元に向かい出す。



「おいお主、どこに行くつもりじゃ」


「え?いやただで貰えるらしいので貰っておこうかと。カツジさんの分も貰ってきますか?」


「いや、夢に出てきそうだからやめとく」



 速攻で拒否した。




#####



 空はもうすでに闇夜がオレンジ色の空の半分を埋め尽くしていた。


 ピンク色のべべベア人形を受け取ったエルザは上機嫌でこちらに戻ってきた。



「それではそろそろサクライに向かいましょうか。宿屋で休みたいです」


「――――――」


「?。どうしましたカツジさん」


「いや、最初は面倒だから行かないと思ってたんじゃがな。結局行く宛もないしむしろ学校の方が面白そうじゃ。儂も行く」


「は、はぁ……。そうですか」



 エルザは少々困惑気味で答える。


 学校。あまりいい思い出のない単語だが今はあの時とは違う。今度こそいい感じの青春を過ごすのも悪くない。何をしようか、まずは力でねじ伏せて学校を侵略しようか。それとも普通に過ごそうか。


 どうせ鬼神だって信じてくれないから、黙って普通に学生生活を送るのが得策か。ちょうど学生服のような物も着ているし、そっちの方がいい気がする。


 いや、やっぱり学校を侵略して好き放題するのも悪くないっちゃあ悪くない。



「んんー悩みどころじゃのー」


「何をさっきからブツブツと言ってるんですか。まさか、力で学校をねじ伏せよう、とか考えてないですよね?」


「べべべべ別にそんなこと考えてないぞ!?」


「やめておいた方がいいですよ。『アナスタス』は古今東西の種族が集まる学校です。カツジさんがいくらキネイエを倒してしまうぐらい強くても、世界は広いんですよ。カツジさんより強い人は結構いると思います」


「―――――――ふーん。ま、ええじゃろ。その方が面白い」


「あまり変なことしないでくださいよ………?」




 へいへいと適当な返事をする。エルザは少し不満そうに頬をふくらませているが、まぁいいや。



 サクライへの方角を歩いていると、道端から子供の声が聞こえる。




「か、返してよ僕のべべベア人形!!」


「っは、やなこった。悔しかったら奪い返して見ろよ!この意地なし!!」


「意地なしー!!」


「むーーーー!!ま、まぁ別にいいし。べべベア人形くらいくれてやるよ!!冒険者の心は寛大なんだよ」


「ぶふぉww。お前まだ冒険者目指してるのか?おこちゃまだなー現実見ろよ!!確かにお前の親父さんは凄いやつだったかもしれないけど、だからっておめえが冒険者になれると思ったら大間違いだぞこの意地なし!!」


「そうだぞー。だいたい心が寛大なんじゃなくて、ただ俺らにビビって手出せないだけだろ。いつも口先だけは冒険者だな!」


「「ゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラ」」



 そう二人の少年はもう一人の少年を煽り散らかして去っていった。


 最近の子供は精神攻撃までお手の物なのか。恐ろしい。


 煽られた少年は涙目になりながらベンチに座りうずくまってしまった。少し同情するが、今の自分達には関係のないことだ。


そう心の中で呟きその場を去ろうとすると、



「カツジさん、どこに行こうとしてるんですか」



 ガシッと肩を掴まれる。



「いや、別に」


「まさかあの状況の小さい子を見捨ててこの場を去ろうとしてるんですか!?」


「人聞きの悪いことを言うでない!別に儂はこの少年に強くあれとな……」


「見損ないましたよカツジさん!!口は悪いけどいい人なのかなって思ってたのに!」


「見損なうほどの付き合いじゃなかろうて!だいたい、初対面の儂らにできることなんてあるのか?」


「ふふん。まかせてください。小さな子の扱い方は慣れてるんです」




大してない胸をを張り、少年が座っているベンチに近づく。エルザは少年に目線を合わせ好ましい笑顔を笑いかけた。



「大丈夫?」


「――――――――え?」


「ごめんね。さっきの会話聞いちゃってて、それで何か君に出来ないかなって思って。お姉さんなら相談を受けるよ」


「―――――さ」


「…………さ?」


「さ、サキュバス……!?」


「え」



とっさにエルザは自分の後ろを見る。そこには服に隠すのを忘れていたサキュバスのしっぽが丸見えであった。


少年はパクパクと口を開き怯えている様子。



「ち、違うの!これは、そのー」


「ぼ、僕知ってるよ!!サキュバスって男の体から精気を強引に搾り取って殺す悪魔なんでしょ!!」


「違うよ!?何か情報に誤解が………」



少年は自分の身を抱くようにしてエルザから一歩ずつ離れていく。エルザは額に汗の珠を出しなんとか説得しようとする。



「違うの。私は別にあなたを励まそうとして……」


「ハゲまそうとして!?まさか僕の髪の毛が狙い!?やだよ僕ハゲのまんま死にたくない!!」


「なんでそうなるの!?違うってば……うう、うぐ、ひぐ」



 自分で声をかけといて泣き出したぞあの半分サキュバス。人殺しと勘違いされたのがショックだったのか、目をこすりながらこっちに帰ってきた。



哀れじゃな、従者よ。




学園はもうちょっと待って・・

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