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鬼の里のカツジ


 遠い時空の彼方。私達が住んでいる地球とはまた違う地球。いわゆる、異世界。この地球では人間以外にも多くの知的生命体が存在している。その多くは人と姿は似ている者もいれば、UMA扱いされそうな姿の者まで。


 例えば長い耳が特徴の神秘に満ちたエルフ。人に鳥の羽や獣耳、モデルになった動物の特徴をくっつけたような獣人族。翼を有したデッカイ爬虫類のような見た目。ファンタジーではおなじみのドラゴンまで様々。


 彼らは互いの違いを時に認め、尊重し、協力して。時に妬み、いがみ合い、拒んで争って。


 そんな歴史を繰り返し繰り返し繰り返した世界。この物語はそんな世界が舞台の話。





#####




 その日は酷く風と雨が降っていた。運が悪くその日は夫婦揃って仕事で里からは離れていた。


 海は荒れ、木々はなぎ倒され、前へ進むことも難しかった。

そんな時、どこからか声が聴こえた。オギャー、オギャー。

嵐で音は小さかったが、誰がどう聞いても赤ん坊の泣き声だった。



「おいおい、なんでこんなところに人間の赤ん坊が……」


「何突っ立ってるんだいあんた!宿があるところまではまだ距離があるってのに……。人間の赤ん坊?そんなのにかまってはられないよ!」


「……」



 男はその赤ん坊を抱き上げた。抱き上げた瞬間、赤ん坊は泣き止み男の眼をじっと見た。男も赤ん坊の眼を見つめた。



 人間なんて自分たちにとっては虫ケラも同然、普通なら見捨てるはずなのに、何故かこの子を見ていると不思議な気持ちになる。



「きゃはぁ!!」


「――――――」



 すると赤ん坊は男に笑いかけた。特に意識はしてないんだろう、だが男はその瞬間に悟った。これは運命なんだと、こんな畜生に、大罪を背負った男にも神はやり直す機会を与えてくださったのだと。



「……俺はこの子を育てる」


「はぁ!?あんた何言ってんだい!馬鹿なのはその面だけにしてくれ!」


「これは運命なんだ。子に恵まれなかった俺たちにとって、この子は救世主なんだ。必ず俺がこの子を一人前の男にする」


「あんた、里のみんなにはどう説明するんだい!ただじゃ済まないよ!」


「わかってるみなまで言うな。これは試練だ。乗り越えるべき試練なんだ」


「えぇ!?ちょ、本気で連れてくつもりかい!?ちょっと待ちな―――――――――」





14年後






「おいカツジ、無理すんなよ!何なら手ぇ貸してやろうか?」


「るせぇ!ちょっと待ってろ、今すぐにでもお前らのところに行ってギェェびっくりだぼよーギエッギエッって言わせてやる!」


「いや俺そんなキャラしてねぇから…………」


「頑張れー!登り切ったら松茸あげるからさ」


「え、マジで!!しゃあ松茸ェェ!!」


「お前それシイタケじゃね………?」


「しー」



 そんなこんなで少年達は山を登る。


 三人の少年達は何の変哲も無い、普通の少年に見える。ただ一点を除いて。


 角。動物で例えるならば、イッカクのような一本の角が彼らの額には生えていた。


 いわゆる彼らは、『鬼』と呼ばれる者たちである。しかし、それが生えてるのは彼らの内二人だけ。



「はぁ、はぁ、ぜぇ、ぜぇ。くそ、角が生えてるか生えてないかでここまで差がつくのか…………そういえば、何で俺達って山登ってるんだっけ」


「お前なぁ。お前が行きたいって言って俺達を巻き込んだのによくそんなこと言えたな。今日は釣りの予定があったのに」


「え?そうだっけ?ぜぇ、ぜぇ、忘れた。何だっけ」



「長老の家で宝の地図を見つけたって言うから、山頂の碑石辺りに埋まってるお宝を探しに行くんだろ?大丈夫かお前?」



 あぁ、そういえばそうだったと頷き少年は進む。


 ”角の生えてない鬼”のカツジは、今日も今日とて進んでいく。





######




 ちゅん、ちゅんと鳥の鳴く声と温かい日差しに目を覚ます。季節は秋。少し冷えてきた風に少年は布団をかぶり直し二度寝の体制に入る。



「おーい、カツジー!今日は漁の日だ!さっさと起きて準備を手伝え!」


「えぇ……。やだよ、眠いし寒いし。せっかく二度寝の体制に入ったのに……」


「よし、なら今日のお前の飯は抜きだ。やっほー久しぶりにたらふく魚を食ってやる!」


「はっはー!そんな父の手伝いを断る息子がどこにいようぞ!だから飯抜きはやめてください死んでしまいます」


「ならさっさと起きて顔洗って歯を磨け!」


「あいあいさー!」



 飯抜き宣言をされた瞬間布団から飛び出した少年の名はカツジ。濃い青色の髪に水色の瞳。何度も破れた後を縫い直した跡があるぼろ服を着た、鬼の里に住む生粋の"鬼"だ。



カツジは部屋から出ると水飲み場に行き顔を洗い歯を磨く。

すると後ろから一人の女性が話しかけてきた。



「おはようカツジ。朝から精が出るね」


「精が出るというか強引に絞られてるんだけどね、おはよう母ちゃん」


「今日はやけに布団から出るのが早かったじゃないか。いつもなら角ドリルされるまで起きないのに」


「飯抜きは俺にとって怖いものランキング2位だからね」


「3位は?」


「クドウ先生の剣術地獄6時間スペシャル」


「1位は?」


「言わずもがな母ちゃんの角ドリル」


「ははっ!そうかい。ほれ、歯ぁ磨いたんなら早く港に行きな。はいこれおにぎり」



 歯を磨き終わると母がカツジの大好物のおにぎりをくれた。感謝を告げおにぎり片手に港へ走っていく。すると里のみんなから声をかけられた。



「お、カツジ。今日はやけに早いな」


「おはようカンタ兄ちゃん。母ちゃんにも同じこと言われたぜ」



「カツジお兄ちゃん、おはよう!」


「おはよう我が誇り高き子分達よ、ご飯を食べる前は歯磨きを忘れずにな」



「おや、カツジじゃないか。若いもんはいいのぉ朝からあんなに走れて。どれ、ワシもひとっ走りしようかな」


「ヒョウゾウ爺ちゃん辞めとけ、腰が爆発しちまうぜ」



「あらカツジ君じゃない。朝からお手伝い?」


「おはようノブコおばさん。飯という名の人質をとられてるんでね」



 里のみんなと話しながら走ってる間に港へついた。港につくと縄を持ち漁の準備をしている父がいた。



「おはよう父ちゃん。ちゃんと来たから飯抜きは無しな!」


「分かってるよ。チッ、せっかくカツジの分の刺し身を食えると思ったのに」


「聞こえてんぞ」


「ハハッ☆なんのことかさっぱり。ほら早く手伝え」


「あいあい、人使いが荒い人だ……」



 そう言うと船の中に入る。里の中では唯一の機械で動く船。父が最近王都から取り寄せた一級品。人力で船を漕ぎ漁をしていた頃とは段違いの効率の良さが売りのこの船は、今では里にはなくてはならない存在だ。



「けどいまいち使い方がわからんのよな。この……めーたー?ってやつも見にくいしハンドルも回しにくいし」


「まぁそれ王都で一番安いやつを盗……じゃなくて買ったからな。しょうがないしょうがない」


「今盗んできたって言いかけなかった!?」


「ちょっと何言ってるか分からない」


「……」



 父への尊敬にヒビが入った瞬間であった。父は昔からこうだ。


 ヒョウゾウ爺ちゃんの話では昔は鬼の里の中で"神童"と呼ばれるほど凄かったらしいが、カツジから見たらただのお調子者の親父にしか見えない。


 二人は黙々と作業を進め、船を出港させる段階まできた。父は船に飛び乗りエンジンをかけ港から出発した。


 船がどんどんと速度を上げていき風を切る感覚がする。カツジはこの感覚が好きだ。大いなる海、輝く太陽。まさに冒険って感じがする。実際にはそんなことないけど。



 すると運転中の父が話しかけてきた。



「―――――――明日でお前も14歳だな」


「え?あぁうん、そうだね」




 鬼の里にはある風習がある。女であれ男であれ、14になった鬼は自ら角をへし折り一人前の鬼になるための旅に出る。


 角がもう一度生え治ってくるまでは里には戻れない。


ちょうど明日はカツジの14の誕生日、そう旅立ちの日である。



「でも、俺って何故か角無いじゃん。へし折るもクソもないよ」



 カツジには角が無い。鬼は普通産まれた時から角を額に持ち合わせているのだが、カツジにはそれが無い。


 その為なのか他の鬼よりも身体能力は低く昔から成績は最下位 だった。だが友達や両親のフォローあってかなんとか皆についてこれている。



「それについては長老と話し合って決めた。詳しくは当日に話す。それよりカツジ、お前は外に行ったら何がしたい?」


「何って、別に。旅に出るって言ってもどこをどうすればいいのか分かんないし」


「それを探すのが旅なんだよ。強さを極めるのもいいし、遠くまで行って世界の人々と触れ合うのもいい。何か大事な信念を見つけた時、きっと内に秘める角が答えてくれるよ」


「ふーん」



 カツジは適当に答える。正直言って旅に出る実感が沸かない。それはカツジが未熟なのだからか、それとも皆こうなのか。



「そうだカツジ、父ちゃんが14歳になる記念にいい事を教えてやろう!」


「え!?なになに?」


「それはだな……。実は、カツジは俺の子供じゃないんだ!あの日道ばたで捨てられていたお前を俺は……」


「あ、もうそろそろ着くよ」


「スルー!?父ちゃん傷つく!!」




 明日は誕生日。どんな事が起こるのかはカツジにも分からない。けど、何か凄いことが起きそうだなと思っていた。



 首元にぶら下げた蒼い数珠繋ぎをイジりながら、大空を見上げた。




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