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第一の魔王

6000字超えてしまいました...。

翌朝、全勇者が集められた。

「勇者殿。昨晩、報告があった。

北に居座っていた魔王が討伐されたという報告だ」

その言葉に全員がざわつく。


「誰が討伐したのかはわからない。が、間違いなくこの世界に住んでいたもの。この世界に住んでいたものが倒せる相手を、どうして勇者が倒せない?そう俺は思った。

よって、勇者殿、これより、魔王討伐へ向かってくれ」

ざわつきが大きくなる。

「え、魔王討伐?」

「嘘だろ、もうかよ」

「大丈夫だろこの世界のやつが倒せたってことは俺らに倒せないはずがないんだ」

あちらこちらから聞こえる不安の声、自身たっぷりの声。


「で、まずは誰を倒せばいいんだ」

幸弥の声が騒がしい空間にやけに大きく響く。


「クレリック王国最東端の結晶の森。その中央に鎮座する魔王グレイスだ。オーガのような姿という報告だ」

「最東端だな?行くぞ、お前ら」

幸弥の睨みに、全員が竦み、大人しく従っていく。


「勇者殿、準備が出来たらここに戻ってきてくれ」

それに幸弥は軽く手を振るだけだ。



「暦、どうする?」

部屋に戻り、支度中に朱里が訊ねる。

「どうするとは?」

「フォーメーション変える?」

「変えない」

朱里は今のメインで使われているフォーメーションで優のカバーができるかどうか不安をもっていた。

だから、優と場所を変えてもらおうと提案しようとしたが、

暦にばっさりと切り捨てられる。


「朱里、優とお前では動き方が違う。戦い方が違う。思考が違う。優にはとりあえず突撃してもらう。優は戦闘に対して恐怖を持ってる。それは3ヶ月経った今でも変わらない。だから、あいつには我武者羅に突っ込ませる。そして、そのカバーをお前に頼んでる。朱里ならしっかりと頭も回るだろ?いいか、今のお前のポジションは朱里以外に任せられないんだ」

朱里の頭に手を置き、目線を合わせてそう力説する暦は、どことなくお兄ちゃんと呼ばれるような雰囲気だった。


「手を置くなよ......」

が、それは彼女には感じられなかったようだ。

「頭に手を置くなー!」

頭に手を置かれて安心した朱里はその事実に恥を覚え、話が終わった直後に速攻で手を振り払った。

「ふー、ふー、ふー、」

獣の様に荒い息を繰り返す朱里に、暦はため息をついて準備に戻った。


そして十分後。


39名の勇者が万全の支度をして集まった。

「勇者殿、準備は良いな?」

全員の首が縦に振れる。


「では、頼んだぞ!勇者殿。転移門(ゲート)開け!」

ゆっくりと3ヶ月前に良を飲み込んだゲートが開く。

その中に映されるのは白銀の世界。

全てが結晶の形をした、角張った世界。


その世界に幸弥が、翔吾が、菜月が、凛が、足を踏み入れた。

勇者の初の魔王討伐が、今、行われる。





転移した場所から中央へ。誰も、何も言わないまま歩いていく。

それは前方か漂ってくる死の気配のせいか。

それとも自分が魔王を倒すところを想像し、酔いしれているからか......。



「グルォォォォァアアアアア!!!」

突然の咆哮に全員の体が硬直する。

そしてその咆哮は周囲の結晶に罅をいれ、砕く。


「彩香!」

最後尾、一番体力の無い彩香の上に特大の結晶が降り注ぐ。


力も無い彩香にあれを弾く、壊すことは不可能と判断した暦は

即座に蛇腹剣を抜き、彩香の腰に巻き付け引き上げる。


引き上げた彩香を抱きとめ、優香に回復を頼む。

蛇腹剣の斬れ味は容易に彩香の腹部を切り裂き、出血を起こしていたのだ。


「今の咆哮はかなり近い。いつでも戦える用意をしていてくれ」

暦のその指示に、Cランク勇者が武器をとる。

その動きに幸弥達を含めた全員が武器を構える。


数分後、全身が結晶で覆われた現代で言うならば鬼と呼ばれる存在に近い化け物が現れた。

全長10m近く、筋骨隆々な体は結晶で覆われていることも相まって鋼のような硬さを見せる。

金色に光った二つの眼が驚異的な殺意を叩き込んでくる。


一瞬、全員の意識が現れた結晶の鬼に奪われる。

直後地面が爆ぜる。否、突き出る。

全員が立っていた場所に三本の巨大な結晶が立っていた。


「行くぞぉ!!!」

Sランク勇者が突撃していく。

「あいつらっ!」

暦は悪態をつきながら頭を回す。


敵の力は未知数。

攻撃方法も範囲を何もわからない。


「A,B,C,Dの勇者で逃げ道を塞ぐ!

A,Bは2班で二方向を閉めろ。CDは合同で一方向!

逃げ道を一つだけ残すのを忘れるな!」

暦が戦闘は幸弥達にまかせようと指示を送るが、

C,Dランクの勇者しか言うことを聞いてくれない。

A,Bランクの勇者は我先にと戦闘に参加していく。


「クソッ!言うことを聞いてくれ!」

暦の作戦も問題はあったが、被害を最小限に抑えるという点では一番良かった。

最悪、という展開ではないがいい展開とも言えない。


「C,Dで三方向を閉めるぞ!俺と朱里はペアにして5人の所に入る!3,6,6で別れろ!」

必ず逃げ道は開ける。

それが今の状況では大事だった。


「邪魔だ!」

「お前こそ邪魔だ!他の所攻撃しろ!」

「んだとおら?」

鬼──魔王の全長は10m付近。そこまで高く飛ぶことはいくら勇者でもできない。

必然的に足を攻撃するわけだが、クラスの半分近くが足に集中すれば、攻撃場所が被ることがある。

そして、それを相手は見逃さない。

頭上から風をまとった拳が降ってくる。

そして言い合っている2人はそれに気づかない。


「あたり!蓮!」

誰かが叫ぶが二人は気づかない。

そのまま超質量の拳に押しつぶされる。

直前、地面を蛇が這う。


その蛇はあたりと呼ばれた男の足を掴み、持ち手の動作に合わせて引いていく。

暦が探しあてた一つの武器派生、蛇。

暦の蛇腹剣にはいくつかの派生があった。

そのほとんどは今も解禁されていないが、さっき彩香を引っ張った時に派生が生まれた。それが今の蛇。

対象を傷つけることなく引き寄せることができるという効果がある。


だが、今暦が引き寄せたのはあたり一人。蓮までは助けれていない。

暦が蓮の姿を見ようと顔を上げた時、

ズウウウンンンンン

という重い衝突音と地震が発生する。


全員の攻撃がその震動で止む。


蓮が死んだ。人が死んだ。クラスメイトが死んだ。

死を目の当たりにした。

「れ......ん......?」

が、死の感傷に浸っている時間は無い。

すぐそばに、敵対する者がいるのだから。


「ぐぅぁあ!」

蓮の名を呼んだ女子が吹き飛ばされる。


「美琴!」

吹き飛んだ女子を心配した女子が魔王から目を離した瞬間、真下から結晶の槍が突き出る。

雨宮(あめみや)!」

それを見た近くの男子が彼女を突き飛ばす。

男子は反動で奇跡的に槍を回避する。


「たった一人失っただけでこのザマか」

遠目にその様子を見ていた暦は悪態をつく。


「暦、行く?」

隣で朱里が槍を構えるが、それを暦は下ろさせる。

「ダメだ。第一今の人数でも攻撃箇所に被りが出るんだ。増えたらもっと被る」

暦は戦場をじっくりと見る。


「おい、菫はどこ行った!?」

一方向を担当しているはずの菫の姿が消えていた。

「え? !!本当だ!どこに行ったの!?」

朱里も気づき、慌て出す。


「ぐぅあ!」

が、悠長に探す暇など魔王は与えない。

男子が吹き飛ばされる。


ここまでSランク勇者を誰も見ないことに暦が疑問を持つ。

(何故あいつらがいない?逃げたのか?)


本当は魔王の顔付近に登って、顔を攻撃しているのだが、

そこまで暦は意識を向けられない。


(言うことを全く聞いてくれないAランクと共闘か、キツいな)


「誰か菫がどこに行ったのか確認してきてくれ!」

菫の居場所確認と戦況を見ることを同時に行う。


「勝と優香に魔法を撃てって伝えてくれ。合図は俺が出すからそれだけ伝えればいい」


「蓮が死んだのが大きい......。全員本来の実力の2/3も出せてない」

暦は眉間に皺を寄せ、戦況を的確に判断する。


「『豪華』」

「『連華』」

「『氷華』」

「『桜華』」

突然、爆炎が発生し、水流がそれを飲み込み、水が凍てつき、桜が舞散った。


魔法による想像の具現化。

それが、魔王を中心に吹き荒れたのだ。


当然近くにいた勇者は吹き飛ばされ、火傷、凍傷、裂傷様々な傷を負う。

それをしたのはA,Bランクの後衛だ。

良かれと思ってした攻撃が全員を吹き飛ばすなんて...!!

という表情をしていることから故意のものでは無いと暦は判断する。


だが、状況が悪い事に変わりはない。


「暦さん、優香さん達に伝えて来ました」

そう戻ってきたクラスメイトが言った瞬間暦は合図を送る。


「『破城天鎚(はじょうてんつい)』」

「『滅尽閃(めつじんせん)』」


空から攻城兵器に用いるような先端が尖った鎚が振られ、魔王の体を守る結晶に穴を開ける。

その時、暦の目にSランク勇者の姿がちらと映る。


が、次に起こった極大の閃光に視界が奪われる。

目が灼かれ、見えなくなる。


「ォォアアアア!」

が苦悶の咆哮が聞こえることからダメージを与えたと確信する。


そして視界が戻った時、そこには腹を穿たれ、左腕を無くし、膝をつく魔王の姿があった。

顔の結晶もボロボロになっていることからSランク勇者も仕事をしていたと暦は判断する。



「今だ!動ける奴は全員攻撃しろ!ただし魔法組はさっき吹き飛ばされたやつらの治癒を最優先だ!」

Sランク勇者の突撃と同時に暦が全体へ指示を飛ばす。


「Aランクの魔法組!さっきの二の舞にしたいのか!」

総攻撃を全員で仕掛けられない原因を作ったやつらに多少の怒りをぶつける。

さっきの二の舞という言葉に反応したのか、慌てて魔法構築をやめ、負傷者の下へ向かっていく。



剣技が、鎚技が、槍技が、数多の技能が透明な結晶を削り、砕き、貫通する。

「ギャアアウゥゥウウウ」

悲鳴のような声が上がっても、誰も手を緩めない。

その光景は、恐怖に駆られ、必死に何かから逃れるようにやっているようにも見える。


そして、幾千もの攻撃が乱舞した後、断末魔をあげることなく魔王は絶命した。



「やっ...た...?」

誰かからフラグの様に思える声が漏れるが、眼前に倒れ伏す魔王が動く気配は無い。


「魔王といっても、この程度か」

幸弥が刃がかけて使い物にならなくなった剣を肩に置き、強がりにもとれる発言をする。


ここにいるのはC,Dランク。幸弥の機嫌をとるように笑うことしかできない。


やがて、治癒に回していた魔法組が戻り、

死に至る怪我をした人、死んでいた人はいないことが報告され、

全員の顔に笑みが浮かぶ。


「でも、蓮君は......」

だが、軽傷だったAランクの女子が一人の男子生徒のことを思い出させる。

その瞬間、一気に場が静まる。


「あ?蓮がどうかしたのか?」

顔近辺で戦っていた幸弥が説明を求めるように睨む。

「蓮は死んだんだよ......。変なことで言い合いになって、熱くなって。あいつの攻撃を避けれなかった。」


「あん?言い合い?誰と?そいつは死んでねえのか?」

幸弥が蓮の死を伝えた生徒に近寄る。


「あ、あたりと攻撃場所で言い合いになって、あたりは、暦が助けたけど、蓮は見捨てやがった」

蓮が死んだことに相当ショックを受けたのだろう。

状況説明も何もかもが出来ず、何故か暦が助けれるのに助けなかったというような言い方になっている。


「暦......。お前なんで蓮を助けなかった?」

威圧感のある声が真正面から浴びせられる。


「はぁ、そいつの言い方が悪い。俺は両方助けれたわけじゃない。どちらか片方を助けられるかどうか。そういった状況だった」

暦は幸弥の目を見てゆっくりと状況を説明する。


「で?蓮じゃなくあたりを助けた理由は?」

が、わかってはくれなかったようだ。

「どちらかを助けられるかどうか。要するに下手したらどちらも助けることができなかった。だからまだ助けられる可能性の高い近くにいるやつを引っ張っただけだ」

その説明に幸弥は怒り心頭といった様子だ。


「ほお、いい度胸してんなお前。つまりそれは仲間を見捨てたってことだよな?」

幸弥から発せられる怒気が強まる。

「結果だけ見ればそうかもしれないが、そこに至る過程を見れば悪いのはあいつらだ。戦場で言い合いに熱中して攻撃を躱せませんでした。本来なら二人も死ぬところを一人助けたんだ逆に感謝の方が強いと思うが?」

その幸弥の怒気に暦は一歩もひかずに対抗する。


「お前が蓮を助けてたら少しは感謝してたよ」

暦は平行線、もしくは暴力に発展すると確信し、言い合う対象を変える。


「なあお前ら、俺の最初の指示聞いてた奴何人いる?」

その突然の話し相手の変更に幸弥の怒りが増す。


「おい、俺と話してる途中だろ──」

「少し黙ってろ。悪いのは俺じゃなくてこいつらだってことを証明する」

その言葉に幸弥は訝しげな視線を向け、他の勇者に苛立たしげな視線を投げる。


「それはおかしいな?最低でもBのやつらは聞こえてるはずだ。」

暦の問いかけには誰も反応しなかった。


「俺はCの一前で指示を出した。それでもDには聞こえてる。すぐ目の前にいたBが聞こえないなんてことは絶対にありえない。そして、Aも聞こえてないとおかしい。俺が中学校の時は校舎からグラウンドまで声を届かせるくらい余裕でできた。

さっきのお前らと俺との距離は校舎とグラウンド程離れてない。聞こえてるのに、何故無視した?」


「聞こえてねえからだよ」

Aランクの男が声をあげる。


「菜月、凛、俺の声、聞こえてたか?」

暦の指示が飛んだ直後に魔王に突撃していった二人のSランクに問いかける。


「聞こえてたわ。確か、A,B,C,Dの勇者で逃げ道を塞ぐような作戦だったかしら」

暦はその言葉をしっかりと聞き、A,Bの勇者に視線を向ける。


「A,Bって挟んだ先にある凛に聞こえていて、何故お前らには聞こえてないんだろうな?」

幸弥の視線が苛烈なものへとなっていく。


「俺が出した指示には3つの狙いがあった。

一つ目は逃走経路の選択肢を絞ること。

二つ目は強さ未知数の敵に戦力を大量投下して全滅、なんてことを防ぐ為。

そして三つ目。さっきのような攻撃箇所被りを防ぐ為だ」

後半の暦の声は既に怒声の域に達していた。


「俺の指示を無視したお前らは、一人のクラスメイトを殺した。いいか、俺が見捨てたんじゃない。お前らが、殺す状況を作り出したんだ!実行犯は魔王だ!だが、お前らは加害者!共犯者だ!

蓮は、お前らが殺したんだ!」

そこまで言い切って暦は言葉を止めた。


「お前らが、殺したのか」

幸弥の怒りの矛先は既にABランクの勇者に向かっていたから。



これで終わり。そう考えた暦は帰る準備をしようと後ろの光景に背を向ける。


「みなさああああああああん!」

ドン!!!


空から可愛らしい言葉と共に、何かが落ち、地面が揺れた。


恐る恐る暦が後ろを向くと、両手に篭手を嵌めた女子と、その女子の横に倒れる見覚えのある男子がいた。


「菫と、蓮か......?」

その女子と男子に問いかける。


「はい!菫です」

女子は元気に認め、男子は小さく頷いた。


その瞬間、幸弥の表情が笑った。

「蓮、生きてたかお前」

幸弥が近ずき、ヘッドロックをして頭をグリグリする。

幸弥が蓮に対して執着していた理由。

それは、

「良がいなくなってお前もいなくなったら俺は誰を虐めればいいんだ?」

玩具だからだ。


「それにしても菫、どうして蓮が生きてた?」

暦は疑問に思ったことを素直に聞いた。

「暦君があたり君を引っ張りましたよね?あのままでは蓮君が死んでしまうと思いまして、『縮地』で距離を縮めて蓮君を掴み、縮地で森に逃げたんです。」

なるほどな。と暦は納得する。




「よし、お前ら帰るぞ!」

今日は幸弥の怒りが降ることは無かった。

最後の終わり方...なんか下手くそなのでそのうち修正加えたいなと思います。


それと実験のために色々な時間に投稿しますが、許してください...。

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