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関係の悪化

「ねぇ、私達って帰れるのかな?」

それは、朝の食堂で最初に発された言葉であり、今まで誰も考えなかったことでもある。

発したのはDランクの早田 彩香(そうだ あやか)

成績は優秀で頭の回転が非常に早いが、臆病な性格が邪魔をし、自分の案を滅多に口に出さない。

そんな彼女が何故今こんなことを聞いたのか?

佐々木良の姿を3ヶ月も見ていないことに疑問を抱いたのだ。

彼は日本に返されたのか?それとも城のどこかで監禁されているのか?それとも──殺されてしまったのか?

日に日に疑問と不安は大きくなり、今日、全員の意見を聞きたいと食堂で言葉を発したのだ。


そして、その彩香の言葉に返ってくるのは戸惑いを孕んだ空気と、一人からの嘲笑。

全員がその嘲笑している本人に目を向け、一瞬で目を逸らす。


「帰る?日本にか?バカじゃねえの?こんないい世界に来たんだから帰る必要なんかねえじゃねえか」

その本人は幸弥だった。

確かに、実力のある幸弥にとってこの世界は日本より住みやすいだろう。だが、それを誰もが望んでいるはずも無い。

「確かに、帰れるのかな?」

誠が立ち上がり、そう言う。

前回、かなりの重症を負ったはずだが、それを無視して幸弥に歯向かう。

それは、暗に

「もうお前の指示なんて聞かない」

そういった意思を表していた。


幸弥のこめかみに青筋が浮かぶ。

「流石に、楽しいとは言っても家族とか心配だしな」

一人、Aランクの男が立ち上がる。

「私も、妹が心配」

一人、立ち上がる。

立ち上がる。立つ。立つ。立つ──。


立ち上がったのは36人。

座っているのは翔吾、守、幸弥の3人。


「ほぉ、お前ら揃いも揃って俺の実力を忘れたらしいな」

幸弥の体が陽炎の様に揺れる。

それは、幸弥が突っ込んでくる前兆。

一触即発の空気が食堂内に充満する。


幸弥が動く。その数瞬前に、扉が叩かれる。

「お前ら!早く来い!」

その聞き覚えのある声に緊張感が霧散する。


声の正体はラリ。最初からずっと食堂内を見ていた彼は、不穏な空気を察し扉を叩いたのだ。


「命拾いしたな」

幸弥はそう言い残し、早々に食堂を出ていく。


その後、暦達も出ていこうとするが、

「少し待ってくれないか?」

それを誠が止める。


「何?私ら迷宮行って早く強くなりたいんだけど」

朱里が不満げに言い返す。


「いや、みんなに聞きたいことと言いたいことがあるんだ」


「幸弥達抜きで?」

同じくAランクの女子も驚いた表情をしている所から、

ほとんど誠の独断だと暦は判断し、朱里達に声をかけようとする。


女子の問に頷くだけで返した誠は、

「幸弥を、殺さないか?」

とんでもない発言をした。


全員の睨む様な視線が誠に集まる。

「何故そんなことを俺らに聞いた?」

Bランクの男子が声をあげる。

その男子の目には複雑な表情が浮かんでいた。

少なくとも、今の状況を変えたいとは思っているが、殺すまでは踏み込めないといった感じだ。


「みんな思わない?最近の幸弥の行動は酷すぎるって」


「お、思うよ?でも、殺すなんて......」

彩香が殺すことに反対する。


「みんなは優しすぎるよ」

そう言って誠は項垂れる。

「今の幸弥の行動を変えたいというのは共通の思いだと思う。」

誠の後ろからほっそりとした男子──細谷 遥(ほそや はるか)が出てくる。

その遥の言葉に反論の声は上がらず、遥は大きく頷いて話を進める。


「で、幸弥は今、僕達以上の力を持っている。そんな幸弥に、個々の力では対応できない。それで、みんなの力を使って、幸弥を抑えることを考えたんだ。でも、彼は僕達が想像していた以上の力を隠し持っていると思うんだ。そしてその力は僕達が幸弥を今の立場から落とそうとした時に使ってくると思う。

そうなったら抑えることすらできないかもしれない。」

遥の話は、Cランク勇者の中で話し合っていた内容とそこまで違いは無かった。強いて言うなら、幸弥を殺すか蹴落とすかの違いだろう。


「だから何?抑えれないから殺すの!?」

彩香が叫ぶ。殺人という内容がクラスメイトから出てきたことに頭が回って無いようだ。


「殺すしかない。このままじゃ絶対に幸弥の悪ふざけで誰か死ぬ」

復活した誠が必死の形相で彩香に、いやこの場にいる全員に語りかける。


「そんなの......」


「酷いと思うか?あいつが蹴落としても何もしないような大人しいやつだったらよかった。もしくはあんなに強大な力を持っていなければ殺すなんて発想は出てこなかった。

でも、あいつは自分が上に、頂点にいなければ絶対に満足できないやつだ!蹴落とそうとすれば圧倒的な力で俺らを潰そうとする。何もしなければただただ暴力に屈し、下手したら殺されるような恐怖の中で生きていかなきゃいけない!

そんな恐怖に染まった日常を俺は生きたくない!

みんなもそうだろ!自由に、のんびり過ごしたいだろ!?」


食堂が、沈黙に包まれる。


「誠、」

その世界に、暦の声が大きく響く。


「仮に幸弥を殺すとして、誰が殺し、誰が幸弥の位置に就くんだ?」

暦の疑問は至極真っ当なもの。

殺すのであれば誰がそれを行い、誰が次の支配者になるのか。


「幸弥の位置には、誰も就かせない。殺す人は......」

殺人を行うのは誰かまで決めていない。

おおかた、他の誰かがやるだろうとでも考えていたのだろう。


だが、そんなことは暦にとってどうでもよかった。

暦の目標はクラスのカーストトップ、幸弥が鎮座する位置に自身を置くこと。

カーストを崩すという考えの誠達とはそりが合わない。


それは、優香も同じ。

優香の言葉を必ず信じる朱里と、優香に堕落させられた男子も当然反対に回る。

班の大多数が反対に回れば、他の仲間も反対に回るしかない。

結果、Cランク勇者全員が誠の考えに反対する状況が出来上がる。


「そうか、じゃあ俺らはもう行く」

そう一方的に言い放ち、暦達は食堂を出て行こうとする。


「待って、暦君達」

それを彩香が呼び止める。

何を聞かれるか想像がついた暦は

「俺は元の世界に帰るつもりはない」

そう言い切った。

「暦君が帰らないなら私も帰らないな〜」

優香がそれに同乗する。


「そっか......」

そのまま暦たちは食堂から姿を消した。


その後も食堂では話し合いが続いていたが、遅いことにキレたラリが突撃し、やっとこさ悪魔の迷宮へとたどり着いた。


「今日は四層から本格的に始める。それまでは駆け足だ。いいな」

そう言ってラリは走り始める。

その後は、地獄だった。

走りながら出会った敵を瞬殺する。

少しでも止まれば前がの人が見えなくなる。

少しの失敗も許されない緊張感で四層にたどり着いた時にはほとんど全員がバテバテだった。


迷宮の魔物は下に降りれば降りるほど強くなるという謎のシステムがあり、4層から出てくるのはタイガーデーモンほどではないが、初心者狩人からすれば強敵のラビットデーモンなどが出てくるが、素早さに慣れればただの雑魚になり、むしろいい経験値のような感覚で勇者に狩られていった。


そして日が暮れ、王都に帰った時、誠がアルに会わせてくれとラリに頼みこんだ。



「で、勇者殿、俺になんの質問だ?」

夜、夕食後に勇者全員が集められた。当然、幸弥達もだ。


「王様、私達は、元の世界に帰れるのでしょうか?」

朝、議題に一応上がった元の世界への帰還。

それはこの世界の人間。もっと言えば召喚主にしかわからない。そう彼らは結論をだした。

そして、召喚主、アルの言葉は、

「そういえば言っていなかったな。結論から言おう。元の世界に帰ることはおそらく可能だ。」

全員が求める答えに近しいものだった。


「おそらく可能とはどういうことですか?」

だが、言葉は少し違うだけで全く意味の違う言葉になることがある。全員が少し安堵の空気を出した時、彩香だけは言葉に注意していた。


「実のところ、俺にもわからん」

目を細め、彩香を注視するアルが、前言を無駄にする発言をする。

「前回、この世界に呼ばれた勇者は、魔王を倒した後、この世界から忽然といなくなったらしいのだ。昔のことで記録しか残っていない上、目撃者もいない。だから曖昧な答えで返した」


「他に聞きたい事はあるか?」


「良はどこにいるんだ?」

誠が真っ直ぐにアルの目を見つめる。

その視線をアルは受け止める。


「彼には、旅立ってもらった」

何の感情の変化も無く、アルはそう言った。

「何処にだ?」

友達をこちらに断りもなくどこかへやったアルに対して怒りの炎を燃やしているのは明白だった。


「さあ、俺にも良がどこに行ったのかわからない」


「どういうことだ!」

誠の握りしめられた手が白くなる。


「俺は彼を魔王の討伐に参加させるのは酷だろうと判断し、彼を転移させた。突然どこかにとばすと、そこに誰かいたら大変だから、しっかりと誰もいないところに飛ばした」


「それはどこだ?」

聞けばすぐ飛び出して行きそうな雰囲気を誠が帯びている。

それをアルも察したのか、真実を伝える。

「彼には、神代の迷宮(かみよのめいきゅう)最下層に飛んでもらった」

誠、いや全員の目に驚愕が走る。

何故ならその名は、迷宮へ入る前に、ラリから言われた迷宮だったからだ。

『この世界には無数に迷宮があるが、その中で未だかつて誰も攻略したことがない迷宮が一つだけある。それが神代の迷宮。

太古から存在する、今の迷宮の原点のようなものだ。先代の勇者でも攻略はできなかったらしいぜ』

誰も攻略したことのない迷宮の最下層。

それはつまり──

「良を......殺したのか?」


「そこまで俺も確認した訳ではない。が、死んでいる可能性は極めて高いだろう」

誠が血走った目でアルを見上げる。


「てめえぇぇぇ!」

誠が怒りにまかせて突撃しようとする。


「ダメッ」

「落ち着け誠!」

二人のAランク勇者に止められる。


「もうそろそろ、最初の魔王に挑んでもらおうと思っている。

準備をしておけ」

アルはそう言って去っていく。

その背中に、誠が罵声を飛ばすが、見えない壁でもあるかのようにアルは声に反応しなかった。


「最初の魔王か張り合いの無い奴らしかいなかったから丁度いいな」

幸弥が誠を一瞥して部屋を出て行く。








「クレリック王。北のユラシア王国より使者が参りました」

深夜、王室に吉報がもたらされた。


北に現れた魔王ロア討伐完了、と。

私「どうして主人公がこんなに影薄いんだろう?」

チラッ(ありふれた職業で世界最強)

私「あ、主人公一人にしてないからか...」


てことがあったのですが、

こればかりは仕方ないです...。

こういう設定にしちゃったのですから...。



そして、私は結構乱暴な人なんだなと最近痛感しました。

(作中で)何かあったらすぐ暴力に繋げてますからね(低語彙力故のワンパターン)。

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