悪魔の迷宮
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悪魔の迷宮の中は、意外にも明るかった。
その理由は
「松明......?」
壁に一定間隔でつけられた松明だった。
「ああ、迷宮に入ったやつは帰り道に壁のどこかに松明をかけるっていう約束事があるんだ」
リビーによると死亡者を減らす対策の一つらしい。
「よし、ここから班行動だ」
ラリがそう言って班を作る。
Sランク勇者をA,B,C,Dそれぞれにつけた形だ。
Aに翔吾、Bに菜月、Cに凛、Dに幸弥。
そのまま奥へ奥へと進んでいく。
迷宮内は迷路の様に道が別れ、あちこちから獣の唸る声や、悲鳴が聞こえる。
いるだけで精神を蝕まれる場所、それが迷宮だ。
突然、ラリが止まる。その後続も止まる。
どうやら敵と遭遇したらしい。
「A!戦闘体制」
ラリの素早い指示がだされ、Aランク勇者が前に出る。
「魔法組は後衛だ、下がれ」
が、魔法組、杖、ロッドを武器とする者は下げられた。
「魔法組、いつでも魔法を撃てるように準備しておけ」
その指示に後衛全員が目を瞑る。
この世界における魔法とは想像の具現化。
魔法の威力は想像の鮮明さによって上下する。
例えば、火球をだしたいとしよう。
頭の中で野球ボールくらいの大きさの球をイメージする。
それが燃え盛る様にイメージすればそれは物質が燃えている状態、炎をイメージし、そこから球を型どれば、炎だけで構成された理想の火球の形になる。
当然、それだけではダメージはほとんど入らない。
威力をあげるには、熱量、着弾時の効果など様々なことを頭の中で想像する必要がある。
この世界の魔法はバカには扱えない、高度な想像力が必要なのだ。
時間がかかる、頭も使う。それでも使うのは何故か。
想像力が強い者が使えば、どんな敵をも屠る最強の武器になるからだ。
「デーモン五体か。前衛!後ろに行かせるなよ!」
そういうラリは腰の剣を抜かない。
あくまでこれは暦達の訓練だと無言で言ってくる。
デーモンは悪魔の中では最弱。
Aランク勇者なら余裕で捌く。そうラリは確信していた。
前衛の剣持ち、刀持ちが突撃していく。
槍持ちは中衛として周囲に気を配っている。
「剣技『一閃』」
剣持ちの男が訓練で身につけた技能、剣技を放つ。
赤に光る刀身が、光速を超えた速度で振り下ろされる。
反応できずに斬られたデーモンから焦げた臭いが漂う。
その隣、刀を持った男は剣技を使った男を横目で見て抜刀していない刀の柄に手をかける。
横並びのまま突撃してくるデーモンの首に狙いを定め、
「刀技『瞬閃』」
刀が振り抜かれる。
一瞬で最高速に達した剣速は、横並びのデーモンの首を切り裂き、二体を地に転ばす。
残り二体が槍の男へ突撃していくが、
「槍技『二連突き』」
喉と羽を突かれて倒される。
羽を突かれて瀕死になったデーモンにトドメをさすべく、翔吾が近ずいて行く。
その時、デーモンの目がカッと開き、目から漆黒の線が後衛に向けて放たれる。
目を瞑っている後衛はそれに気づかず、魔法を撃つ準備をしている。
ラリがそれに気づき、腰に手を回した直後、
双刃が閃光を弾いた。
それを成したのは菜月だ。
デーモンの目が開いた時、恐るべき脚力で後衛組の真上に跳び、 逆手に持った短刀で閃光を弾いたのだ。
自分よりも危機察知が速かった菜月に、ラリは関心した。
「全体的にいい動きをしていた。が、治、精度上げろ。そして後衛、目を閉じずに魔法を構成しろ。それじゃあいつか死ぬぞ」
いい動きだと評価するも、槍を持っていた男、治と後衛にはキツく叱る。
それは、死と隣り合わせの場所で戦ってきたからこその強い叱責だろう。
そのあとは、敵が出る度にローテーションで戦い、二層に降りた。
二層に降りてすぐ、特異個体と呼ばれる通常種よりも遥かに強い魔物とCランク勇者が激突した。
「自分達の手に負えないと思ったらすぐに引け!」
ラリがそう言って引いていく。
今回遭遇した魔物はタイガーデーモン。
その名の通り虎の姿をした全長5m近くの悪魔だ。
「優、智前衛を頼む」
「「おうよ!」」
「菫、後衛組の護衛」
「はい」
「勝と優香は魔法準備、桜は弓で敵の牽制」
「わかった」
「おっけ〜」
「朱里、俺らは前衛のカバーに入る。優のカバーを頼む」
「了解」
暦の指示によってすぐさま陣形を整えたCランク勇者達に、タイガーデーモンが襲いかかる。
「はぁ!」
初撃は優の唐竹割りだった。
一直線に勇者達に突撃しようとしたタイガーデーモンの横っ腹に技能『怪力』が発動した一撃がぶつかる。
が、タイガーデーモンの皮膚の硬さは異常らしい。
あっさりと剣が弾かれ、続く蹴撃に優の体が吹き飛ばされる。
すぐさま朱里がカバーに入るが、朱里の放つ刺突の悉くをタイガーデーモンは避ける。
一点しか攻撃出来ない槍は、当たれば強力、しかし、その一点に体を入れなければ、何も無いのと同じ。
避けられ、懐に入られた朱里が、声をあげる間も無く突進され、吹き飛ぶ。
「智はそこにいろ!」
暦の指示に追いかけようとしていた智の足が止まる。
桜が矢を放つが、タイガーデーモンの周囲に発生している風が向きを逸らす。
そのままタイガーデーモンは後衛で魔法を準備している勝達の下に突っ込む──直前、
「せぇぇぇい!」
横から入ってきた影が、タイガーデーモンの体を僅かに浮かす。
下を見れば、菫が強烈なアッパーを放ったことが窺える。
そして、宙に浮いた体は、
「こっちに、戻って来い!」
背後より伸びて来た蛇腹剣に足を掴まれ智の目の前まで引き戻される。
「智!やれ!」
目の前に叩き落とされた巨体に智が驚き、動きが止まる。
そして、その停止は、戦場では死と同義。
カパッと開かれた獣姿の悪魔の口から
「ガァァァァァ!!」
特大の咆哮が放たれる。
智と暦の足が竦む。
そして、一瞬で立ち上がったタイガーデーモンの爪が智の服を切り裂く──出血は無い。
智の後ろにはいつの間に来たのか、菫の姿があった。
「二人とも!今のうちです!」
そして菫は後ろ、魔法の準備をしていた勝と優香に合図を送る。
「『赤薔薇』」
「『聖撃』」
二人の魔法のトリガーが引かれ、
世界に想像世界の一端が現れる。
「ガゥルゥァァァ!」
タイガーデーモンから苦悶の声が漏れる。
見れば、タイガーデーモンの体から植物が生えている。
刺々しい緑色の茎と美しい白色の花弁。
薔薇だ。
その薔薇はみるみるうちに花を紅く染め、
タイガーデーモンから生気を抜き始める。
抵抗が弱々しくなるが、それでもなお抗おうとする意思は見える。
そこに、迷宮の宙に光り輝く巨剣が出現し、その剣を標的──薔薇に苦しめられる巨躯へと振り下ろす。
聖撃と呼ばれた一撃は、皮膚の抵抗の一切合切を許さず、タイガーデーモンの体を真っ二つに斬り裂いた。
「お前ら、よくやった!」
即座にラリが飛んできてそう言った。
ラリは何度も飛び込みたかったのを我慢したのだろう。
手から少し血が流れていた。
「暦、いい割り振りといい判断だ。菫、お前も判断力、行動力はすごい。勝と優香も、あれだけの威力の魔法はそうお目にかかれない。その力をもっと伸ばせ。
朱里、もう少し槍の扱い方を覚えろ。さっきの場合は突くよりも払った方が足止めとかに使える。
智、反応を早くな、思考の空白即ち死だ」
いい点とアドバイスを言ってラリはまた進むように先頭のAランク勇者に声をかけていく。
怪我をした朱里と優はリビーの回復魔法によって体内の細胞を活性化させ、治癒中だ。
回復魔法を使っていた時にリビーが零した
本職の様に瞬時に回復っていうのは無理だよアハハ。
という発言からどうやら適正のようなものはこの世界にもあると暦は確信したりしていた。
そして、やはり動物の形をした悪魔と戦闘を繰り返し、三層まで辿り着く。
「今日は、ここらで帰るぞ」
ラリがデーモン三体をBランク勇者が倒し終えた時、そう言った。
みんな、それに素直に従う。
全員、度重なる戦闘と、休まることの無い迷宮の空気に重度の疲労感を感じていたのだ。
それは、Sランク勇者とて同じ。
平穏な空気の中で過ごしていてすぐにこんな殺伐とした空気
適応できるわけが無い。
「いいか、帰り道こそより用心深くなれ。
何回も言うが、気を抜けば死ぬぞ」
冷たい風が全員の頬を撫でる。
ゾッとするような空気の中、一行は撤退を始めた。
「帰りは幸弥達Sランク勇者を前面に出す。戦闘はSランク勇者の力で終わらせろ」
ラリが幸弥だけに今までとは違う笑みを向けた。
それに気づいたのは誰もいない。
「どらぁ!」
横薙ぎに振るわれた剣が真空の刃を生み出し、眼前に広がる20の眼球の光を無くす。
剣技『風刃』。今幸弥が無詠唱で使った技能だ。
帰り道は、幸弥の無双劇だった。
10に渡る数のデーモンを一刀の下に斬り伏せ、
滅多に出てくることの無いタイガーデーモンと共に低層の主と呼ばれる魔物、ウルフデーモンも大上段からの一撃で灰塵と化す。
他のSランク勇者の誰も手を貸さず、一人で道を開いていく様子に、全員の心に幸弥への恐怖が少し戻った。
そして、そのまま迷宮を出て、王都に入る。
それからは、何一つ変わらない日常だった。
飯を食い、体を洗い、布団に入る。
反省会も戦略の一つも何も考えない。
それもそうだろう。
Cランク勇者の中では暦が戦略等をその場で考え、優達はそれに従うだけ、しかも戦闘が終わればラリがアドバイスをくれる。
彼らは何も考えなくてもいいのだ。
ただ、彼らは何も言わなくても一つの可能性を全員が考えていた。
幸弥のカーストは、また元に戻るかもしれない、と。
はい、やっと魔法とやらがでてきました。