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愚者の支配と深夜の密会

いつもより少し長めです。

今回もよろしくお願いします。

「クソッ!あのラリとかいう奴!名前の通りラリってやがる!」

昼食を食べる為に集まった食堂で幸弥がラリに対する不満をぶちまけていた。

「いきなり俺らを叱って、罵って、反抗すれば容赦なく殴られ、あいつは一体何の恨みがあんだ!?」

頭を掻きむしり、発狂するような金切り声で幸弥は誰にともなく叫ぶ。


「クソがッ!」

幸弥がテーブルを蹴りつけ、料理が飛ぶ。


「おい幸弥、やめろ。飯が不味くなる」

Aランクの堺 誠(さかい まこと)が幸弥を注意する。


「ああ?誠の分際でよく俺にそんな口がきけたな」

誠の注意は怒りMAXの幸弥にさらに燃料を足す行為だった。


「誠の分際?そっちこそ幸弥の分際で何言ってるんだよ」

ハハハッと誠は嘲笑う。

「言ったな」

幸弥から発せられる空気が一段階暗くなった。

幸弥の目は、怒りの色を放っていない。

代わりに放っているのはドス黒い光、言うなれば死の色。


幸弥の姿が掻き消える。


「幸弥の分際で?」

次に幸弥の姿が確認できた時、幸弥は誠の背後に回って首を絞めた姿勢だった。


「いつからそんな偉くなったんだお前?」

幸弥から放たれるのは怒気なんかじゃない。

高校生で踏み込んではいけない領域、殺気を放っている。

ここで幸弥が殺気を放てるということは、幸弥は既に地球で一人以上殺しているという証明である。


冗談だと思っている輩が多いのか、誰も止めに入らない。

S,Aランクのやつらはみんな嗤っている。

いつものことだと達観して。


あまりにもあの日常に慣れた結果が、一人の生徒の命を刈り取る──


「お前ら冗談だと思ってるのか?」

直前、暦が声をあげた。

全員の視線が暦に集まる。


「幸弥はおそらく人を殺した経験がある。それは今あびせられている殺気から判断できるだろう。

一度殺した経験があるやつは、二度目の殺人を躊躇わない。

今、誠の首を締めて脅しているという風にとっているやつがいるなら考えを訂正しろ。

実行犯は幸弥かもしれないが共犯者は俺らだぞ」

冷めた瞳に冷めた声でそう暦は言い放った。


「おいおい、マジでお前らどうした?地球じゃずっとモブだったくせに、異世界に来て自分は強くなったとか勘違いでもしたか?

イキってんじゃねえよ雑魚共」

普段話さない暦が大勢相手に話す所を見て、翔吾はイキっていると判断する。

「どうとるかは本人の勝手だが、別に俺はイキってるわけじゃない。ただ、同じグループの人間が死んでもいいのか?というのを警告混じりに言っただけだ」

その翔吾の言葉を、絶対零度を思わせる瞳をもって、暦は返す。


食堂は一触即発の空気に陥り、重苦しい雰囲気が全員の食欲を落としていく。


「お前ら!何している!」

首を絞められた誠の意識が落ちた直後、ラリが食堂の扉を開け放つ。


ラリの視線はすぐさま誠の首を絞める幸弥に向き、

「幸弥、いい加減にしないと訓練で殺すぞ」

特大の殺気を放った。

先程までの幸弥の殺気が子供の怒りのようなチンケなものに思える。


「あ......」

自分よりも強い殺気を直に浴びせられ、幸弥がへなへなと座り込む。


「すまない。食事を続けてくれ」

ラリはそう言って食堂に残った。


その日の昼食は全員監視されている気分で食べることになった。




「よし、じゃあ午後の訓練を始めようか」

リビーが手を叩いてそう言う。


暦は蛇腹剣を持って訓練所の端っこに行こうとして、呼び止められる。

「暦、最初は少しだけ知識を得て欲しい」

「わかった」


Cランク勇者は座学から始まった。


「いいかい?まず、君たちの持つ技能だが、これからの訓練、戦闘でいくらでも増える。そして、技能には精度(レベル)があるんだ。技能の数を増やし、技能の精度を上げる。これが二番目に強くなりやすい方法だ。」

リビーが17人の前で解説を始める。

何故17人なのか。Dランク勇者も混ざっているからだ。

リビーは見捨てておけないのか、Dランク勇者にも手をかけるように午後の訓練からなった。

「教官、じゃあ一番強くなりやすいのはどんな方法なんですか?」

Dランクの上坂 美琴(うえさか みこと)が質問する。


「一番は、種族熟練度(レベル)を上げることだよ」

そう言ったリビーの言葉にみんな首を傾げる。

「あれ、教わってないのかな?この世界には色んな種族がいるんだ。大雑把にわけると獣人族、人族、魔人族、龍族、吸血鬼族、鬼族、影族。で、みんなそれぞれ個性がある。が、これは説明すると長いから興味のある人だけ本で読んでくれ。

体の使い方、力の使い方、その他諸々、その種族にどれだけ馴染んでいるかが種族熟練度なんだよ。

で、○○族という種族に慣れれば慣れる程、強くなれる。それが種族熟練度(レベル)を上げるということなんだ。」

ごめんね、説明が下手くそでとリビーは最後にそう付け加えた。


「つまり、ゲームみたいに敵を倒して経験値を得るって仕組みじゃ無いんだね」

優がそう判断する。


「いいや、敵は倒した方がレベルが種族熟練度が上がりやすいぞ。敵を倒しながら自分の体の使い方に慣れる。それが一番効率がいい強くなる方法だ。しかも、敵は自分より少し強い位の時に一番種族熟練度が上がる。

要するに格上の相手と戦って勝利するのが一番強くなるための効率がいいってことだな」


「じゃあS,Aランクのやつらがやってるのは」


「うん、それを人対人でやっているだけだよ」


(つまりこうしている間にも俺と上位陣との距離はドンドン開いているわけか)

暦は多少の焦りを覚え、立ち上がる。


「じゃあ、今日の話はここまで、訓練を始めようか」

その暦の行動をきっかけに訓練始まった。



(つまり今俺がやっていることは技能習得と精度上げ。

ただ黙々とやっても意味が無い。なんかこの元からある技能で出来ないか?)

暦は自身の技能を思い出しながら考える。


(どう考えても一点集中は刺突向きだ。多分一点に力を集中させて威力を向上させるような能力だろう。

そして命中強化。命中させやすなるってだけだろ。

敵に巻き付けるときには使えるかもしれないが近接戦では無力だな。

怨撃。はっきり言って何もわからない。

怨みを撃つ。怨みを込めて攻撃するという意味か、相手の怨みを撃つということか......。皆目検討がつかない。)


シュッ ガガガガガン!


高速で振られた蛇腹剣が風邪を斬り裂いて壁に衝突する。

壁には一直線に繋げられる裂傷が刻まれた。

(威力はそこそこ)


振り向かれた蛇腹剣が暦の振り上げに一拍遅れてついていく。

暦が今行った動作は袈裟、逆袈裟斬りだ。

剣、刀で行えば一瞬で終わる動作が、蛇腹剣のもつ鞭の性質によって1秒遅れて終了する。

(近接戦闘は絶対的に不利)


次に暦は引っ張るという動きを考える。

鞭のように蛇腹剣をしならせ、全力で壁に振り抜く。


ガガガっガガン!

一箇所に十数の亀裂が奔る。


右腕を引き、蛇腹剣を戻す。


(中距離での戦闘がメインになりそうだな......)


そのあとも色々と暦は試していく。

走りざまに斬りつけたり、藁人形に巻き付かせ、引き裂いたり、

藁人形の体に遠くから巻き付けたり──。


「よし、今日の訓練は終わりだ」

午前の訓練時と同じく幸弥と翔吾が地面に倒れ、凛と菜月が泥まみれ。Sランクはまた同じようなことをしたようだ。


みんながその場に座り込む。

その視線は幸弥に向いていた。

いつも威張りちらす、虐めの主犯。

そんな奴が倒れている。カースト上位陣はこれから起こるであろうことに嗤い、下位の者は恐怖を抱く。

いつもの教師室の光景だ。

ただ、今までと一つ違う点がある。

それは、上位のものも、恐怖を抱いている者がいる点だ。

もしかしたら自分たちも怒りの矛先を向けられるかもしれない。

昼の誠との一件でカースト上位陣にとって今まで盾となっていた者が、恐怖の対象になってしまったのだ。


これに暦は内心ほくそ笑む。

(カースト制度は瓦解する。幸弥が信用できなくなったあいつらには幸弥を下げて別の誰かを上げるしかないが、幸弥程の力をもつのはいない。自然、カースト制度は崩れる。そうなれば今まで幸弥に頼りきりになっていたあいつらは何もできず、カースト底辺にいた俺らが新しい制度を創るのをみていることしかできなくなる)

自分がカーストの頂点に立つ日も近いなと暦は頭を回す。



食堂には、気まずい空気が漂っていた。

発生源は二度も地面とキスさせられ、そのまま気絶させられた男達。幸弥と翔吾だ。


二人の目は不機嫌だと言うように周囲へ睨みをきかせていた。


そんな二人の視線に、D,Cの楽な訓練を受けている勇者の手が止まる。

自分たちだけ楽な訓練で悪いな......。

そう思ってるのが丸わかりだ。


そして16人の手が食事が終わらぬうちに完全停止する。

幸弥は醜い笑みを浮かべると、

「雑魚が、俺より楽な訓練で俺達並に食べるとかおこがましいんだよ」

そう言って幸弥がDランクの一人の男子の飯を取り上げる。


「ほら、お前らも持ってけ、こいつらに食う飯はねえんだ」

圧倒的理不尽。が、それに従うのは守と翔吾しかいなかった。


「あん?お前らどうした?」

他のS,Aランク勇者に幸弥が声をかける。


「俺は......お前の下にはもういない!」

誠が立ち上がり、大声で叫ぶ。

(もう崩れ始めるか)


「そ、そうだ!」

賛同する。

「俺も、お前の下にはもういたくない!」

賛同する。

賛同。賛同。賛同賛同賛同賛同────


「俺たちは、お前らのやり方に反対する!」

誠が口火をきる。


「ほぉ?」

揺らりと幸弥が立ち上がる。

「今まで俺の下で散々好き勝手やってきたくせに、俺がラリの野郎にやられてる所見て自分たちでやろうと?俺を捨てて?」

幸弥の目に、怒り狂う火竜の姿が見えた。


「なあお前ら、」

カースト底辺の暦たちに声が向かう。

「今まで通り、俺がトップにいた方がいいよなぁ?」

威圧するように、怒気を当ててくる。


が、それを無視して、全員が首を横に振る。

「へぇ......」

首を振った全員の目には、A,Bランクの勇者がいれば、なんとかなる。そういった希望の光が見えていた。


「そうか、じゃあ仕方ないな」


轟音が鳴り、ガラスの割れる音が連鎖する。

女子の叫び声と男子の苦悶の声が食堂に響く。


幸弥が、Aランク勇者を吹き飛ばした音だった。

暦の思考がストップする。


「もっかいお前らに恐怖を埋め込まなきゃなぁ」

幸弥の破壊的な暴力に守と翔吾ですら若干引く。


「なあお前ら、俺が上でお前らが下。それに異論はあるか?」

幸弥が笑って問いかける。


その問いかけに全員が首がもげるのでは?というくらい首を振る。


(今までのは中学からの噂による恐怖で支配してきたが、それが崩れかけた今、自身の力を誇示して直接的な恐怖支配に入った。)

動き出した暦の頭が今と昔の状況を比較する。


(ただ、崩れやすくなったのは確かだな)


その後、全員部屋に追いやられた。


「ほんっとに最悪。」

苛立たしげに朱里がそう零す。


「幸弥があのまま大人しく引いてれたば私がトップになれたのによー」

どこからトップになれるという自信が湧いてくるのか知らないが、朱里は幸弥がトップに座っていることに不満らしい。

そして、それはここにいる全員と同じ気持ち。


「ねえ男子、私らと一緒に幸弥を引きずりおろさね?」

朱里がそう問いかける。


暦は変わらず無表情だったが、微かに頷く。

が、それ以外の男子の反応は微妙だった。


「いや、そうしたいのはやまやまなんだけど......」

勝が遠慮気味にそう答える。


「何?怖いって?」

朱里が煽る。


「そりゃあそうだろ。AランクとBランク一人で潰したんだぞ?俺らはC。まともにやって引きずり降ろせるわけがねえ。」

智も反対派。


「ふーん優は?」

優香が訊ねる。


「俺はのってもいいと思う。確かに怖いのは事実だが、彼を降ろさないと僕達も危険だというのも事実。」

優は恐怖に振り回されていない。こんな状況だからこそ、自分がみんなを引っ張らなければという責任感がそれを可能にしている。


「さて、6対2だよ?」

朱里が追い込む。既に勝と智の中では結論が出ていた。が、勇気が足りず、1歩が踏み出せない。


「朱里、もう今日はやめよう。多分二人共混乱してるんだよ」

妖艶な空気を漂わせながら優香が朱里にそう言う。


その後、誰からともなく床に着いた。




その日の深夜、Cランク勇者の三つの布団が、空いていた。

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