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帰還

「さて、ゼドが貴様にどこまで喋り、貴様もどこまで自分を把握したのかは知らんが今のことは忘れろ。

どうせ考えても貴様はここで命を落とす。散る前に未来(さき)のことを考えても意味があるまい。」

始めるぞ。その意志を表してか、男は槍を中段に構えた。


「ハッ、その言葉そっくりそのまま返してやるよ」

剣を肩に乗せ、幸弥が腰を落とす。


「冥土の土産だ。我が名はシド。蔑名ザードだ。」

幸弥が眉間にシワをよせる。


「はぁ!」

瞬間、目にも止まらぬ剛槍が、緊迫した空気を突き破る。

一直線に幸弥の心臓目掛けて放たれた槍を、瞬歩で距離を殺して回避する。

詰めた距離は約2m。生まれた加速は剣を更に重くする。

幸弥の肩口から剣閃が煌めく。


キィン!


甲高い音が鳴り、場が一瞬硬直する。

が、次の瞬間には互いが距離を取っていた。


「勇者、か。確かにそれに値する力はある。

だが、俺はお前を認めん。仲間をただの道具としか見れない奴は絶対に認めない。」

槍の穂先から溢れる闘気が激しく揺れる。

シドの目には溢れ出る程の嫌悪が浮かんでいる。


「一つ条件を出す。次の攻撃を貴様が凌ぎきれば我々は貴様らに何もしない。いや、王国へは帰してやる」

そう言った次の瞬間、シドの姿は闇に消えた。いや、溶けた。


「!!」

その奇妙な現象に幸弥の目が開き、シドを探すことに意識を取られる。

生まれる隙。黒い発光。刹那の隙に起こる現象は絨毯爆撃そのもの。


黒塗りの凶刃が幸弥の上下左右から降り注ぐ。

超人的な反応速度で初撃を交わした幸弥だが、それ以降の間断ない凶器の嵐に無防備に体を晒す。

光沢のある漆黒に呑まれる幸弥の姿をシドは無感情に宙から見ていた。


「流石に、凌ぎきれなかったか」

何も無くなった空間を見つめ、シドはそう言った。


「シド、殺してよかったのか?」

黒衣がはためく。

「それはどういうことだ?」

「いやな、お前とあいつは似たもの同士、というか今のあいつは昔のお前そっくりじゃないか」

それに対して、シドは無言を貫く。


「更生させるのが人生の先輩であるお前の役目だったんじゃ」

ないか?

その言葉が言いきられる前に虚空から刃が現れ──


──シドの首に当たる寸前で止まる。

その剣先は僅かに震えている。


「どうした?今刃を止めなければ、確実に俺を殺せていたぞ?」

冷徹なシドの目が幸弥の戸惑いを孕んだ表情を捉える。


「クソッ、何だってんだ!」

盛大に舌打ちし、幸弥は剣を下ろした。

戦場でするにはあまりにも愚かな行いに飛んでくる攻撃はなかった。


「コウヤ、ダッタネ。キミハイマ、カコヲカサネタネ?」

無機質な声に幸弥の表情が驚きへと染まる。

心当たりがある。いや、心当たりしかなかったのだ。

幸弥がシドへと剣を振り下ろす直前、人の体を突き刺す感触を思い出した。

柔らかく、沈むように入っていく手応えを。

刃先から流れ出す魂の重さを。


黒衣がシドから離れ、人影を形成する。

「コウヤ、さっき俺は頭のネジが数本飛ばされてると言ったが、多分違う。お前が操られ、消されているのは人間性だ。

今ここで聞くけど、コウヤにとって他の勇者は何?」


「俺にとって、他の勇者は、」

Sランクの二人がチラつき、よくいなくなるCランクの顔触れが浮かぶ。

「邪魔者、だ。俺が勇者で他は全員邪魔者だ。

かろうじてSランクの奴らは仲間と認めるが、それ以下は邪魔者だ。」

影の口元がぽかんと開いている。


「そうかそうか。一々イラつかせてくれるな貴様。

もういい。『影の牢獄』解除。『影転移』

もう二度と俺の前に現れるな」


闇の膜が消え、黒い靄が霧散する。

突然溢れる陽光が目を灼く。


かろうじて開いた視界には、大きな城壁が映った。

全員が目の前に突然広がる城壁に目を白黒させる。


門番が走ってくるのにも気づかず、全員が城壁を眺めていた。


パアン!!パアン!!パアン!!

「暦ー!!」

青空の下、激しい炸裂音を鳴らし、朱里が暦の頬を往復ビンタする。

「ん?あ?」

シド達との接触時から目を覚まさなかった暦の目がゆっくりと開かれる。

どこか虚ろな目で暦が目を開く。

急速に回転を始めた頭に軽く痛みを覚えながら、暦は意識を覚醒させる。


「あ、れ?どこだ?」

暦が声を発したことに周囲から少し安堵が漏れる。

「暦、帰ってきたよ!」

そうか、それだけ呟いて暦は口を閉ざした。


「勇者様方、お帰りなさいませ!」

精一杯の歓喜の労いがかけられる。

それに対して、誰一人として笑顔で応じる者はいなかった。

その後の王城への期間中でさえ、誰一人として口を聞かず、国民の声に応じず、死者の行進であるかのごとく静謐な空気を纏っていた。



アルは、異変に気がついた。

無表情で自分の前に出された勇者の数が、33人しかいないことに。

基本的にランクごとに別れて並んでいるため、何ランクの勇者が何人減ったかは一目でわかる。

今までの経験から、最も多くいなくなるのはDランク。

次いで自分の力を過信し過ぎる傾向にあるBランク。

このランクが数人減ったそう思っていたアルは目を見張った。


Sランクが1人、Aランク1人、Bランク1人、Cランク4人。

Sランクが一人欠けるという珍事に特にアルは驚いた。

Sランクとは、まさに英雄、勇者、と呼ばれるに値する能力を持っているのだ。その一人が、欠けた。


失望が生まれる。勇者に対してこれが生まれたのは初めてのことだった。アルは声高になんてことをしてくれたんだ!と叫びたかったが、堪えた。

まず言うべきは、

「御苦労だった。今日はゆっくりと休め」

労いの言葉。


各勇者の部屋へと散らばっていくのを見ながら、

アルは傍に梟の使い魔を呼ぶ。


梟の足に括り付けられている紙を取ると、風と共に梟は飛び去った。


『北の草原にてハウグル族と接触。交戦の有無は確認できず。

草原地帯にて4名の勇者が置き去り。

再度警告。暦は並以上の行動力、判断力、統率力を有す。

Bランク以上の勇者には好意的に映っていない。しかし

D,Cランクだけでも彼が指揮をとれば今より格段に高いレベルの敵を倒せる可能性あり。

朗報。幸弥は神域へと足を踏み込んでいることが確定。

他二人のSランク勇者も高次元で纏まっている。

懸念。Sランク勇者と他ランクの勇者との交流少なめ。

後、崩れる可能性あり』


「やはり、奴らの見張りは梟に任せた方がいいな」

報告書を閉じる。


「誰か、暦を連れて来てくれ」

そう言ってアルは、今までの報告を思い出し、報告書を何度も眺め始めた。

主人公お目覚めです

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