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六・第64回菊花賞

競馬はなんと言っても、最後の直線が最大の見せ場である。最後の直線では、逃げ馬、先行馬、差し馬、追い込み馬。それぞれが一体になって、ゴールを目指す。順位の入れ替わりも激しく、見ているものは一喜一憂する。  


私が追いかけていた『ザッツザプレンティ』には、他馬を瞬時に抜き去る瞬発力はなかった。彼の持っていた大きな長所は先行しての粘り腰。そう、ダービーで差のない3着に入った際の、あの追ってばてない粘り腰こそ、プレンティの最大の長所だと私は感じていた。


 菊花賞は京都3000m外回りのコース。外回りは400m以上もある最後の直線が勝負である。平坦な最終直線は、逃げ馬の逃げを止めないこともあれば、早めに仕掛けすぎれば、その直線の長さのために追い込み勢に一気呵成にやられてしまう。第3コーナーにある上り坂を登ってからの駆け引きが勝負の行方を大きく分けると言われる。


 『4角先頭』。


ザッツザプレンティ騎乗の安勝こと安藤勝己はこう宣言していた。すなわち、最終コーナーをまわった時には先頭に立っているとの狙いだ。


 私も競馬素人ながら、プレンティが勝つにはこれしかないと思っていた。とにかく、後続から追い上げてくる有力馬が牽制しあっているうちに早めに抜け出してそのまま押し切る。これこそがプレンティがネオユニヴァースやゼンノロブロイを負かすための必勝法だと。


しかし、私の脅威はなんと言っても『ゼンノロブロイ』であった。あの神戸新聞杯の圧勝劇を目の当たりにして、ロブロイが負ける姿が想像できなかった。そして、そのロブロイの鞍上は古馬王者『シンボリクリスエス』と同様、「オリビエ・ペリエ」であった事も脅威となっていた。


 クラッシック最終章「菊花賞」であったが、私は残念ながら仕事と重なり、その馬券を購入する事はできなかった。プレンティでの勝負はブルーに任せることにした。とは言え、クラッシック最後の戦いだ。プレンティの勇姿を見たい。


外出先は駅からやや離れた所に位置しており、時間的にも菊花賞を観戦するには、外出先から電気屋に立ち寄ってテレビ観戦するしかなかった。


 一番人気には、2冠馬、

『ネオユニヴァース』


が推されていた。

G1皐月賞1着。

G1日本ダービー1着。

G2神戸新聞杯3着。


ナリタブライアン以来の3冠が期待されていたが、ゼンノロブロイの思わぬ神戸新聞杯での圧勝劇の結果、ほぼ2強とも言えるオッズ差となっていた。もちろん、僅差で2番人気に推されていたのは、


『ゼンノロブロイ』。


G2青葉賞1着。

G1日本ダービー2着。

G2神戸新聞杯1着。


3番人気に、

『サクラプレジデント』。


G1日本ダービー7着。

G2札幌記念1着。

G2神戸新聞杯2着。


4番人気には神戸新聞杯でプレンティに先着した、

『リンカーン』。


オープンすみれS1着。

G1日本ダービー8着。

G2神戸新聞杯4着。


そして、『ザッツザプレンティ』は5番人気。

G1皐月賞8着。

G1日本ダービー3着。

G2神戸新聞杯5着。


単勝オッズは22.2倍と完全に支持を落としていた。この年大きな上がり馬は代頭せず、春の実績馬がひと夏を越えてどれだけ成長を見せたかを試すクラッシック最後の戦いであった。


日曜であるにも関わらず仕事に出ていた私は朝からそわそわしていた。早く終わらせてレースがみたい。あせりながら朝から仕事をこなしていたが、急いでいる時に限ってうまくいかない。それでも、仕事が終わったのはちょうど15時。まだ、出走まで時間がある。慌てて外出先の職場を抜け出し懸命に電気屋を探した。


私は慣れない駅前をひたすら歩き回った。しかし、電気屋らしき店は見つからない。何度も同じ道を右往左往する。時間だけが過ぎていった。時計に目をやる。もう15時35分を回っていた。出走まで後5分。しかし、歩けど歩けど、近くに電気屋が見つからない。気持ちはあせる。プレンティを見たい。ただ、それだけだった。


しかし。


時計は15時40分をすでに回っていた。もう出走してしまっているはずだ。電気屋、電気屋。1秒1秒が早くたっていく。


(ダメだ。電気屋がない。展開は?ハナを奪ったのは?ネオユニはどの位置?ロブロイは??頼むぞ。安勝。)


私はゴクリとつばを呑みこんだ。15時43分になりかけたころ、小さな時計屋からラジオの実況が流れてきた。「勝ったのはホニャララ〜〜」。


(え、何だって、聞こえねー。)


歓声とラジオの雑音が入り乱れる。ワ〜〜。(おい、どうなったんだ。何が勝ったんだ。)   

気になる。どこかテレビはないのか?おい、どこかに・・。そんな中、携帯の着信がなりメールが来た。競馬友達からだ。


「おめでとう!!」


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