五・第51回神戸新聞杯
暑い夏が終わり、少しずつ秋の気配を感じだすと競馬会も秋競馬としてG1レースに向けた前哨戦が始まってくる。そしてこの年、最も私の注目するレースは、3歳クラッシック最終章。
「菊花賞」。
「皐月賞」と「日本ダービー」と「菊花賞」が牡馬に取ってクラッシック3冠ロードと言われる。この年は皐月賞、日本ダービーとも『ネオユニヴァース』が栄冠を掴んでおり、残るタイトルは「菊花賞」一つである。確かにネオユニヴァースは強いが、他の有力馬も差はなかった。もちろんプレンティも然りである。一夏を越してからプレンティがどのくらい成長したのか。初の栄冠を期待しての秋の幕開けであった。
菊花賞へのステップレースは中山競馬場で開催のセントライト記念。阪神競馬場で行われる神戸新聞杯が挙げられる。
この年の第51回神戸新聞杯では、『ゼンノロブロイ』が圧倒的な力を見せつけるのであるが、レース前の主役はこの馬ではなかった。
『サクラプレジデント』。
2冠馬ネオユニヴァースを押さえて1番人気となったのには古馬との初対決での劇走にあった。
3歳馬は秋になると古馬(4歳以上の馬)との対決を迎える。馬体も大人になりかけてくるこの時期。古馬との対決での結果が、この秋以降の力関係を明確に示してくれる。サクラプレジデントは神戸新聞杯の前に、札幌記念に出走していた。札幌記念で、サクラプレジデントは春のクラッシック好走馬の中でも、いち早く古馬と対決を選択した一頭であった。
夏場の調教が難しい中、この札幌の過ごしやすい気候を選び、秋のクラッシックに標準をあわせる馬もこれまでにいた。
『ジャングルポケット』。
2001年、3歳にして年度代表馬となったこの馬はダービー優勝後、菊花賞のステップレースとしてこの札幌記念を選んでいる。ダービー馬の登場で大きく盛り上がったこのレースは同じ3歳馬の『エアエミネム』が制した。ジャングルポケットは3着に破れた。
サクラプレジデントが挑んだ札幌記念であるが、古馬の大きな壁があった。2年前の札幌記念で堂々たる優勝を果たした先に紹介したこの『エアエミネム』である。
エアエミネムは3歳時に最大の上がり馬として、この後、神戸新聞杯も制し菊花賞に向かった。
菊花賞では、3着に終わったものの、ダービー1、2着馬に先着している。更に、この年はダービー馬ジャングルポケットがジャパンカップで優勝し、年度代表馬になった。
札幌記念、菊花賞でエミネムはこのジャングルポケットに2度とも先着していることからも、古馬になってからの活躍が期待された。
翌年は振るわなかったものの、2003年のこの年には、
G2金鯱賞3着。
G3函館記念1着。
ここに来て古馬の風格を備え、完全に本格化してきた。そして、この第39回札幌記念では、堂々の一番人気となった。
サクラプレジデントは、鞍上に武豊を向かえ、エアエミネムに挑んだ。
サクラプレジデントの主な戦績は、
G1朝日杯FS2着。
G2スプリングS2着。
G1皐月賞2着。
G1日本ダービー7着。
私は、ザッツザプレンティを応援する前、このサクラプレジデントを注目していた。朝日杯FSステークスでは、エイシンチャンプと激しくたたきあった2着。そして、皐月賞でもネオユニヴァースと叩きあった2着。この2レースを見ても「強い!」と感じていた。
2着続きでなかなか勝てないこの馬。鞍上に武豊を迎えることで大きな期待を集めた。
私としては、この年の3歳世代がどのくらいのものか、このレースが大きな指標になると思っていた。
この年の3歳世代を応援する意味でも私は勝馬投票券を購入した。馬単でサクラプレジデント、エアエミネム一点。レースは最終直線で先に抜け出したエアエミネムをサクラプレジデントが捉え、激しいたたきあいの結果、エアエミネムを下した。上がり3Fのタイムは33秒7。強い内容だった。
馬の成長、鞍上に天才ジョッキーを迎えたことで、第51回神戸新聞杯はサクラプレジデントが2冠馬ネオユニヴァースを抑えて、1番人気となった。2番人気に皐月賞、日本ダービー二冠馬、
『ネオユニヴァース』。
3番人気にダービー2着馬、
『ゼンノロブロイ』。
そしてダービー3着馬である我らが、
『ザッツザプレンティ』。
が4番人気におされた。鞍上はもちろん安藤勝己である。
当然、私はザッツザプレンティからの馬券を購入した。2冠馬ネオユニヴァース出走も、皐月賞、ダービーでは差のない勝利。果たして菊花賞に向けてどの馬が一番強いのか?1〜3番人気の間のオッズ差は1.5倍内と3強の様相で行われた。
ところが。
ゴールを先頭で駆け抜けたのは3番人気ゼンノロブロイ。
しかし、驚いたのは、2冠馬ネオユニヴァース、そして札幌記念で古馬を撃破したサクラプレジデントを3馬身以上引き離して優勝したことだった。
誰もが唖然とした。
『ゼンノロブロイ』。
この馬が今後大きく飛躍することを予感させる程の圧勝だった。その圧勝劇に誰もが息を呑んだ。『シンボリクリスエス』と同じ藤沢厩舎。藤沢ブランドをひっさげて、秋の主役に名乗りを上げた。
ザッツザプレンティは勝ち馬から5馬身ほど離された5着。惨敗だった。