二・友人ブルーとザッツザプレンティ
さて、私がこの話を書く上で絶対に登場させないといけない人物が一人いる。それこそが、友人ブルーだ。彼は会社の同期であり、研修の時からすぐに仲良くなった。そもそものきっかけは巨人戦のチケットを購入したことからであった。
私がどういう経緯でブルーと最初に会話をしたのかは覚えていない。しかし、お互いに野球経験者で、巨人ファンだ。という事で会話が進んだようだった。そんな中、ブルーと仲良くなったO君から私にも巨人戦のチケットを買いに行くから一緒にどう?との誘いを受けた。
水道橋にある東京ドームに朝早くから買いに行くとのことだ。
同じ寮の3人は寮の1階で待ち合わせをした。
しかし。
私はどっちかと言えば集合には遅れない方である。あくまでも、「おくれない『方』。」だ。そう、たまにやる。
この日私は、早朝早い時間の集合に5分遅れてしまった。
(やばい。でも5分じゃあ問題ないよね。)
勝手に自分に言い聞かせたが集合場所でO君の顔はあきらかにあせっていた。O君は非常に優しい人間だとその時は知らなかったから、
(やっぱ、怒っているよなあ。どうしよう。)
と思いつつも適当に謝りドームへと急いだ。
しかし私の5分遅れはO君の全ての計画を狂わせた。乗るべきだった最初の急行電車に乗り遅れた。みるみる動揺が顔に出るO君。そんな中、ブルーはO君を元気付けていた。私は内心、罪悪感を感じつつも、
「大丈夫。大丈夫だよ。」
と強がって見せた。
しかし、遅れて乗った電車では目標の8時半には間に合いそうもない。私達は「お茶の水」で下車し、タクシーを使ってドームへと急いだ。
九州出身の私はO君がそこまで急ぐ理由がわからなかった。だけど、O君は必死な顔だ。それにしてもそこまで彼を必死にさせる巨人戦のチケットはすごい。私はさすが東京だなあ。と感心しながらもブルーとゆっくりと会話をしていた。富山生まれのブルーはのんびり屋さんなので、まったくあせっているそぶりは見せてなかった。
ようやく到着した東京ドーム。私はその光景を見て唖然とした。8時30分丁度の時間だと言うのに長蛇の列である。O君が必死になって急いでいた理由がようやくわかった。すごく悪いことをした気分となった。ぎりぎりの最後尾に並び。なんとか整理券をゲットし、抽選権を得た。家族の分まで座席を取ろうと頑張った心優しいO君の執念が身を結び、私もブルーもほっと胸を撫で下ろした。
皮肉な事に遅れた私が一番いい席があたってしまった…。さすがに申し訳なく思い、その席はO君に譲った。
さて、そんな感じで私とブルーとO君はすぐに仲良くなった。ただ、O君は配属場所が関西になってしまい2週間限りの同じ寮生活であった。しかし、このときの思い出がお互いに強いのか今でも連絡を取り合っている。
それから私は事あるごとにブルーの寮の部屋に遊びに行く仲になった。
さて、このブルーであるが、彼の心は決してブルーに満たされることはなかったが、彼という人間は、いつも青く研ぎ澄まされていた。その青の青さは上空いっぱいに広がる夏空の青、そして南国に眩く光る海の青さにも負けないほど澄んでいた。
ブルーは本当に好青年であった。私が今まで出会った中でもナンバー1の好青年だと思う。ルックスもよく、そして優しく、おおらかで、ちょっとだけ頑固。その頑固さがまた、彼の良さを際立たせている気がした。私はせっかちな性格であるが、彼はのんびり屋である。その対照的なキャラクターが友好を深めた理由かもしらない。(のんびり屋と言うと否定されるが。)
旅行好きの彼はこの年のGW、ニューヨークに旅行した。餞別を渡した私は、ニューヨークヤンキースの松井秀樹のユニフォームのおみやげを期待した。しかし…。彼が買ってきたのは、はっきりと言って迷惑なものばかり。自由の女神のボールペン。まずそうなジュース。日本でも買えそうなケチャップ。甘そうであまり食の進みそうもないアメリカらしいお菓子。etc。
知り合って数週間しかたってないのに、この仕打ちには苦笑するしかなかった。しかし、彼のこのセンスを見て直感的に彼とは仲良くなれると感じた。野球や競馬が好きな彼とはすぐに仲良くなった。
ちょうど彼と仲良くなりだした頃、競馬界では、この年のクラッシク第一戦、皐月賞の季節となっていた。桜花賞、皐月賞が始まると本格的に春めいてくる。気候の暖かさとともに、ダービーに向けて私の気持ちも高鳴ってくるのだ。関東で始めて過ごしたこの年、皐月賞時も観戦には行かなかったものの、中山競馬場がすごく近くに感じた。
そして、新しい毎日が始まったこの年の牡馬クラッシック第一弾。
「第63回皐月賞」。
私は、馬券を買うために覚えたての経路で東京競馬場へと向かった。川崎市の寮からは、30分ぐらいの距離である。競馬新聞を手に電車の中で予想に頭を巡らしていた。
軸馬を探そうと出走馬を見渡せど、抜けた馬が見当たらないまま混沌としていた。
弥生賞を制した2歳チャンピオン、
『エイシンチャンプ』。
スプリングSを制し4戦3勝の、
『ネオユニヴァース』。
朝日FSで、エイシンチャンプに首差で破れ、スプリングSではネオユニヴァースに次ぐ2着となった、
『サクラプレジデント』。
シンザン記念を制し、鞍上に武豊をようする、
『サイレントディール』。
そして
『ザッツザプレンティ』。
第63回皐月賞は先に挙げた5頭が単勝7倍以内にひしめくという大混戦となっていた。
私は悩みに悩みつつも心の中は決まっていた。そう、ザッツザプレンティだ。ラジオたんば杯での圧勝劇が頭にこびりついていた私は、弥生賞惨敗で人気を落としたこの馬を信じ馬連で馬券を購入した。そして、競馬中継が始まる前に川崎の寮へと帰宅し、その時を待った。
しかし、結果は、直線で抜け出した1番人気、ネオユニヴァースと2番人気サクラプレジデントが直線で叩きあい、結果頭差でデムーロ騎乗のネオユニヴァースが制した。ザッツザプレンティは、勝ち馬から1秒0の差をつけられ8着に敗れた。私の関東での初勝負は見事に完敗となってしまった。
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