二十三・第25回ジャパンカップ
結局は掲示板にさえも乗らなかった惨敗といっていい天皇賞秋であったが、私は一つの兆しを感じていた。それは中団からの競馬をこなしたという事だ。
もちろんスローペースであったために、中団に位置せざるを得なかったところもあるだろう。
けれど、私はこんな位置からハーツは競馬ができるとは思ってなかった。ハーツは意外に器用な馬では?脳裏をかすめた。
しかし、負けは負けである。もしディープインパクトであったら、展開が例えスローであったとしても楽に差しきっていたような気がした。
そう、まだこの地点ではハーツクライがディープインパクトのライバル的存在になれるとは全く思えてなかった。
むしろ2着とは言え、確実に連に絡むゼンノロブロイの底力を改めて感じさせられたのであった。
ハーツ騎乗のルメールはこの後マイルチャンピオンシップで『ダイワメジャー』に騎乗し2着。善戦するも彼もまたG1勝ちの縁に見放されていた。
さて、私はちょうどこの時期転職をしていた。新しい職場は全くこれまでとは違う業務だ。不安と期待の毎日であった。
私は仕事に関して言えば、どこを目指すか。ということが大事だと考えている。今自分がこの仕事をすることがどう将来の自分に役に立つのか?そういう意味ではどういった仕事をするのかというのは重要であった。悩んだ末の決断だった。
とは言え、仕事を変えるということは不安が付きまとう。
そんな中、千葉ロッテマリーンズが優勝し、日本一になったことは大きな勇気をもらった。
昨年までは無名に等しい選手達がバレンタイン監督のもとハツラツとした試合を行っていた。
彼らには決して悲壮感はなく、野球を愛し、そして心から野球を楽しんでいるようなプレーぶりであった。
プレッシャーを楽しむことができたら、それは何よりも大きな武器となるだろう。
名将バレンタイン監督は選手を見事に操り選手達を大きく成長させたのだった。
競馬に話を戻そう。秋初戦を6着と惨敗したハーツクライであるが、彼の花を開かせつことができるとしたら、もちろん鞍上を任せられたルメールでしかなかった。そう、彼こそがハーツクライにおけるバレンタイン監督でしかないのだ。
秋G1第2戦。
『ジャパンカップ』
このレースでルメールはハーツの能力を最大限に引き出すレースを見せてくれたのであった。
ジャパンカップは国際レースである。世界各国から実力馬がやってくる。それと同時に名ジョッキーもやってくる。
「ランフランコ・デットーリ」
世界最高のジョッキーと言っても言いすぎではないだろう。
100%無駄のない完璧な騎乗。
彼を讃える記事は数知れない。日本でも数多くのタイトルを取っていた。
彼は、イギリスの5歳馬『アルカセット』とコンビを組み、このジャパンカップにやってきた。
ディープ世代では『アドマイヤジャパン』が参戦をしてきた。菊花賞でディープ劇場の名助演を演じたあのジャパンだ。
その他、天皇賞秋勝利の、
『ヘブンリーロマンス』。
若干衰えの見え出した、
『タップダンスシチー』。
そしてその他外国招待馬。
そうそうたるメンバーが揃ったジャパンカップとあいなったのだ。
一番人気はやはり現役日本最強馬、
『ゼンノロブロイ』。
けれど、驚いたことに2番人気に支持されたのはデットーリ騎乗のアルカセットでも、タップダンスシチーでもなく、なんとハーツクライであった。
天皇賞が終わり、秋2戦目を迎えたハーツクライは恐ろしいぐらい馬体に迫力を見せていたのだ。
私は東京競馬場にブルーとウルフオーと観戦に行っていた。
豪腕夫妻は自分達が参加すると良い結果が出ないのではないかと気を使ってもらい不参加であった。
私はこのレースでハーツの劇走を期待しながらももう一頭注目していた馬がいた。
『アドマイヤジャパン』
そう、菊花賞2着馬だ。なぜこの馬を注目したかと言うと、現ディープ世代の脇役達が激戦のこのジャパンカップでどのようなレースができるのか?
これによりディープと古馬の力具合を判定できると考えていたからだ。
そして馬券戦術もハーツとロブロイ軸にジャパンと外国招待馬『ウィジャボード』。『サンライズペガサス』、『タップダンスシチー』へ流した。3連単2頭マルチだ。
デットーリ騎乗のアルカセットは3番人気であったため敢えて馬券は外した。外国招待馬の評価はやはり難しい。結果的にはこれが命とりになったわけだが。
そう、先にも述べたが注目すべきはもちろんハーツ。そしてジャパンであった。
私は馬券購入後、展開を頭の中でシュミレーションしていた。
ディープ世代では『ストーミーカフェ』という馬も出馬していた。この馬は先の天皇賞秋でスローペースに持ち込んだ逃げ馬だ。今回は同じ競馬はしないと考えていた。もし、この馬が金星を狙うのであれば、早い逃げを討ち有力馬が牽制しあう隙にするすると逃げ切りを計りたいはずだ。とは言え、ハイペースにしてはその体力は持たない。
タップは年のせいか、その脚力に若干不安を感じていた。
よって、天皇賞秋同様、ストーミーが単騎で逃げ、タップがそれに続く。展開はミドルからややハイペースになるであろう。問題はジャパンである。菊花賞同様、逃げ馬の後ろに控え、虎視眈々と抜け出しを狙うのか。いずれにしろ天皇賞秋のようなスローペースは考えられなかった。
ハーツとしては絶好かもしれない。ハイペースになれば後方待機。そして、直線でスパート。府中の長い直線にそのはじける足を賭ける。
先に行くロブロイをゴール前で捕らえきれるかどうか。
私の胸は高鳴った。ハーツにチャンスあり。
ちょうど2年前、『ザッツザプレンティ』が2着に入りながらも馬券を逃した痛い経験。その借りを返すためにもハーツに頑張ってもらいこのジャパンカップを馬券上でも制したかった。
ブルーもウルフオーもそれぞれに馬券を購入し、その時を待っていた。ブルーももちろんハーツを中心に馬券を購入していた。
晴れ渡る空の下いよいよ第25回ジャパンカップのファンファーレが流れ、各馬がゲートインした。
ゲートイン完了とともに一斉にスタート。飛び出したのはまずは予想どおりストーミーカフェ。しかし、それよりも勢いよく飛び出したのはタップダンスシチーであった。
私は2年前のレースが頭をかすめた。