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二十二・C・ルメール

 菊花賞でディープインパクトはこれまでにないスタートを決めたが、その良すぎるスタートが仇になり、かかってしまった。結果圧勝とは言え、そのディープをその後折り合わせたのは、鞍上の手綱さばきであったと私は思う。


 そう、いかに馬が強くてもジョッキーが違えばその能力をフルに発揮させることはできない。


 よって、やはりジョッキーができるだけ代わらないほうが良いと思う。毎回、毎回、ジョッキーが代わっては、馬の騎手への信頼も失えば、騎手がその馬を完璧に乗りこなすのも難しいであろう。


 ディープにはデビュー戦以来、天才武豊がずっと騎乗している。一方、ハーツは安藤、幸、武豊、横山と乗り変わっている。


 私は、横山が乗るのであれば、もう彼に固定してほしいと願っていた。横山は先の菊花賞でもその技量を示したように関東でも屈指の名ジョッキーある。横山がハーツを完璧に理解したとき、その力は更に爆発すると私は考えていた。


 ところが、ハーツ陣営は鞍上にルメールを迎えるとの発表があった。


 「クリストフ・ルメール」。


 2002年度から短期免許によりJRAで騎乗を始めた26歳のフランスのジョッキーである。


 彼は世界クラスのジョッキーとはまだ言えないが、着実に実績を伸ばしていた。

 

 日本のG1ではまだ勝ち星がなかった。2004年の『ダンスインザムード』では、3歳牝馬にして天皇賞秋2着。『コスモバルク』でジャパンカップ2着。


 2着続きではあるが大舞台でのこの2頭の2着はジョッキーとしての手綱さばきの鋭さをまざまざと見せ付けたレースであった。


 ハートの強い外国人騎手。そして日本で着実に好結果を出してきているこのルメールに私はハーツを賭けてみたく感じた。


 そのハーツも古馬路線では、ロブロイの陰に隠れてはいたが、見違えるような馬体の成長とそしてその風格を備えてきていた。そして秋初戦の天皇賞秋を迎えることになったのだ。


 秋G13連戦は天皇賞秋、ジャパンカップが東京競馬場、有馬記念は中山競馬場である。


 後方に控えて直線に賭けるハーツにとって、G1奪取のチャンスがあるのであれば、東京競馬場で開催される天皇賞秋とジャパンカップだと私は感じていた。


 短い直線とゴール前に急な坂を有する中山競馬場はどうしてもハーツには不利だと考えざるをえなかったからだ。


 そして世界各国から実力馬が集まるジャパンカップよりも天皇賞秋の方がよりチャンスがあると考えていた。


 もちろんライバルはゼンノロブロイである。


 ロブロイは宝塚記念を3着と敗れた後、この馬は英国G1のナショナルSへ初の海外遠征を果たす。


 結果は武豊を鞍上に堂々たる2着。そして日本に戻り二年連続秋G13連勝を目論んでいたのだ。


 しかし。


 天覧試合となったこのレース。優勝し天皇皇后両陛下に深ぶかと敬礼をしたのは『ヘブンリーロマンス』に騎乗していた松永幹夫であった。


 ヘブンリーは札幌記念を勝って臨んだ天皇賞であった。よって力がなかったとは言わない。


 けれど、この波乱を呼んだのはこの馬にとって最高の展開となったスローペースであった。


 スローになれば単純にタイムが遅くなるので、力不足と言える馬にもチャンスは出てくる。


 もちろん、ヘブンリーは力があったといっていい。それは直線早めに抜け出したロブロイを32秒7の足で差しきったからだ。


 2着に入ったロブロイは好位から早めに抜け出す絶好の勝ちパターンを逸したため悔やまれるレースとなったが、我らがハーツにとっては最悪のレース展開であった。

後方待機の弱点はそう、このようなスローで流れるレース展開。スローであれば先行馬が直線でも大きく余力を残す。最終直線。ヨーイドン。これでは後ろにいた馬は単純に考えてもどうしても不利である。


 騎乗したルメールもハーツには初騎乗であったため、陣営の支持通りの競馬をしたことだろう。それでもハーツは中団に位置し競馬をしていた。スローな流れの中、好判断と言っていい。


 それでもスローは痛かった。32秒8の足も順位をわずかに上げただけだった。


 宝塚記念でロブロイに勝って2着したハーツであったが、その存在感を全く見せることなく6着と敗れた天皇賞秋であった。圧勝したディープインパクトとは対照的な秋の滑り出しであった。


 ルメール、ハーツの初コンビはこうしてその初戦を終えたのであった。



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