二十・生還
さて、宝塚記念では過去最高のオッズ馬券を手にした事もありこの夏は私自身も勢いを感じていた。川崎に戻ってきた事もあり、ブルーとつるむ機会も増えていた。そして夏には2年ぶりのダイビングに伊豆へと行くことを決めていた。
とは言え、ライセンス取得時以来のダイビングである。二人ともほとんどその講習内容を忘れていた。
「ねえねえ、なんかさ、潜水するとき、サインあったじゃん。あれ、ブルー覚えている?」
「そんなのあったっけ?」
「…。」
しかし、ブルーはかなりやる気を見せていた。水中撮影用デジカメセットを用意して、海の生物のシャッターチャンスを狙っているとの話しであった。
私は彼ほど熱心でなかったが、今年行かなかったらもう行かなくなる。と思い彼についていくことにした。
最初は伊豆で日帰りとしたが、二回目は泊りがけでのダイビングとしていた。金曜の仕事が終わった後、二人は伊豆へと向かった。
2年ぶりのダイビングであったが、私は一つだけ懸念点があった。それは私の背負っているエアの減り方が異様に早いのだ。久々のダイビングの緊張感で過呼吸になっていたのか、体調が悪かったのが原因か。とにかく嫌な予感を1日目感じていた。
そして2日目。私とブルーとインストラクターは沖までボートで行き、ダイブすることになっていた。
予想外の波の高さにダイブ事態も恐怖感で満たされていたが、前日の懸念どおり私はなにかしらおかしかった。
潜水して10分そこらで私のエアは切れかけた。私はその事をインストラクターに告げるとインストラクターの背負っているエアを一緒に吸うことにした。
私は、インストラクターとともに海中を遊泳していた。しかし、海水は予想以上に冷たく私は寒くてしょうがなかった。
ブルーは完全に2年前の講習を思い出したように優雅に遊泳を楽しみ、写真を取りまくっていた。
私は水中で無邪気に楽しむブルーを目にしながらも寒さのため、もう浮上したいと思い出していた。
丁度予定の時間が過ぎ、三人はゆっくりと浮上を仕掛けた。
その時、上を見ると他の団体が先に浮上していたため、私達はそれを待つことにした。
するとインストラクターのエアもなくなってきた。インストラクターは私に今度はブルーのエアを吸えとの合図をおくった。
私は黙って頷き、ブルーから手渡されたオクトパスに口をいれ、大きくエアを吸い込んだ。
と、その瞬間。私の口に入ってきたのはエアではなく、海水であった。
むせる私。しかし、私はゆっくりと気分を落ち着け、基本どおり一度大きく吐いた後にまた思い切って吸ってみた。
しかし。
またまた、多量の海水が口の中に入ってきた。そこからは冷静を完全に失った。何度も吐いて吸うが、エアは全く入ってこない。海水のみが私の口の中に入ってくる。
(やばい。死ぬ。)
私は上方を見上げた。まだ、団体は浮上中だ。しかし、このままでは確実に死ぬ。
私はブルーのオクトパスを捨て、急浮上を試みた。水上に浮上した私は大きく息を吸い込む。
とりあえず、一命は取り留めた。
しかし、波が荒い。今度は普通に浮いていても海水が口の中に入ってくる。私はボートを見つけ、覚悟を決め一目散にそちらに向けて泳ぎだした。
数分後なんとか、私はボートに到着し、よろけながらもボートの上に這い上がった。
とにかく疲れたが、ほっと息を撫で下ろした。それから数分後、ブルーとインストラクターが、心配そうに慌てて戻ってきた。
「生還おめでとう。」
ブルーの第一声であった。