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十九・1788.4倍

 ダービーでのディープインパクトの衝撃後、力が抜けた私であったが、前半戦の最後を締めくくる古馬によるグランプリ「宝塚記念」をテレビ観戦することにしていた。


このレース、昨年の年度代表馬『ゼンノロブロイ』の参戦。そしてこのロブロイと有馬記念で死闘を演じた『タップダンスシチー』も金鯱賞圧勝後、このレースにコマを進めてきていた。その金鯱賞の圧勝により休み明けのロブロイを押しのけ、タップダンスシチーは、堂々の1番人気を背負った。


 『ハーツクライ』は3番人気となったが、オッズは18.3倍。


 ロブロイとタップの完全な2強対決の様相となっていた。


 しかし、私は大阪杯、天皇賞を見て、ハーツがここに来て大きく成長しているような気がしていた。


 もちろん、ひいき目で見ていた所もあるだろう。


 宝塚記念は阪神2200mのコースだが、中山同様、ゴール前に坂を有する。昨年、中山競馬場でことごとく惨敗していたハーツはその坂を苦手としているのではないか?と私は感じていた。


 中山競馬場と阪神競馬場を比較してみると、直線の距離は40メートルほど中山が長いが、ほぼ同じ直線距離と言ってもいいだろう。


 ゴール前の坂の高低差は5メートルほど阪神の方が小さい。


 ややではあるが、阪神競馬場の方がハーツにとって競馬がしやすいかもしれない。

もう一つハーツにとって中山に比べて阪神での競馬のしやすさは緩やかな第4コーナーであると考えられる。


 中山競馬場は4コーナーが急カーブとなるため、後ろから攻める馬はトップスピードに乗ってしまうと大きく外をまわってしまう。ディープのような次元の違う足がない限り、中山のコースを後ろからまくるのは相当な力を有すると思われるのだ。


 ハーツはそれまでのレースぶりを見ても器用な馬には見えなかった。広い競馬場で、最後の直線に全てを懸ける。


 阪神競馬場がハーツにとって絶好とはいえない。しかし、大阪杯で2着に食い込んでいる結果を見ても決して苦手な競馬場ではないはずだ。昨年の神戸新聞杯でも33秒台の足を見せての3着。しかも昨年までのハーツとは全く違うほどの成長を私は感じていた。私はハーツ初のG1勝利も不可能ではないと考えだしていた。


 後は相手関係である。金鯱賞でのタップの勝ちっぷりは年齢による衰えを感じさせない力であった。


 そして、王者『ゼンノロブロイ』。


 昨年、ハーツが全く相手をしてもらえなかった馬だ。


 タップもロブロイも絡む可能性は高い。しかし、私はロブロイの有馬記念での底力を信じ、ハーツとロブロイから馬券を購入していた。ハーツは人気どおり3着に食い込む自信はあった。タップが昨年の有馬記念のような逃げを打てば、ハイペースは必至だ。追い込みのハーツにもチャンスはある。私はハーツの劇走を信じた。


 しかし、この第46回宝塚記念は意外な結末となってしまった。


 私はもう一頭だけ気になっていた馬がいた。


 それは『スイープトウショウ』という前年の秋華賞馬だ。


 前走の安田記念では僅差の2着。上がりのタイムは34秒フラット。

 

 価値があるのは、牡馬相手にほぼ勝ちに等しい銀メダルを手にしているところだ。


 牝馬は牝馬同士での実績は上位でも牡馬と戦うとその力を発揮できない馬が多数いる。

なので、古馬になり、男馬と戦う上では牡馬実績というのは非常に重要な要素となるのだ。


 スイープはそういう意味では、牝馬らしからぬ風格を備えていた。ハーツと同様、後方から直線で勝負を賭ける馬。秋華賞では、2000mで勝利している。この距離も問題ない。


 私は伏兵として大きく警戒していたため、スイープも馬券に絡めていた。


 馬券で興奮した思い出として、かつての秋華賞で300倍の馬券を取ったときがあった。


 『ティコティコタック』という馬が優勝した時だ。


 その時は、最初はその馬券を購入していることを知らず、後から馬券を見て驚いた記憶がある。


 しかし、このレースではその馬券を遥かに超える勝ちを手にしてしまうことになる。


 レースは意外にもタップではなく、ハーツと同世代の『コスモバルク』がかかりながら、引っ張っていた。


 タップは好位に付けそれを見るかのように、ロブロイ。ハーツは後方から3頭目での競馬となった。


 第4コーナーでトップに立ったタップであるが、いつものような二の足はなかった。ずるずると後退。


 中団からロブロイが上がってこようとしたとき、内から凄い足で先頭に立とうとした馬がいた。『スイープトウショウ』だ。スイープはロブロイと並び、そして、そのまま先頭に立つ。ロブロイは休み明けもあったのか、昨年のような切れる足を出せない。と、その時、後ろから弾む足でスイープに迫ってきた馬がいた。ハーツだ。


 ハーツはロブロイを抜き去り、スイープに迫る。最後の坂、ハーツは並びかけるもそこで止まった。


 2頭は並ぶようにゴールイン。頭差でスイープが制した。


 私はテレビで頭を抱え込んだ。


 「うわ〜、後少し、後少しなのに〜〜。」


 ハーツの敗戦に何度もVTRを見直した。

もう少し早く、もう少し早く仕掛けていたら。


 素人ならではの「たら、れば」だ。


 私は愕然とした表情をしながらも、ふと自分の購入した馬券を見直してみた。


 3着にはロブロイが入ったことにより、スイープ、ハーツ、ロブロイの3連単を取っていた。


 (え、ひょっとしてでかいのでは?)


 慌ててオッズを確認する。1788.4倍である。私は興奮した。


 スイープは11番人気だったのだ。ハーツが負けたからこそ、ついたこのオッズ。複雑な気持ちだったが、まんざら悪い気持ちがしなかった。3連単馬券の凄さを知った。


 ハーツ惜しくも2着も、私にとって過去最高のオッズでの勝利を手にした記念すべき宝塚記念となったのだ。



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