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一.東京競馬場

 …2004年4月18日。友人ブルーと再会した私はその答えを聞いたとき鳥肌がたった。

  

友人ブルーは会社の同期であるが、競馬好きの二人はすぐに仲良くなった。2003年、第70回日本ダービー。二人の劇的な再会の一年前。二人はある馬を応援し始めた。

『ザッツザプレンティ』。

この馬が全ての始まりだった。


 このザッツザプレンティ。デビュー以降、順調に勝ち星を重ね、前年12月に行われたラジオたんば杯2歳ステークスを圧勝した。

 長い冬が終わり、少しずつ春めいてくると競馬界においては3歳馬におけるクラッシックレースに向かい盛り上がってくる。クラッシック出走権をかけての前哨戦が行われるのだ。

その前哨戦、弥生賞でザッツザプレンティは一番人気を背負った。1.5倍の圧倒的な支持率を受け、春の主役に名乗りをあげた。しかし、優勝した前年の二歳チャンピオン『エイシンチャンプ』から0秒3遅れての6着と完敗していた。


 弥生賞を始めとした前哨戦が終わってくるといよいよクラッシックレースの幕開けである。

さて、ちょうどこの年の4月から私は晴れて社会人1年目を迎えた。故郷である九州を離れ、川崎での寮生活が始まったわけだが、関東には学生時代の友人が数人いるもののほとんど知り合いはいない。平日は同期との飲み会が続いた。そしてその合間をぬって関東の知り合いと久々に飲む日々をおくっていた。


 そんなある日の夜。私は新宿で飲んだ後、いつものように京王線で帰宅を急いでいた。 

満員電車にもようやく慣れてきた頃であるが、飲んだ後の満員電車は辛い。酒があまり強くない私は人ごみにまで酔いそうになりながら、ドアの近くに追いやられていた。

(最低だ。ここにいる人たちは何しているんだよ。今日は月曜だぞ。月曜。馬鹿じゃないの。)


 九州出身の私は何もかもにカルチャーショックを受け、この時も一人で内心怒りながらも押し寄せる人波に抵抗できないでいた。

下を向いていると吐きそうになる私は顔を上げ極力窓の外に目をやる。だが、真っ暗で何も見えない。しょうがなく頭をあげてみる。するとふと京王線の路線図が目に入った。

(各駅停車じゃあ、まだまだ先だなあ。ああ、死にそう。早く着いてくれよ。)

下車駅までまだ数駅あることを知って、余計気分が悪くなり無理やり目を逸らそうとしたその瞬間。路線図の中にある文字が見えた。


 「府中競馬正門前」

 

(え、待てよ。これって東京競馬場のことじゃあ?だって、府中って書いてあるよ。)


 関東に来たての私は府中がどこにあるのかすら知らなかった。ただし東京競馬場が東京の府中にあることだけは知っていた。

飲みすぎと満員電車で私の気分は最低だったにも関わらず、私はあっという間にテンションがあがった。


 

(なんだ。なんだ。近いじゃん。すぐ行けるじゃん♪)


 私は酔っている事も忘れて頭の中では競馬のことばかり考え、浮かれながら帰宅の地に着いた。


 そしてその週末、私はすぐに東京競馬場へと足を運んだ。

この日はまだ東京開催が行われていなかったが、競馬新聞を片手に持っている人たちの群集に私も気分良くついて行った。

 競馬場に入場するや否や、綺麗なターフが目の前に映った。


 「ここでダービーが行われるんだ。」


 感動と興奮が心に襲ってくる。この日の天気は快晴。そのターフの緑のあまりの鮮やかさにいったん目を奪われかけたが、すぐに我に返って深呼吸をした。春の心地よい風が私を包んでくれていた。


 私はその風に身を任せ、ターフへと近づく。ちょうどゴールの側に着いた。

(ここで数多くの名勝負が行われたんだよな。)

さまざまな競馬歴史の1ページを回想してみた。シンボリルドルフ、アイネスフウジン、ナリタブライアン、スペシャルウィーク、アドマイヤベガ、ジャングルポケット…。もちろんテレビでしか見たことのない光景だ。過去のレースはだいたいビデオやDVDで見ていた。なので、東京競馬場も知らないわけではない。しかし、生で見る競馬場は全然違う。長い直線に目をやり、そこに勝手に馬を登場させてみた。


 目をとじて、その瞬間を想像してみる。自分の応援している馬が府中の長い直線。ぐんぐん伸びてくる。ゴール前、前を逃げる馬と瞬間並ぶ。先頭が入れ替わったのか。ゴール前絶叫のスタンドも一瞬息を呑む。沈黙に変わる。掲示板には審議のランプ。スクリーンにはゴール前の攻防がスローで再生される。会場はわっと盛り上がる。私の応援した馬に乗っていたジョッキーが不安そうに周回する。と、その時、確定のランプがついた。私が応援した馬が鼻差で捉えていた。大歓声が起こる。勝った馬によるウイニングラン。私はなんとも言えない興奮と感動を得る。ありがとう。本当にありがとう。


 ふと目をあけてみる。目の前に広がるターフの鮮やかはあまりに眩しく、そして柔らかく。これまでの繰り返された激戦を感じさせないものであったが、その対比された感覚は私の心の中で大きな感銘となった。


 「日本ダービー」。


 日本で行われる3歳馬による頂点を決めるレースだ。一生に一度しかチャンスがないこの大レースに思いを向けて、関係者みんなが凌ぎをけずると言っても過言ではない。


 「私と友人ブルーと『ザッツザプレンィ』」。


全てはこの年の日本ダービーが始まりだった。


http://pachi259.blog45.fc2.com/

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