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十八・英雄の英雄による英雄のための日本ダービー(第72回日本ダービー)

 プレンティ引退。


 私の中で1つの時代が終わった気がした。


 「重馬場巧者」。「4角先頭」。「粘り腰」。


 ダービーでの2冠馬ネオユニヴァース、ゼンノロブロイと激闘。菊花賞ではネオユニヴァースの3冠を阻んで見事優勝した。ジャパンカップでは古馬相手に2着。この年の年度代表馬シンボリクリスエスにも先着した。


 感動と興奮をくれた馬。私はただお礼を言うしかなかった。


 『ザッツザプレンティ』。

 

 ありがとう。そしてさようなら。

 彼の主な戦績は、


 G3ラジオたんば杯2歳S1着。

 G2弥生賞6着。

 G1皐月賞8着。

 G1日本ダービー3着

 G2神戸新聞杯5着。

 G1菊花賞1着。

 G1ジャパンカップ2着。

 G2阪神大賞典2着。

 G1天皇賞春16着。

 G2金鯱賞3着。

 (この後ケガのため戦線離脱。)

 オープン大阪―ハンブルクC4着。 

 G1天皇賞春10着。


 私は、プレンティを応援していて1つだけ後悔があった。それは彼が勝った菊花賞での勝利をリアルタイムで見ることができなかったこと。そして、古馬相手に大健闘したジャパンカップで馬券を外したこと。


 プレンティの優勝と2位の喜びの反面、ちょっとした残念な気持ちを今でも持ち続けている。やはり好きな馬が勝ったときは馬券も勝っていたい。それが最大の喜びだからだ。 

 

 その意味ではプレンティに申し訳ない気持ちももっていた。しかし、もはや時は戻ってこない。いつの日かプレンティの子供でこの借りをかえしたい。そう心に決めた。


 プレンティを初めて見たダービーから時は2年の月日が流れていた。


 前年は『キングカメハメハ』がレコードで優勝した。ハーツが2着に食い込んだ。


 そして2005年の日本ダービー。

 

 「英雄の英雄による英雄のための日本ダービー」。

 

 かつてこれほどまでに、1頭の馬に人々が魅了された事があっただろうか。

 英雄と天才の第2幕がここに始まろうとしていた。

 

 狙うは無敗のダービー制覇。

 

 皐月賞ホース『ディープインパクト』。皐月賞圧勝によりすでに時の馬となっていた。


 その背中には天才『武豊』。


 英雄と天才の共演。


 英雄と天才による第72回日本ダービーが幕を開けたのだ。

 私はブルーとウルフオーとこの年の日本ダービーにももちろん参戦した。しかし、今年のダービー注目はただ1点。2着探し。主役は決まっていた。英雄が勝つことは歴史がすでに決めているかのようであった。それでは2着は?私は安藤勝己騎乗の、


 『ローゼンクロイツ』。

 

 そしてブルーは、

 『シックスセンス』。


 そしてウルフオーは、

 『コンゴウリキシオー』。

 

 友人ウルフオーの由来はこのリキシオーから来ている。このウルフオー。このときはまだ彼は競馬素人だった。対抗馬を「コンゴウリキシオー」と考えていた時点で、ダービーでは惨敗の予感が私にはした。


 しかし、ウルフオー。もともと頭のよい彼は経験を積むことで最近では3連単を的中させまくっている。馬券的中能力としてはもう私を超えてしまっているかもしれない。


 そんなウルフオーと私が彼の主食「チキン」で腹ごしらえ後ブルーと合流し、スタンドに出るとその人の多さに圧倒された。


 会場に来ている人全てが天才の手綱さばきによるディープ劇場を観戦するために訪れているような雰囲気で満たされていた。


 マスコミも歴史的名馬の誕生に大きく力をいれて報道していた。


 私は物思いにふけりながら、3度目のダービーを肌で感じていた。


 2年前のダービー…。


 『ザッツザプレンティとゼンノロブロイ、プレンティか、ロブロイか〜。外からネオユニヴァースだ〜〜。』


 そして1年前…。


 『カメハメハが抜け出した。強い、強い。ハーツクライが追い込んでくる。しかし、差は縮まらない。カメハメハだ〜。』


 スタンドを見渡してみる。

 大勢の人が、歴史の1ページを目に焼き付けようとこの東京競馬場に足を運んでいる。

 

 私もその興奮を感じ、鳥肌すら立ちそうであった。

 

 これこそがダービーだ。

 

 英雄と天才によるディープ劇場の幕が今まさに始まろうとしていた。

 

 私の馬券戦術はディープとクロイツからの3連単マルチ流し。

 

 クロイツには安藤勝己が乗っていた。しかし、今回のダービーは馬券が目的ではなかった。


 『ディープインパクト』。


 この馬がどんな勝ち方をするのか?それだけを見に来たと言っても言いすぎはなかった。

 

 後日談となるが、このレースでサンバとゆかいな仲間達の1人である会長は、ディープインパクトの単勝に100万円をつぎこんだ。私は普段多くても1万円程度だ。

 

 はっきり言って、どうかしているとしか言えないが、そのぐらいディープの勝ちをすべての人が信じていた。


 そのオッズ。1.1倍であった。


 伏兵は残りの17頭であった。主役は1頭。残りは全て、主役を際立たせるための脇役に過ぎなかった。


 『シックスセンス』、『アドマイヤジャパン』といった皐月賞上位組。『インティライミ』、『ダンツキッチョウ』といったトライアル組。しかし、彼らは助演男優賞を狙えても今年のディープ劇場で主演を演じるにはあまりにも力の差がありすぎた。そして、それを後押しするかのようなファンの数。


 本馬場入場とともにディープへの声援が響き渡った。

 

 と、その時、一頭の馬が私達の目の前を通り、ペコッと挨拶をしたような気がした。

 『コンゴウリキシオー』であった。私はちらっとウルフオーの方に目をやった。彼は遠い眼差しでリキシオーの方に目をやる。

 

 「やりまっせ〜〜旦那〜〜。」


 「頼んだぞ。リキシオー。ディープに一泡ふかせてくれ。」


 アイコンタクトで2人は囁きあっているようかのようだった。


 馬体重が+12キロの『シックスセンス』を見て、ブルーは慌てて馬券を変更していた。どうやらウルフオーもシックスセンスを絡めていたらしい。二人はシックスセンスをきった馬券を購入した。


 私は今回のダービーだけは馬券はむしろどうでもよかった。


 『ディープインパクト』。

 

 この馬のダービー制覇を見るためだけ。ただそれだけのために足を運んだのであった。


 そして、いよいよ第72回に本ダービーの時間が訪れた。


 ファンファーレがなる。


 しかし、その際の手拍子もいつもとは雰囲気が異なっているかのようだった。


 全てが、1頭の英雄と、1人の天才のためだけにそそがれているようだった。


 私はディープにその視線を注いだ。


 敢えて力を入れて応援する気持ちはなかった。いや、応援するまでもなかった。ただ、ディープ劇場を見るためだけ。この馬のダービー制覇を見るためだけ。無心だったかもしれない。


 そして、時となり18頭がゲートインし、いよいよ劇場が開演した。


 ディープはスタートが得意な馬ではない。この日も後方からの競馬となっていた。武豊の弟である武幸四郎騎乗の『コスモオースティン』がレースを引っ張る形となった。


 「ダービーポジション」。


 その必勝策を忠実に守った昨年のダービー馬『キングカメハメハ』。


 しかし、ディープにとってそんな言葉は必要なかった。


 後方で折り合いをつけ、英雄は天才のゴーサインをずっと待っていた。


 有力所ではインティライミが感じ良く折り合い好位を追走していた。その後に皐月賞3着のアドマイヤジャパンがマークしていた。


 シックスセンスはディープの後ろにいた。ディープは第3コーナーぐらいから少しずつ順位をあげていく。


 楽な手ごたえであがっていった。しかし、天才はまだゴーサインを出さない。


 第4コーナー。まだ後方。


 そして、ゴーサイン。


 英雄は空を飛んだ。いや、皐月賞同様次元を超えた。内で先頭に立った馬がいた。


 『インティライミ』だ。


 しかし、経済コースをついたその走法も府中の坂を上ったあたりが限界だった。


 一気にディープはインティライミをとらえると楽な手ごたえのままゴールに華やかにそして優雅に駆け込んだ。


 33秒4の上がりタイムだった。


 大歓声が起こった。緊張がはじけたような歓声だった。誰もがこの馬のダービー制覇を信じていた。しかし、誰もがその結末を緊張した面持ちで見守っていたのだ。安堵感に包まれた中解き放たれる興奮。それが大歓声となって英雄と天才に注がれた。天才はガッツポーズを小さくするもその表情には余裕すら感じられた。英雄も疲れを全く感じさせないような様子で周回する。


 圧巻のダービーだった。


 昨年のカメハメハと同タイムのレコードタイ。しかし、その衝撃はカメハメハ以上であった。


 遅れて、ゴールしたインティライミ。そして3着には皐月賞2着のシックスセンスが食い込んだ。


 ブルーとウルフオーは最後の最後できったシックスセンスが食い込んだことで残念ながら馬券を的中させることができなかった。


 私の対抗馬ローゼンクロイツは見せ場なく8着に沈んだ。ウルフオー一押しのコンゴウリキシオーは11着であった。


 私自身、3年連続のダービー勝利にはならなかったが、歴史の1ページを目撃でき競馬ファンとして感動を覚えた。この感動を孫にまで語り継ごう。そう心に決めた。


 英雄と天才によるディープ劇場第二章。


 「英雄の英雄による英雄のための日本ダービー」。


かくして幕を閉じたのであった。無敗のダービー馬誕生の瞬間であった。



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