十七・『ザッツザプレンティ』vs.『ハーツクライ』
皐月賞で圧勝した『ディープインパクト』。すでに3冠達成確実の声が囁かれ、秋には古馬『ゼンノロブロイ』との最強対決も期待された。
王者ゼンノロブロイは海外遠征プランが浮上し、宝塚記念後インターナショナルSを目指し、その後秋3冠に挑むとの話となっていた。
天皇賞春はこの年も主役不在となった。そんな中、私にとっては最初で最後の対決を目にすることとなったのだ。
そう、それは『ザッツザプレンティ』と『ハーツクライ』が初めて合間見えることとなるのだ。
前年の宝塚記念後、屈腱炎で戦線離脱していたプレンティがついに戻ってきた。
大阪‐ハンブルクカップで復帰戦を迎えたが4着に敗れていた。59キロを背負っていたため、やむを得ない負けと見ていた。
そして、『天皇賞春』。
いよいよG1の舞台にプレンティが復帰することになったのだ。
私は喜びでいっぱいだった。プレンティをまた見られる。自分の恋人と離れ離れになりそして再会するかような喜びであった。
私は丁度この4月から再び川崎に転勤となっていた。つくばから川崎に戻った途端にプレンティの復活。この馬との何かしらの縁を感じた。
一方の『ハーツクライ』であるが、こちらは4歳になり一皮向けたような成長を見せはじめていた。
前哨戦となる大阪杯で2着に食い込んだ。34秒台の足で追い込んだのだ。そして価値があるのは大阪杯のある阪神競馬場はゴール前に中山同様、坂を有する。このコースで2着まで追い込んだのには、昨年の秋の不甲斐なさを感じさせない新たなハーツの力を感じた。
ダービーでは2着のハーツ、3着のプレンティ。菊花賞では1番人気ながら惨敗のハーツ。5番人気ながら悲願の初タイトルを手にしたプレンティ。
この2頭がG1の舞台で対決する。
私は感無量だった。ゴール前2頭が競り合うシーンを妄想した。今年も主役不在だ。菊花賞馬であるステイヤー「プレンティ」。
京都の平坦な直線ならあの33秒台の豪脚が期待できる成長著しい「ハーツ」。
私は期待に胸を弾ませた。プレンティとハーツ。どちらが強いのだ。
しかし、世間の2頭への評価は冷たかった。
プレンティは7番人気。ハーツは8番人気。
2頭を応援することになったダービー時のプレンティ。皐月賞時のハーツ。この2頭の鞍上には、応援を始めた当時は安藤勝己がいた。
しかし時は過ぎた。2頭の背中に彼はもはやまたがってはいなかった。
第131回天皇賞春。プレンティとハーツの初対決。3分16秒のドラマのフィナーレの舞台にはプレンティもハーツも姿を見せることはなかった。しかし、皮肉にもそのドラマで最終的に主役を演じたのは、この2頭と私とブルーを結びつけた人物であった。
『安藤勝己』。
第131回天皇賞春を制したのは安藤騎乗の伏兵『スズカマンボ』であったのだ。
皮肉な結果であった。
『ザッツザプレンティ』と『ハーツクライ』。
この天皇賞春が、最初で最後の2頭の対決だった。
ハーツは意地だけは見せた。スローな展開にもかかわらず、しっかり折り合い、最後の直線で豪快に追い込んだ。しかし5着入線がやっとだった。
プレンティは沈んだ。早め先行策も往年の粘り腰はもはや存在しなかった。直線ではずるずると後退。最後の直線でハーツにかわされる瞬間。プレンティの時代は終わった。後をハーツに託すかのように、プレンティはゆっくりと後退していった。
このレースを最後にプレンティは引退する。ラストランは10着であった。