十四・新王者ゼンノロブロイ
第65回菊花賞で勝ったのは意外な伏兵馬であった。岩田騎乗の、
『デルタブルース』。
ハーツはそれまで見せてきた豪脚が陰をひそめ、7着の惨敗。続くジャパンカップでは10着。
この古馬初対決のジャパンカップでは、ハーツ世代の皐月賞2着馬『コスモバルク』が昨年のプレンティ同様銀メダル。そして菊花賞馬『デルタブルース』が3着に入ったことから、完全に勢力図が代わってしまった。
バルクとデルタに注目が集まり、我らがハーツクライはその存在感を失いつつあった。天才武豊もジャパンカップ惨敗後ハーツから去っていった。
そして、古馬に目を移すと、クリスエス引退後の戦国古馬路線で、ついに新王者が誕生した。
『ゼンノロブロイ』だ。
クリスエスと同じ藤沢厩舎であり、そして、昨年の神戸新聞杯で恐るべき快勝を果たしたあの馬が鞍上にクリスエス同様、「オリビエ・ペリエ」を迎えることにより、完全な本格化を果たした。
カメハメハが出走できなくなった天皇賞秋を制し、このジャパンカップでも若馬コスモバルク、デルタブルースを難なく跳ね除け3馬身差をつけて圧勝した。新王者の誕生ともいえる圧勝劇だった。無冠の帝王がやっと目覚めた。
ロブロイには大きなツキもあった。それはカメハメハの引退も然りだが、宝塚記念を制し、一足先に新王者に名乗りを上げかけた『タップダンスシチー』が海外参戦を表明していたからだ。世界最高峰の『凱旋門賞』である。
しかし、この凱旋門賞出走に際し、いろんなトラブルが生じ、なんとか出走にこぎつけるもトラブルの影響は避けられず、17着と惨敗する。帰国後も馬のコンディションは最悪なほど落ちていた。万全なロブロイに対してあまりにも対照的な2頭であった。
そして、いよいよこの年のクライマックスとなる『有馬記念』が始まることとなった。
新王者ゼンノロブロイが新たな時代を築くことになるのか。それともタップダンスシチーの巻き返し。バルク、デルタの3歳世代の台頭か。かくしてこの年のグランプリが幕を開けることになったのだ。もちろんハーツクライも参戦を表明していた。