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十二・彼女とパチーノと豪腕夫妻

 ダービーが終わると、競馬熱もちょっと一休みである。もちろん、夏競馬となると来年のクラッシックを目指して若駒達がそれぞれの地でデビューを向かえる。そのレースを注目していき、来年のクラッシック候補を探すのも競馬ならではの楽しみだ。


 しかし、私自身はダービーという日に思いのほか力が入るので、その後は精神的な休養に入り、競馬の馬券購入はほとんどせず、時間があればその若駒達のレース観戦を楽しむ。九州にいた頃は小倉競馬場に足を運びよく観戦していたものだ。


 関東2年目の私はつくばでその夏を過ごしていた。つくばは車社会であり、その広々とした土地柄は人間の心までおおらかにしているのか、都心と比べかなり住み心地の良い町であった。 


 私は社会人1年目こそ川崎の寮に住んでいたが、転勤とともに学生時以来の一人暮らしを始める事になった。川崎と比べて当然物価も安い。私は広めの賃貸のアパートに住んでいた。

つくばに来て数ヶ月。その生活にもだいぶ慣れてきていた。新しい住居もようやく生活用品が揃い様になってきている。私は何気に部屋を見渡すと一部屋が無駄に余っていることにふと気付いた。


 丁度、つくばに来た頃、ある女の子と付き合うこととなり、その子が犬を飼っていた事から私も何かペットを欲しいと思うようになっていた。 


 つくばには「ジョイフルホンダ」。略して「ジョイホン」という有名なホームセンターがある。そこにはペットショップもあり、私は暇つぶしを兼ねて足を運んでみた。


 やはり、犬が一番かわいい。彼女は動物好きで、すごく性格の良い女の子であったので、私も犬を飼えば少しは性格が良くなるかと思い犬を探した。どれもかわいい。しかし、どれも高い。


 犬は諦めた。次に猫を見た。しかし、猫はどうしてもその生意気さが私とダブる。家の中に私が二人いる程、うざいものはない。


 (やっぱ、ペット飼うのは無理だよなあ。)


 諦めかけながら、もう一店舗のペットショップに足を運んでみた。小動物が多数いた。そんな中、ふとある動物に目が止まった。ハムスターだ。


 (おいおい、すっげ〜かわいいじゃん。)

 

 私はそのかわいさ以上にその値段に目を奪われた。700円程度であった。


 (安〜〜。これ、これ、これに決めた。)


 数日後、同僚の後輩を連れてジャンガリアンハムスターの一種である毛艶の真っ白なオパールハムスターを購入した。


 (へへえ♪家族が増えた。)


 「そうだ、名前どうしよう。」


 私は競馬の馬の名前を付けようと最初思ったが、しかしどうもしっくりこない。そんな中、彼女の犬が映画の主人公の名前であった事で、私もハリウッドにちなんだ名前を付けることにした。


 (そうだ、俺の好きなハリウッドスターにしよう。「ブラピか、アルパチーノ」。よし、お前は今日から『パチーノ』だ。)


 「センスない名前だけどかわいいねえ♪」

と、彼女の言葉。。。


 その日から私とパチーノの共存生活がスタートした。


 さて、私は現在ブルーの他に2人の仲の良い友人がいる。「ウルフオー」と「豪腕」だ。ウルフオーも豪腕も会社の同期で、早いうちから仲良くなっていた。誕生日を寮で騒いだり、焼肉を食べに行ったり。かなり仲のよい今私にとって大事な友人達だ。


 ダービーでキングカメハメハが圧勝劇を見せたこの年、豪腕がめでたくも結婚した。私は結婚式の2次会の幹事を頼まれており、彼のためにブルーやウルフオーとともに店を貸しきり2次会を開いた。


 豪腕は真っすぐな人間だった。あまりのストレートな言葉にその場が大変になりかけた事もあったが、決して悪気はなく相手の気持ちをしっかりと考える優しさも多くもっていた。また、その性格はユニークかつおもしろくみんなの人気者でもあった。


 よって、こんな愛らしい豪腕のために、私自身、もっと思い出に残る2次会にしてあげたかったのだが、やや心残りはあった。


 当時、つくばに住んでいた私であるが、そこに地方ローカルテレビ局があった。そこにメールを出して、地元タレントを呼んでもらいドッキリをしかけたいとテレビ局に打診した。


 最初は好感触でテレビ側も乗ってきてくれたが、建物の撮影権等の問題もありかなわなかった。タレントさん達だったら安く契約してあげるとのことだったが、地方の無名タレントが東京に来てもきっとみんなさっぱりわけがわからないだろうと思い、悩んだが断りを入れた。


 次に考えたのが、バレー好きの豪腕に某バレー選手からの祝福のメッセージをもらうこと。会社の関係でオリンピック前、全日本女子代表のある選手達の壮行会に参加できるチャンスを得た。


 関係者にあらかじめ事の次第を伝えていたが、これもオリンピック前ということもあり、快い返事は得ることはできなかった。壮行会に行ったはいいが、私自身が写真を一緒に撮ったりと、はしゃいでしまい、結局帰りの電車の中で、


 「しまった。本来の目的を忘れてしまっていた。」

と悔やむ結果となった。


 サインは禁止という事だったが、隙を見て豪腕夫妻の名前と祝福メッセージとサインをもらうつもりだった。


 結局、私が考えた計画はことごとくうまく行かず、店を貸しきっての普通の2次会となってしまった。ブルーやウルフオーの大きな力にも助けられて、なんとか無事に会を終えることができた。


 私の考えたような二人の心の中にいつまでも思い出として残る2次会にしてあげられなかったのは非常に残念だったが、このように友人のために一生懸命なることの素晴らしさを感じ、またみんなで力を合わせて頑張ることで絆が深められたことが非常にうれしかった。


 さて、この豪腕夫妻と競馬には私とブルーにとって痛い記憶がある。それはザッツザプレンティが菊花賞を制した後に挑んだジャパンカップでのことだ。当時、2人は結婚していなかったが、私とブルーとこの豪腕夫妻の4人で東京競馬場に足を運んだ。私もブルーももちろんプレンティを軸にした。当時は王者『シンボリクリスエス』が古馬路線では一時代を築いていた。


 わたしはプレンティを推していたものの、対抗にはシンボリクリスエスを指名した。ちょうどこの日も馬場状態は重。プレンティには絶好のコンディションだった。しかし、この重馬場をさらに得意とした馬がいたのだ。 


『タップダンスシチー』だ。


 タップは逃げ、先行の脚質である。特に単騎で逃げを打ったときは恐るべき力を発揮する。

この日のレースでもタップは積極的に逃げを打ち、果敢に攻めた。プレンティはその後を追走した。しかし、2頭の差が縮まることはなかった。タップは9馬身もの大差をつけてゴールを駆け抜けた。


 プレンティも王者クリスエスの追撃を3/4馬身凌ぎ、初の古馬対決で堂々の銀メダルと大健闘した。それもあの『シンボリクリスエスに』先着したのだ。


 豪腕夫妻は私とブルーがプレンティを応援していたのを知っていた。レースが終わり、満面笑顔で私達の方を振り返った。その顔には「おめでとう!!」の意味が込められていたのはすぐにわかった。その満面の微笑みに私とブルーは瞬間目をそらした。しばらくの沈黙。 


 そして、


 「え〜、買ってないの。あの馬券??」


 これ程悔しいことはない。自分の応援する馬が連対しているにもかかわらず、馬券を買ってない。馬券界で俗に言われる、


 「『流し忘れ』と『縦目』には気をつけろ。」

というやつだ。


 プレンティから馬券は買った。しかしタップには流していない。これは悔しい。それもあのプレンティが2着に食い込んでいるのに・・・。


 豪腕の言葉がなおさら悔しさを助長させた。ブルーも違う戦術で馬券を購入していたにもかかわらず、的中馬券を射止めることはできていなかった。


 その後、何度か豪腕と一緒に競馬に行ったが彼と行った日に馬券を的中させることはできなかった。最後の方は、彼の方が気をつかって一緒に行くのをためらってくれる程であった。

変なジンクスが出来てしまった。早くこの悪いジンクスを食い止めねば。私の中では彼と競馬に行くといつもその事ばかりが気になった。


 しかし。


 全ては、そして全てのことがあの日につながっていたのかも知れない。


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