魔熊と竜
ギルマスは、地図を出して場所を説明するけど、分かりにくい地図だな。
「大体分かった。行こうか、マナ」
え!これで分かるとか凄い!
ここまで旅してきた訳じゃないから、方向感覚も曖昧だ。
(この街に来る前にギルドが無かった小さな村があったの覚えてる?)
(んー。忘れた)
(その村の北にあるんだけど、母様のいる山からも近いから、そんなのが住み着いたのなら不安だな)
そっか。小さな妹がいるんだもんね。日程調整なんてしないで、すぐに来れば良かった。
日程短縮の為に、スカイに山の中腹まで飛んでもらってゲートを開いた。あとはひたすら登る訳だけど、当然ながら魔物もいる。
「鬱陶しいから威圧使っていくね?私じゃどこまで効くか分からないけど」
「まあ、僕が使ったら肝心の魔熊まで逃げちゃうかもしれないし」
強い気配が近づく感覚。
雪が積もっていて、足を滑らせそうになった。私は、前を歩っていたルビー母さんの背中に飛び乗った。
下半身蜘蛛の母さんなら、雪道で絶対に滑ったりしない。
「あ!にゃーも!」
ユキもルビー母さんの背中に乗った。二人乗った位では、ルビー母さんはびくともしない。
頂上に近い横穴の前に、骨や装備品が散乱している。
穴から巨大な熊が走り出てきた。
魔力糸で動きを止めようとするけど、糸は切られた。
スカイの雷魔法も通じてない。魔法に耐性があるのかもしれない。
マナは小太刀を抜いて、走り出る。振り下ろされる腕の攻撃は、ルードが弾いてくれた。
ルビー母さんの糸は効いているので、そのままジャンプして首をはねた。
これは、並の冒険者では敵わないだろうな。
魔熊を収納庫にしまいながら、思った。みんなの協力無しではこんなにすぐに倒せなかった。
「人の骨は拾った方がいいかしら?」
「うん。お願い」
「にゃーが雪を溶かすにゃ」
地面を暖める魔法か。一瞬燃やされるかと思ってごめん。
「マナ、母様が呼んでいるから、ちょっと行ってくる…マナも来る?」
「いいの?」
「平気だよ。母様も久しぶりにマナを見たいんだと思う」
うーん、でも。
「私達なら平気よ。終わったら亜空間で休んでいるから」
(終わったら、マナの亜空間で休んでる!)
「分かった。ならお願いね!」
(よく来てくれた。神の娘)
「あ、息子さんにお世話になってます」
あ、ちっちゃい竜だ。可愛い!
まるでぬいぐるみみたい。寝てるけど、寝息たててる。
(神気が増しておる。妾の子も眷属として大切にしてもらっているようじゃ)
「あ…ごめんなさい。ルード、眷属になっちゃったから、私と一緒に死んじゃう」
(それでも、妾の子が選んだ道は間違っているとは思えぬ。おぬしはいずれ進化するかもしれんの)
へ?進化?スーパーマン…えー。
全身タイツで空を飛ぶ自分の姿が浮かんで、がっかりしてしまった。
ていうか、人は進化しないってば!
「マナ、何か変な事考えている?」
「ちょっとね…」
いや、ないから。
「あの、炎鳥のスカイが、もっと強くなりたがっているんですけど、いい方法知らないですか?」
(炎鳥とはまた珍しい種族に進化したの。眷属の進化は、主の力にも影響されるから、どうなるかは分からんの。ただ、眷属全体の進化も考えねばならぬか)
「母様、マナはまだ子供です。もし何か代償が必要なら、リスクが大き過ぎます」
(まだ随分小さそうだしの。人の子はすぐに大きくなると思ったが、流石に数年では大人にならぬか)
そりゃ私、まだ8歳だし。
リスクか。何があるか分からないし、怖いな。死ぬような事はないと思うけど、身長が伸びなくなったら嫌すぎる。
眷属にはもう一段階上があるって事かな?
あ、ルビー母さん達が亜空間に入ってきた。戻らないと。
「母様、また改めて来ます」
(うむ。妾で力になれる事があるなら遠慮なく言うのじゃ)
亜空間に入って眷属達を労って、スカイを抱きしめた。
「スカイ、ごめん。強くしてあげるのは難しいと思う」
(マナが謝る事じゃないよ。僕なりに頑張って、マナの役に立てるようになるからね!)
「にゃーも頑張るにゃ」
「役に立っているよ。二人は私のもふもふなんだから」
本当に気にしなくていいのに、スカイはだめかな。




