収穫祭
眷属達とまったりしていたら、寮の部屋のベッドのカーテンが開けられた。
「!やば。戻らないと」
亜空間移動で戻ったのは、寮のトイレの中。逃げ場所をトイレにするとか、私も進歩がない。
昔もよく、休み時間が嫌な時とかトイレに逃げていたっけ。
昼休みは図書室を利用していた。お陰で図書室の本の殆どは読破していた。
「なんや、マナ。トイレに行ってたんか」
「うん?探してたの?」
「夕ご飯の時間だから。マナちゃんが部屋から出たの全然気がつかなかった」
「あたしもだ。さすがに高ランク冒険者は違うな」
「高ランクって…Cランクは高ランクとは呼ばないよ」
「先生いうてたやん。10歳超えてたらマナ、ええとこ行くんちゃうか?」
ちっ…あのオヤジ、余計な事を。大体、個人情報は漏らさないっていうギルドの規則はどうなってるの。
サイクロプスはともかく、ヘルハウンドは見られてたよね。倒す所。でもヘルハウンド自体はそう強くない。群れるのが厄介だけど、Cランクなら倒せる強さだ。
あ、でもパーティー推奨だったかな?でも他のCランク冒険者もいたし、先生もいたよね。
「どうかな?他の子よりは魔物倒しているけど」
「あーあ、マナと一緒に商売できればめっさ儲かるのに、勿体ない」
そりゃあ、新鮮な物をそのままの状態で運べるんだから、儲かるだろうね。おまけに荷物を運ぶ馬車も要らないんだから。
「私は家族と一緒に冒険者するから」
「何人家族なんだ?」
「私入れて5人だよ。母さんとお兄ちゃんと、お姉ちゃんと、弟」
スカイはまだ人化出来ないし、これからも出来るか分からないけど、私より小さいと思いたい。
「お父さんは…って、ごめんなさい」
「いいよ。お空の上だよ」
この表現で合っていると思う。ただし、家族じゃなくて眷属だけど。
本当はユキが一番小さいんだけどな。
「夕ご飯食べに行こうか」
家族の話題はボロが出そうで怖い。スキルの話も厳禁だ。
みんなは少し寝たからか、なかなか寝ない。作物の収穫と種まきしたかったんだけど、無理はしない方がいいよね。
今年はまだ干し芋も干し柿も、樽抜きも作れていない。
秋は毎年収穫祭が行われるらしい。その日は学校も休みで、神様に今年採れた作物を奉納して、教会前の大通りには、屋台も並ぶとか。
常識を知らない私にも丁寧に教えてくれるけど、お祭り位知っているし。
別に仮装はしないし、お菓子も貰えないけど、屋台は楽しみだな。
「しっかし収穫祭も知らんなんて、どこのド田舎やねん」
「そうそう、屋台ではギルドカードでは物は買えないから、お金は下ろしておいた方がいいよ?」
「ありがとう、ポーラ」
でも、たこ焼きもイカ焼きもお好み焼きもないんだよね。寂しいな。
広場前の通りには、どこから湧いて出てきたのかと思う位の人々で賑わっていた。国民の休日扱いみたいな感じになるので、通常のお店は閉まっている。
屋台のメインは串焼き。まあ、妥当な所だ。それと、仮装用のかつら。かつらといっても糸を染色しただけだ。
一番人気はサマルト様の薄紫色のかつらで、色が知られているのが意外だった。
教会前では、何かのパフォーマンスが行われている。
サマルト様を始めとした5人の神々に扮した人たちが、何かやってる。
私はルミナス様とドーバ様にしか会った事ないけど、あんな風にジャラジャラと宝石なんて身につけていなかった。
「ね、あの人達は?」
「サマルト様になっているのが、この辺の領主様だ。その奥方がルミナス様で、他も一族の方達だろう」
「あの髪は?」
「…マナは神々の事も知らないのか。この世界は、主神であるサマルト様を中心に、5人の神々の手によって創られ、守られている。今度教会で詳しい話しを聞かせてもらうといい」
「そこじゃなくて、教会には像が立っているでしょ?姿とか髪の色とか、どうして分かるのかなって」
「教会の伝承だからな。さすがに教会の偉い方でも、神々には会えないだろう」
ま、そりゃそうだ。
大通りの方では、特にパフォーマンスには興味ないのか、串焼き片手にお酒を飲んで楽しんでいる人や、楽しくおしゃべりしている人たちでいっぱいだ。
「なんや、ここにおったんか。領主達見て何がおもろいねん。それよりこれ、買うてきたで」
木のコップに入った、ジュース?
「飲んでみ?」
グレプ味の…え?お酒?
「ふふん。ド田舎には果実酒もないかと思うてな。奢りや」
「確かに飲んだ事はないけど。…お酒って意外と飲みやすいね」
変な所で切ってごめんなさい。これから仕事なので。




