次の実習
美味しいパンが食べたい。
無発酵のパンに、肉を挟んで無理やり口に押し込む。
固い。せめてバターを練り込めばもっと美味しくなるのに。
牛乳もバターも、全く流通していない訳じゃない。ただ、鶏も牛もヤギも魔物なので飼うのが難しく、その分高価になる。
コッコの卵はそれなりに流通している。飼う面積が狭くて済むからかも知れないけど、庶民でも手の届く値段だ。
ソーニャがスマホのスキルを持っていれば、上手くミルクもチーズも売り捌くだろう。
人付き合いが上手くなるスキルがあればいいのに。
ないものねだりをしても仕方ない。マヨネーズの作り方はソーニャに教えたから、上手く広めてくれるだろう。
私の手の届く範囲の人が幸せなら、それでいい。
給食のレベルは低いけど、友人達とどうでもいい話をしながら食べるのは、とても嬉しい。
「そや。今度また泊まりの実習あるやろ。さっき先生に呼ばれて、またマレサと一緒になりそうや」
「また逃げないといいね」
「そうだね。逃げてもろくな事にならない」
「なんや、実感こもってるな。マナ」
そうなんだよね。でも、命を断つ位なら、逃げるのもいいかもしれない。
私は親不幸な子供だった。だけどその時は私の心も精一杯で、他の事は考えられなかった。それも真実だ。
後から冷静に考えると分かるけど、今更後悔しても遅い。
今の幸せだって、様々な偶然が重なった結果だ。
「しかし、何故我々の班ばかりに。確かにマナが強いから肉が食べられない事はなさそうだが」
「他の班の子は携帯食を食べてた所もあったって」
あれか。リモコン位の干し肉と、カチカチの硬いパン。
干し肉はしょっぱ過ぎるから、スープの出汁としては使えるけど、あれを一食分にするなんて、嫌すぎる。
「お嬢様には携帯食なんて食べさせられないとか?」
「それに、前回は北門付近だったが、今回は東門の近くだ。西門よりましだが、魔の森も近い。犠牲者が出てもおかしくない」
「だからマナに守らせるってか?マナも学生やのに、頼るのはおかしいやろ」
「今回は、護衛の冒険者も雇ったそうだ。さすがに教師だけでは限界があるだろう」
「やっぱりDランク冒険者の資格をくれるんだから、甘くはないね。私、乗り切れるかな?」
「東門の方なら依頼で行った事もあるし、大丈夫だよ」
それにポーラは、班のみんな位なら、私一人でも守れる。
本当は自力で強くならないとまずいんだろうけど、戦い方は学校で習っているから、大丈夫だよね。
色んな意味で、今回の実習は不安だな。




