飛翔
夏休みの課題も、やらなければならない。
課題と言っても、紙はそれなりに高い物なので、石板で文字を書く練習だ。言語理解があるので読むだけなら問題ないけど、何かの暗号みたいなこの世界の文字は、書きにくい。
算数は今の所足し算と引き算、お金の計算の仕方だけなので、余裕。
ユキに簡単な罠を作ってもらって、ルビー母さんは今、特訓中だ。スカイは嫌がっていたけど、強制参加。飛べるから必要ないって言ってたけど、上から槍が降ってきたりとか、どんな罠があるか分からない。
あとは難しいマナーの問題だ。目上の人との接し方とか、食事の仕方。
うん。超面倒。最初に会った貴族があれだったから、いい印象なんて持てるはずないし。
ちょっと休憩。広場で寝そべっているルードによじ上ると、ルードが顔を上げた。
(もういいの?マナ)
「あんまり良くないけど、ちょっと休憩」
まだ日差しは暑いけど、亜空間の中よりは健康的でいいかもしれない。
(マナはもう、空を飛べるようになったんだよね?僕と飛ばない?)
(確かにスキルでは覚えたけど…ちょっと怖い)
高い所と、ジェットコースターは苦手だったから。
(マナと空を飛びたいな)
そういえば前にもそんな事言ってたっけ。
(ゆっくりでいいなら…ちょっとだけ)
スキルは使わないと上手くならないしね。
反重力で浮かび上がると、ルードも翼を大きく羽ばたかせて飛び上がった。
(ちょっと待っ…!)
まだ飛翔スキルが発動していなくて、浮いただけだったので、風圧で飛ばされた。
(マナ?ごめん!大丈夫?)
木に引っかかってそんなに飛ばされずに済んだ。
(平気。まだちょっと怖いから、待ってて)
補助魔法の翼と、反重力の魔法の両方を使って、ゆっくりと移動してみる。スカイから高速飛翔のスキルはもらったけど、全く使いこなせていない。
本当に飛べるなら、反重力の魔法は要らないんだけど、切るのは怖い。
(ゆっくり飛ぶから、僕の手で掴んで飛ぶ?)
(私が今移動してる位の速度で飛べる?)
(無理。ていうか飛んでないよね?浮かんでるだけだよね?)
その通りなんだけど、怖いのさ。
意気地無しの私は、木の上まで浮かぶのがやっとだ。ここからなら落ちても立体機動で何とかなるから、怖くない。
(マナ!僕も一緒に飛ぶ!)
スカイが来て、私の周りをくるりと一回りする。
スカイだと風圧が来ないから一緒に飛べるけど、下でルードが苛ついている。
一番やきもち焼きで、子供なのはルードかもしれない。
一番年下なのにユキは甘えっ子ではあるけど、そんなにやきもち焼きじゃない。
仕方ないので、反重力を切って飛翔を使う。うん。ちょっとは飛べる。
(マナ、飛べた?)
(うん。何とか)
ルードが羽ばたく。風圧に負けそうになる私をルードが掴んだ。スカイは飛ばされている。
前にルードのお母さんに掴まれて飛んだ時よりは怖くない。ルードだからかな?
そのまま魔の森をくるりと一回りして、中心にある大きな木を見る。
ルードは凄く楽しそうだ。
(あれは、黒竜さんの所にあった木?)
(そう。世界樹だよ。師匠はあの木を守る役目も担っているんだ)
へえ。お話だと、世界樹のある所に住んでいるのはエルフが多いけど。
魔の森は本当に大きいんだな。中心にいても果てが見えない。
やっぱり中心に向かって魔素が濃くなっていくみたいだ。
だから強い魔物が多いんだろうな。
ルードに掴まれてもいいけど、自分の力で自由に飛んでみたい。飛翔訓練、頑張ろう。
(楽しい?マナ)
(うん。今度は自分の力で飛びたい。スカイも一緒に)
ちょっとムッとしてるけど、スカイだって私の大切な眷族なんだから。
(一応仲間だと思っているけど、たまにはこうしてマナを独占したいな)
嬉しいけど、どこまで主大好きなんだか。




