マナの怪我
タケノコフロアの中心に、池が出来ていた。
看破 ニガリ ミネラルを多量に含んだ水
やった!にがりだ!これで豆腐が作れる!
マナは喜んで手持ちの容器ににがりを汲む。
「スカイ?これは普通の水じゃないから飲みすぎるとおなか壊しちゃうよ」
(そうなの?マナが喜んでいるから、美味しいかと思った)
「ふふふ。料理に使うんだよ。今の季節なら冷やっこが美味しいから、あとでね」
これで冬のお鍋も楽しみになった。やっぱり鍋には豆腐がないとね!
沢山汲んで、池の脇にある階段を降りた。
16階層は、オーガか。錆びてるけど、斧を持った奴もいる。
地上のオーガよりも強い気がしたから調べてみたら、オーガソルジャーだった。
このダンジョンは、湖ダンジョンよりも強いかもしれない。
そういえば、湖ダンジョンもクリアがまだだったよ。
変な貴族に絡まれてから、ちょっと行く気がしなかったんだよね。
一体だけ、頭の角が短いのがいた。他のオーガよりも小柄だけど、強い!
看破 オーガクイーン オーガの進化系だが、レア種
むう。食べ物以外のレアは嬉しくないのに。
魔力糸をブチッと引きちぎられて、慌てて体制を整える。
うっかり上げた右腕に、クイーンの斧が当たる。
「…あ」
手首から先が、皮一枚を残して垂れ下がった。むちゃくちゃ痛い。
いち早く気が付いたルードが、ホーリーを放つ。
そして眷族達の強い殺気。
私はとりあえずピュアをかけて傷口を消毒して、垂れ下がった手首を元のように押し当てる。と、見る間に傷が塞がって、腕は完全に元通りになった。
みんな警戒しつつも集まってくるけど、斬られた腕を振って見せたら、安心したようだ。
「ちょっと油断した。もう大丈夫」
魔物よりも、自分が怖い。骨まで断ち切られていたのに、一瞬で治るとか、私って本当に人間?魔物じゃないよね?…サマルト様のおかげだよね?
「ダンジョンを出よう、マナ」
「平気。オーガソルジャーに遅れは取らないよ」
例えまたクイーンが出たとしても、今度は怪我したりしない。
ドロップした角を拾って、大きく息を吐く。
「階段探そう?ルード」
傷は塞がったけど、血は沢山出たから、少々貧血気味。
当然だよね。動脈も切れたんだから。私の血はちゃんと赤かった。だから大丈夫。
ルードが左手で私を抱き上げる。そして癒しの聖域を発動する。
パスの強く繋がった眷族達には誤魔化しはきかない。ルードは剣と蹴りで器用に危なげなく戦っていた。
17階層を有効化して、今日は終わりにする事にした。
その頃には血も再生したのか、貧血もなくなっていた。
でもルードが亜空間に入っても、離してくれない。
ユキもスカイも、いつも以上にくっついている。ルビー母さんは、手早く炒飯を作っている。
「ルード?私はもう、大丈夫だよ?」
「分かってる…ただちょっと、自分でも驚く位に動揺してて。…戦いで冷静さを失うなんて、初めてだったから」
「私も油断してたんだよ。魔力糸を引きちぎられて」
「祝福だって、あげてたはずなのに。一番近くにいたのに、自分の方の戦いに集中してて、…マナは強いから、余計に油断してた」
「本当に、ルードがやってなかったら私が殺ってたわ」
炒飯のお皿を並べながら、ルビー母さんも動揺を隠せない。
(マナが怪我する位なら、僕が怪我した方がましだよ!)
「だからって、私の為に命懸けるのはなしだよ?…あんな思いは、二度としたくない」
「ごめんなさいにゃ、マニャ」
「マナに悲しい思いはさせたくない。マナの為にも、母さんはもっと強くなるわ」
「僕も…強くなる。マナにもう、怪我させたりしない。マナを守っても僕も怪我したりしないように」
「あはは。ルードがこれ以上に強くなったら、私は絶対に追いつけないじゃない」
本当に私には、過ぎた眷族達だ。
「炒飯、冷めないうちに食べよう?」
結局抱っこされたまま炒飯を食べる羽目になったけど、今日は仕方ない。子供扱いじゃなくて、私が心配かけちゃったんだから。
そしてそのあと動揺していた気持ちも、眷族達に不安を与えてしまった。
私も強くなる。大切な眷族達の為にも。




