美味しいダンジョン
赤豆ダンジョン、ではなくホルアスのダンジョンにやって来た。
ギルドでカードを提示して、ダンジョンの本を読ませてもらう。
ここは食べ物が多くドロップするようだ。
宝箱の中身も食べ物が多いらしく、冒険者にとっては不人気。けどマナにとってはすごく嬉しいダンジョンだ。
その割に冒険者の数が多いのは、およそ1%の確率で現れる希少種を、高額で買い取って貰えるから。
それが凄く美味しいらしくて、貴族の間で高額取引されるらしいけど、私は絶対売らない。
(ちょっとルード、マナをこんな所に連れてきたら、ここに住むなんて言いだしかねないんだけど?)
(それはない…と思いたい)
(マナが幸せならいいんじゃないかな?)
(スカイにしてはいいこと言うにゃ。にゃーはマニャがいる所ならどこでもいいにゃ)
(そうだけど!家も心配なの!)
(とりあえずマナの人形もあるし)
(あの状態のマナが分体に気を配っていると思うの?!)
きっと頭の中は食べ物の事でいっぱいだろう。実に幸せそうだ。
全く。全部聞こえているんだからね?そもそも私は美食家でも何でもない。ただ、前の世界と違ってここは、お金さえ払えば何でも食べられる訳じゃない。それに、みんなが喜んで食べてくれるから。
そう…きっかけはそれだった。少ない種類の食材で、ルビー母さんにも野菜を食べてほしくて。生肉ばかりだったルビー母さんやスカイにも、料理を知って欲しかった。
魔物肉が美味しいのも認めるけどさ。
前世の私はそんなに食に拘ってなかった。それは、苦労して手に入れた訳じゃないからかもしれない。
農業とは言えない程簡単だけど、自分で育てた野菜、釣った魚。肉に至っては、命がけだ。だからこそ余計に食べる事に貪欲になるのかもしれない。
「ダンジョン、行こうか?」
本を閉じて立ち上がる。攻略法なんて自分で見つければいいのさ。
早速一階層に入ると、白い鶏が沢山いた。
看破 ビッグコッコ レグホン種 一般的なビッグコッコ
鳥肉といえば鶏だけど、今まで食べてきたのは違う。そしてダンジョンだから、ドロップは一部。何も出なかったり、トサカの大きな雄鶏を殺った筈なのに、ドロップ品が卵だったり。
他の冒険者はどうして積極的に狩ろうとしないのかな?そう強い攻撃ではないとはいえ蹴爪で蹴られたら痛いし、つつかれても地味に痛いのに。
っと、目の前で鶏がポップしたけど、羽根が茶色い。
途端、冒険者達が目の色を変えるけど、なるほど、希少種狙いか。
看破 ビッグコッコ ヒナイドリ種 脂の乗ったジューシーなコッコ
え、比内鶏って天然記念物の?比内地鶏じゃなくて?…その前に産地偽装?
「どうしたの?マナ。レア種が狩れて良かったじゃん?」
目の前には、血抜き、羽根処理済みの鶏の肉が、丸々一羽分。
慌てて拾って収納庫に入れる。周囲からは落胆の声。
私の今の運は一万を大きく超えているからね。運も実力のうちなのさ。
うん。サクサク進もう。次の階層は残念ながら食べ物じゃなかったので、最短ルートで階段を目指した。
次の階層はグリーンヴァイパー。一応食べられるけど、体が細いから、期待は出来ないかな?お酒のつまみには最高らしいけど、みんな飲まないし。
蛇皮は素材になるから集めておこう。
もしかして、食べられる物と交互に食べられないものが出てくるのかな?
目の前のウルフを狩りながら、思った。食べられない事はないけど、肉が固い。
ドロップアイテムも皮だしね。
次の5階層で、やっと赤豆が出て来た。豆を飛ばして攻撃してくるので、収穫はルビー母さんの蜘蛛の糸に任せた。
その他にも蔓の鞭が飛んでくるので切り飛ばした…でもこの葉の形はどこかで見た事がある。土魔法で穴を掘ったら、やっぱり自然薯が出て来た。
「何?それも食べられるの?」
「うん!後でとろろご飯作ってあげるね!」
その他に漬物に天ぷらに…えへへ。
豆より芋なのか。ちょっと複雑な気分のルードだったけど、芋掘りも手伝った。
マナが喜ぶ事なら何でもしてあげたい。眷族にとって一番大事なのは、主の笑顔だ。
芋掘りがメインになってしまったけど、次の階層だけ有効化して、その日はダンジョンを出た。
比内鶏は、から揚げにした。考えた末に、味付けは塩のみで。頬張ると、口いっぱいにジューシーな肉汁が広がって、言葉も出ない。素材がいいから、余計な味付けは要らないと思って正解だった。
レグホンの方は、普通に味を付けた。生姜がいい味出してる。
山盛りに作ったから揚げだったけど、あっというまに綺麗になくなった。
寝る前に自然薯の皮むきをして、明日の味噌汁の具材を作っておく。ぬめりがあってするのが大変だったけど、ルビー母さんにも手伝ってもらってとろろを用意した。
明日に備えて今日は早く寝よう。




