レベリング
討伐依頼を受けて、魔の森近くまで来た。内容は、ウォーターバッファローの間引き。Cランクの依頼だ。他にも受けている冒険者がいて、大八車みたいなのを、テイムしたオーガに引かせている。
ウォーターバッファローは、肉もおいしいし、皮も素材として売れる。けど繁殖力が強くて、素早いし力もあるから、普通の人だと向かって来られたら車に跳ね飛ばされた位の衝撃を受ける。
草食なので食べられる事はないけど、注意が必要な魔物だ。
他の人にテイムされた魔物を見るのは初めてだったから、邪魔にならないように木に登って観察する。
へえ。あのオーガは剣を扱えるんだ。
そしてオーガだから、力も強い。でもああして一匹を狙うのは悪手なんだよね。ウォーターバッファローは仲間意識が高いから、一匹の悲鳴を聞くと、集団で襲ってくる。だから致命傷を与えたら、一旦逃げて、怒った魔物が散るまで待たなきゃならない。
うん。あの人はよく分かっている。でも魔物を倒すのをオーガ君に任せっきりなのはどうかと思うな。
倒したウォーターバッファローを大八車に括り付けて、オーガ君が引いていく。
マナは、木からひらりと飛び降りて、マナドレインで五匹程意識を刈り取る。
一撃必殺で魔力糸を使って首を落とす。仲間が気がつく気配はない。ウォーターバッファローは、目が悪いのだ。
木魔法でつるしあげて血抜きをして、二匹は眷族達のお土産にする。
そういえば、卒業出来ればDランクって言ってたけど、みんなにこの辺の魔物が狩れるとも思えない。ジーナは技術はありそうだけど、レベルが足りていない。
甘いと思うかもしれないけど、私と友達になってくれたみんなには、死んでほしくない。
ここらでちょっと、レベリングをしてみよう。
みんなに、魔物討伐の話をした。前日にちょっとした仕掛けもしたので、今日なら魔物も集まっているはずだ。
「Fランクでも、ゴブリン討伐ならできるし、レベルアップもできるから、行ってみない?」
「私、魔物討伐の経験殆どないけど、大丈夫かな?」
「何かあっても私がいる。それよりレベルの低いままDランクになっちゃう方が怖い」
「分かった。行こう。技術も大切だが、経験も大切だ」
「うちも!ポーラもな」
「う、うん…」
マナ達は、門から出て街道を外れる。
仕掛けは順調に働いているようだ。
「じゃあ、やろうか?」
「こ!この数をか?」
「む…無理やわ」
「大丈夫。ちょっと待ってて」
マナは、槍を出してゴブリンの足を砕いてまわる。それ以外の魔物も、瀕死にしていく。
「ほら、早く!」
引きつった顔をしながらも、とどめをさしてまわる。レベルアップ酔いにかかりながらも健闘した。
見た感じだと、ポーラが一番弱いかな?
そうしておいて、腐らせたゴブリンの死体を火魔法で証拠隠滅する。
「大丈夫?」
「あかん。吐き気がするわ」
「うう…マナちゃんは平気なの?」
そっか…レベルアップ酔いだけじゃなくて、大量の魔物の死体も怖いのか。
マナは討伐部位の右耳を切り取って集める。
「えー!貰えないよ!だって私達は、ただとどめを刺しただけだよ?」
「そもそも、いくらゴブリンとはいえここまで集まるものか?」
「魔石も取る?」
「マナ?何か隠しとるやろ」
「本当はこういうやり方は良くないけど、みんなには生き残ってほしいから」
「無茶しないでよ。マナちゃん」
「平気。さて、ゴブリンは焼いちゃおうか」
「けどこの量は…さすがに油でもないと」
「大丈夫!私とソーニャで頑張れば」
ちまちまと弱い火魔法で焼いていくのも面倒だけど、1,2割増しのファイアーボールで焼いていく。
「マナ?そろそろ吐いてもらおうか?」
「えー…何を?」
「まずは火魔法。もっと上の使えるんちゃう?」
「それは…魔力の節約の為だよ」
「一番大事なのは、ゴブリンとはいえここまでの数が集まるなど滅多にない。なのにマナはまるで知っているみたいだった」
「あの腐ったゴブリンは、罠?」
「危険だ!それにあたし達は、友達だろう?強くしてあげたいというマナの気持ちは嬉しいが、こんなマナばかりに負担がかかるようなやり方を頼んだ覚えはない!これでは我々はマナのお荷物ではないか」
「ごめんなさい…」
「マナから見ればうちらは頼りないように見えるかもしれんが、うちらかて何もできへん子供ちゃうでな」
「みんなマナちゃんを心配したんだよ?反省、してくれるよね?」
これ位は私には本当に何でもないけど、無茶に見えるか。瀕死で留めるのは、殺すより難しい。みんながそれに気がついているかは分からないけど、確かにあの数に一人で向かっていくのは常識外れだったな。




