マナの常識
出来た! ポーラは、できたての花の形のブローチに、祈りを込める。……どうか、マナちゃんの人見知りが直りますように。
「マナちゃん?」
カーテンを開けるけど、姿はない。確かもう、寝たと思ったけど、トイレでも行ったのかもしれない。
もう夜も遅いし、明日でもいいだろう。
ポーラは下のベッドに寝ているソーニャを起こさないようにそっとベッドに潜り込んだ。
だから、そのあとにそっと顔を出したマナの事を知らない。
どうしよう?トイレにもゲートを開いておく必要があるかもしれない。
今日はこのまま寝よう。咄嗟に出られないなら、見張りも役に立たない。
いつものように10分前には目を覚ませるようにアラームの魔法をかけて、目を閉じた。
今日は、魔法の勉強だ。
「…とまあ、これが物理障壁だ。残念ながら先生は物理障壁しか使えない。魔力障壁は…マナ、できるか?」
「いえ…どんな物ですか?」
「魔法に対して威力を発揮する術者を守る壁だ。さすがにマナでも出来ないか」
「それって結界魔法とどう違うんですか?」
「は?…結界魔法、使えるのか?」
「はい。結界魔法は物理も魔法も関係ないですよね?何か違うんですか?」
「あぁ…本当に世間知らずだな。結界魔法は、物理障壁と魔法障壁が合わさった物だ。つまり両方が使えないと通常は覚える事が出来ない。生まれつき持ってる奴は稀だ」
そんなの知らないって。魔法は全部とっただけだし。
「まあいい。いい手本になるから、前に出て結界魔法を使ってみろ」
ちょっと恥ずかしいけど、お守りももらったし、やるか。
「う、なんだこの障壁の厚さは?」
そういえば私の結界魔法は、ルビー母さんの障壁の強さを取り込んでいるから、通常より硬いんだった。
「あー…あまり手本にはならないかもしれんな…他に魔法障壁と結界魔法を使える奴はいるか?」
魔法障壁を使える子はいた。
そうか…普通はその二つを極めないと使えないのか…知らなかった。
「まあ、田舎育ちの野生児はそれ位出来ないと生き残れなかったのかも知れん」
だからその野生児っていうのやめてほしいんだけどな。
けど、さすがにクラスの子達の見ている前で先生に意見する勇気はない。後で職員室に抗議に行こう。
放課後は、魔法の自主練習をやった。
ソーニャが火魔法を使っていたけど、試験の時みたく動く的は出て来なかった。
「クラス分けテストの時だけだったのかな?動く的」
「え?動く的なんて無かったよ?」
ええ?
「的が動いても当たらんやろ?詠唱待機とか覚えんと」
「詠唱待機って?」
「あれ?マナちゃんが使っているのは詠唱待機じゃないの?先に呪文を唱えておいて、溜めておいて使うのが詠唱待機だよ?」
「魔法って、イメージだけで使うんじゃないの?」
「えっ…まさか完全無詠唱?」
「私はそれが普通だと思ってたけど…でもソーニャも魔法名だけで使ってるよね?」
「簡易詠唱や。ただし、威力はむちゃくちゃ弱なる」
「そっか…だからあんなに小さいファイヤーボールなんだね?」
「それでも戦いには何秒もかけられんやろ。だから簡易詠唱でも強くしたいんや」
マナは少し考えて、いつもの無詠唱と、簡易詠唱を試してみる。
「威力は変わらない…かな?」
「的が燃えてしもうたから分からんが…何でこんな威力が強いん?」
「んー…赤ちゃんの頃から魔法の練習はしてたから?それに赤ちゃんは喋れないから呪文も無理だし」
「確かにそうだけど…赤ちゃんが魔法使おうとするかな?」
「やっぱりAランクの兄ちゃんが側におったから?魔法を間近で見てたからちゃう?」
ルードは赤ちゃんの時はいなかったけど、それを言ったらおかしくなるか。
「かもね。ね…ソーニャは風魔法の練習はしないの?」
「いや…普通にできんから…マナにはうちが風魔法使えると思うん?」
「うん…なんとなく」
「ソーニャちゃん、挑戦してみたら?」
「せやな。ダメ元や」
呪文は授業でやったばかりだから、覚えているようだ。
「おおー!風が吹いたわ!何で分かったん?」
「なんとなくだけど」
「せやな。鑑定持ちでも人のステータスは覗けんし、それこそ上級スキルの看破でも持ってないと」
「私は、水魔法以外に何か使えるかな?」
「さ、さあ…分かんないよ。ソーニャはなんとなく、風魔法も使えるかと思っただけだから」
スキルの話は危険だ。お互いのスキルを探るのはルール違反だし、ましてやこっそり覗くなんて駄目なはずだ。
私も、もう二度とやらない。覗き見なんてやられる方はたまったもんじゃない。
「そろそろジーナの所に行ってみる?訓練終わったかもだし」
「せやな。魔力切れも嫌やし」
やっぱり常識を知らないって怖いな。もう既にボロがぼろぼろと出てるし。…気をつけよう。




