野生児?
基礎練習は冬のうちに充分やったので、初春から、実地訓練が始まる。
今日は、何でもいいから魔物を一匹倒す事。ただし、横殴りは禁止。
外に出たマナは、索敵で魔物を探す。相手はキルラビットで、ホーンラビットの上位種。サクッと狩って、血抜きをして先生に提出した。
「もうかよ。しかもキルラビットとか、田舎育ちは凄いな」
「先生、一言余計」
先生は担任だから、私が魔の森に住んでいる事も知っているんだろうな。
「じゃあ、他の奴ら見てやってくれ。危なそうなら手を貸してやってくれ」
他の子は、魔物を探すのに手間取っているようだ。
索敵とか魔力感知とか使えないのかな?土を掘ればワームとか居るのに。何でもいいならミミズもいいんだよね?
「ジーナ、向こうにまっすぐ進んで、ホブゴブリンだけど大丈夫?」
「え?ありがとう、マナ。大丈夫だ」
範囲は町の前の平原のみ。
ジーナの剣はまっすぐだ。そうやって訓練してきたんだろうけど、それじゃあ足りない。ホブゴブリンは硬そうな木の棒も持っているし、力も強い。
苦戦しているジーナに考えて、マナはホブゴブリンの足下に落とし穴を作った。突然バランスを崩したホブゴブリンに、ジーナがとどめを刺す。
「マナ?いいのかい?」
「私の課題は終わったから、他の子のサポートを頼まれたの」
それだけ言って、他の子を探す。
「リナ、足下にワームがいるよ?」
「そっか、魔物なら何でもいいんだよね。ありがとう」
おっと、ソーニャが苦戦してる。相手はキルラビットか。
「ソーニャ、使うなら風魔法の方がいいよ?素材が駄目になっちゃうから」
「そやかて、うちはこれしか出来ん」
あれ?看破した時は風魔法も出てたのに。
キルラビットは、素早いから、ソーニャは槍を当てる事が出来ない。
マナは、重力魔法でキルラビットの動きを制限する。
「やった!捕ったー!」
ポーラはのんびりと薬草を採取している。
「ポーラ、課題は終わったの?」
「うん。薬草を採取してたらワームを見つけたから、先生に提出した」
ポーラはしっかりと、採取用の水筒も持っている。
「大体終わりですか?先生」
「アルトが戻って来ていない。悪いが一緒に探してくれるか?」
マナは、鷹の目を使う。森の近くでアルトがオークと戦っている!怪我してるじゃん!
「先生、先に行きます!」
全く、森の方には行っちゃ駄目だって言われたじゃん!
全力で走ってアルトに追いつく。
「来るな!短剣で敵う相手じゃない!」
「いいから下がって!怪我してるじゃん!」
頭を飛び蹴りして、オークの喉を掻き切る。そうしておいて、アルトにキュアをかける。
「一撃で…しかも回復魔法?」
「森には近づくなって先生言ってたのに!」
「けど、クラス長の俺が一番強い魔物を狩らないと!」
「そんなのより、命の方が大事だよ!」
マナは、オークの片足を持って引き摺る。収納庫の魔法は隠したかった。
100キロ近いオークを片手で引き摺るマナに、アルトは何も言い返せない。
やっと追いついた先生も、怒る前に吹き出した。
「さすが野生児」
「…蹴りますよ?」
マナは、先生をジト目で見上げる。
「あー…アルト?Eランクでも、オークを単独で狩るのはだめだからな?それに、森には近づくなって言ったろう?」
「済みませんでした…マナが来なかったら死んでました」
オークを引き摺りながら戻ると、みんな引いた。
ん?オークが怖いかな?
「よし!丁度昼めし時だからな。肉を焼くぞ!解体の仕方が分からん奴はしっかり見とけ」
あ!その首無しキルラビットは私の獲物!
「いいか?こういう皮が素材のやつは斬れて傷が付いた所から…ねえな。首を一撃かよ…あー、傷のないものは、こうして腹から切っていく」
解体は慣れているので、マナは時間のかかるオークに手をつける。
「ん?…オークの解体も見とけ。野生児は解体も上手いな」
ちゃんと聞こえたからね?先生。
先生はマジックバッグから、鉄板を出す。周囲の生徒に指示を出して石を集めさせ、組み上げる。
同時に串焼きの仕方も教えている。
その日から、私の呼び名がたまに野生児になった。
悪意は感じないけど、微妙。




