早速絡まれました
今日は、久しぶりに前世の夢を見た。追いかけられて、トイレに逃げ込んだら、上から濡れたモップで突かれた事。教室のぞうきんがけをしていたら、後ろから蹴られて脚に5センチ位の木片が刺さった事。
あれは痛かった。木造でボロい校舎だったからな…。
しばらく思い出していなかったのに、記憶はしっかりと残っているらしい。
「マナ?開けてええか?」
「え…っ!」
「みんな居るで。なんやうなされてたみたいやし。お母ちゃんが恋しくなったか?」
マナがカーテンをそっと開けると、本当にみんないた。
「な、泣くほど淋しいか?!はあ…うちは商売が忙しくて、放っとかれるのが殆どやったし」
ポーラがマナにぎゅっと抱きつく。
「淋しいよね。私も夕べこっそり泣いたもん。みんな一緒だよ?」
「あたしは…そういう甘えは許されてなかったからな…マナは愛されて育ったのだな」
うん…すごく大切にしてもらった。相手は蜘蛛の魔物だけど。
「ごめんね?こんな朝早くに起こしちゃって」
「ええやん。早起きは三文の得や。つまり今日は小銭が拾えるっちゅうことや」
ええ?こっちにもそんな言葉あるの?それとも私みたいな転生者がいた?
「う…さすがに朝方は冷えるな。ちょーポーラ、どいてや」
ソーニャが布団に潜り込んでくる。
「ぬくぬくや」
「あ、ずるい。私も…ほらジーナちゃんも」
「わ、私は…別に」
「何や、照れとるんかいな。マナはぬくいでー?」
「…むう。仲間外れも嫌だからな」
さすがに子供でも、シングルサイズのベッドに四人はきついと思う。
眷族のみんなはぴったりくっついて寝るのが好きだから、こういうのは慣れてるけど。
「こういうのも悪くないな。家にいる時は剣ばかり握っていたから、友人も少なかった」
「うちかて、いろんな場所に行っているから、長続きせえへん。喋り方やて、地方訛りでおかしいし」
「大阪弁みたいでいいと思うけど」
「オオサカ?…うーん。どこやろ?あちこち行っているから分からんわ」
「ま、前に会った冒険者もそんな話し方してたの」
「ふーん。冒険者になって長い?」
「二年半位かな。うちの周りは魔物が強いから、ちょっとみんなよりレベルが高いだけだよ」
「この町も、ギルティア内では魔の森が近いから、他より強い魔物がいるけど、それ以上?」
「そうだね。危険な場所だよ」
「ああ。起床の鐘か。皆、起きよう」
良かった。あまり突っ込んで聞かれたら、ボロが出そう。
教科書は、貸し出しなので自分用ではない。何しろ手書きだから、本は貴重品なのだ。
うん。算数はさすがに勉強要らない。一般教養…これか。
お金やギルドの事。神様の事も載っている。…へえ。犯罪者はスキルの一部が封印されたりするのか。
あれ?加護持ちって稀なの?私…いつの間にか神様全員から加護もらってるんだけど?!
特にサマルト様の加護持ちは、少ない…うーん。ボロが出ないようにしよう。
「マナ、そろそろ校庭に出ないと」
この世界の学校は、体動かしてる時間の方が長い。
知識を詰め込むより魔物から身を守る方が大切だから仕方ない。
校庭に出ると、後ろから肩を叩かれた。
「模擬戦、俺と組んでくれない?」
うわ。私が降りたからクラス長やる事になった子だ。もしかして怒ってる?
「絶対俺、一番だと思ってんだよね。Cランクの実力が知りたい。ランクが下だからって、手を抜いたら承知しないからな」
アルトはそれだけ言って行ってしまった。
どうしよう?手を抜いても抜かなくてもまずい結果になりそうだ。
「何?短剣て、馬鹿にしてるのか?」
私が練習用の木の短剣を持ってきたのが、気に障ったらしい。
アルトは長剣を手にしている。
「私の得意武器だよ。槍も使えるけど、短剣の方が得意」
「あっそ。構えて」
本人は強いと思っているみたいだけど、隙だらけだ。
振り下ろされる剣を、普通に避けただけなのに舌打ちするし。怖い。
「逃げてるだけじゃなくて攻撃しろよ!」
考えて、剣を狙う事にした。アルトの利き腕側に回り込み、その剣をつかんで引く。あっさりと転んだアルトに、剣を向ける。
「私、勝ったよね?」
「くそ!何でだよ!こんなチビより俺の方が弱いのかよ!」
「そうだなー?ちょっと先生でも敵わないかもな?体格差が全くハンデになっていない。対人の攻撃にも対処出来る。諦めろ、アルト」
「教えろ!何でそんなに強いんだ?」
「んー、お兄ちゃんとかに戦い方も教わっているから?」
「…兄ちゃんのランクは?」
「Aランクだよ。歳が離れているから、もう成人してるし」
成人年齢は異世界定番の15歳だし、嘘は言ってない。
「げ…」
「凄いな、マナは」
「お兄ちゃんには全然敵わないけどね」
「何や、あのシスコン兄ちゃんえらい強いんやな」
「ソーニャ、マナの兄に会ったのか?」
「入寮の時にな。えらい男前や。他の子達の姉ちゃんとか母ちゃんとかみとれてたけど、兄ちゃんはマナしか見えてないみたいやったな」
「私も見たよ。そっかー。大事な妹が入る所だから色々チェックしてたんだね」
シスコンか…そんな風に見えなくもないか。ルードは過保護だから。
「あたしもマナに挑戦してみたかったが、止めておこう。マナは人に剣を向けるのにためらいが
あるようだからな」
「怪我させちゃうかと思ったら、嫌だもん。魔物相手なら、躊躇わないけど」
「そりゃそうや」
因みに眷族相手なら、躊躇わない。スカイ以外はみんな私より強いから。四つ足の全力のユキと、いい勝負ができる位かな?
「俺が強くなったらまた勝負してくれよ?マナ!」
「分かった」
うん。恨まれてはなさそう。ちょっとほっとした。




