リル
20階層のボス、ハイオーガをあっさりと倒した。
「あれ?もしかしてここが最下層?」
階段も扉もないって事はそうなんだろうけど、魔物が弱すぎる。そしてラスボス倒したのに、宝箱も何もない。
あれ?でも…何か向こうの壁おかしい?
ただの勘だけど、確かに壁の向こう側に魔力を感じた。
近づいて、壁に手を当てるとスルリと通り抜けた。
(マナ?どこに行った?)
(罠?分かんない)
私の気配を辿ればすぐに追いつくだろうし。
(ダメなのですー!人は入っちゃいけましぇんー!)
階段を降りた先にあったのは、大きな水晶…ダンジョンコア?それと、手のひらサイズの小さな女の子。背中にトンボみたいな透き通る羽根が生えていて、私の行く手を阻んでいるようにみえる。
(妖精?)
(ぐすっ…ましゃか人に見つかるなんて…は?!もしや神様でしゅか?)
(違うけど、ダンジョンコア?)
(うにゅ…たった100年。短い人生でした)
(別に取ったりしないよ?あれを取ったら崩れちゃうんでしょ?)
(その通りでしゅ。やっぱり神様でしゅか?)
(違うよ。ね、どうしてこのダンジョンはこんなに浅くて魔物も弱いの?)
(それは、あたちの力不足でしゅ…弱いダンジョンコアでは、強い魔物は呼べましぇん。それにここの人達は、12階層までしか降りてきましぇんから)
(コアを強くする方法はないの?)
(あたちが強くなれば、コアも強くなって、階層も広がるはずでしゅ…あの、人間さん、魔力を頂けましぇんか?)
(いいよ。私はマナだよ)
(魔力の源の名前でしゅね。あたちはリルでしゅ…頂きましゅ)
妖精が口にたかった…じゃなくてキスされて、魔力を抜かれた。
軽いめまいに、膝をつく。
(大変!美味しすぎて…頂きすぎましたか?)
(平気だよ?それより、微妙に大きくなった?)
(はい!お陰でレベルアップ出来ました!ダンジョンも成長させられそうです!)
あら。喋り方まで変わってる。赤ちゃん口調じゃなくなった。
(マナ!どこだ?マナ!)
(大丈夫。ここにいるよ)
あれ?他のみんなは入れないのかな?
(普通なら誰も入れないはずですが…やっぱり神様ですか?)
(だから、違うよ?)
(そうですか…マナ様、また来て下さいませんか?)
(うん。リル、また来るよ。それと敬語とか無しでいいから)
階段を上って、やっぱりすり抜けた。みんなは壁から突然現れた私にびっくりしたみたいだったけど、どうして私だけすり抜けられたのか、全く分からない。
「ダンジョンコアに、妖精?…聞いた事ないな」
「ルードでも知らないの?」
「管轄外の事か、単に僕が半人前だったから知らされていなかったか」
「考えても分からない事は放置でいいじゃん。とりあえず友達が出来た」
スマホが鳴った。開くとメールが届いていた。
〈マナ、若いダンジョンコアを救ってくれてありがとう。たまにでいいから、魔力を分けてあげるとこちらも助かる。ただ、あまり頻繁にあげると、急激にダンジョンも進化しちゃうから、程々にね〉
うん?リルがダンジョンコアなの?後ろの水晶じゃなくて?
「どうしたの?マナ。スマホをじっと見て」
「ん。サマルト様からメール。妖精さんがダンジョンコアで、助けてくれてありがとうだって」
「し、神託?」
「メールだよ?何で引いているの?ルード」
「いや…それは普通の事じゃないからね?」
「知ってるよ。スマホが神器で、私がスマホのスキルを持っているから一方通行だけど言葉を貰えるって」
「…そうだね。気にかけてもらえるマナはすごいな」
「んー…娘だから?でもリルの事は神様も気にしてたんじゃないかな?」
そのうちまた、遊びに来よう。
ダンジョンを抜けて、少なかったけど、素材も売った。
「ハイオーガの角…久しぶりに見たな。ああ、Aランクなのか。若いのに凄いな。けど、何にも出なかっただろ?」
「さあ?その辺は秘密だな。あとさ、ろくな装備もないのに子供に戦闘させるとかどうかと思うんだけど」
「は?あ、いやそれは…冒険者の判断に委ねられている所もあるので」
「俺、今度ギルティアに行く用事あるから、そこんとこ詳しく聞いてみるかな?」
「!アズバンのギルドを潰す気か!」
「…さあ?知った事じゃねーな。まあ、ここに限った事でもないと思うけど、ちょっと目に余るもの見ちまったからな」
「ポーターには、最大限の配慮をするよう、通達を出すよう、伝えます」
「あっそ」
ルードは私の気持ちを汲んで言ってくれた。でも乱暴な口調が似合わない。
ギルティアに行くのは私だけど、亜空間移動でいつでも行けるんだよね。




